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短編小説集「春を待たずに」片山行茂
【Holy night wishes】
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メリークリスマース!
パンっパンっとクラッカーの音が鳴り響き、複数の女の子達の騒ぐ声がする。
その音に驚いて目を覚ました。
ソファの上、クッションを枕にして、僕は暫く居眠りしていたようだ。
これは、つまり602号室からの音。
隣人はクリスマスパーティーを始めたんだな。
眠い目を擦りながら壁時計に目をやると、丁度8時を挿している。
もうそろそろ、このマンション603号室の主人である、由美ちゃんも帰って来る頃だ。
ぐーんと背伸びをしながら、ふぁーっと生欠伸をする。
僕の名前はセイヤ。
嘘か本当か分からないけど、その昔に少年ジャンプで大人気だった漫画、聖闘士星矢からそのまま取ったらしい。
この10畳のワンルームで由美ちゃんと一緒に暮らしはじめて、もうすぐ3年が経つ。
そして、これと言って何をするでも無く、今日も僕は、この部屋でのんびり過ごしてしまった。
かと言って、元気しか取り柄のない僕だから・・・まぁ、これで良いのだ。
由美ちゃんは、僕が傍にいるだけで、ただそれだけで、いつも喜んでくれるから。
「さぶっ!」
隣の賑やかさは、どこ吹く風、部屋の肌寒さに思わず僕はブルっと来た。
「やばい!風邪引いちゃうよ」
ヒーターを点けるわけにも行かないし、今度は急いでベッドの毛布に滑り込み、頭だけを覗かせる。
「あー、道理で今夜は冷える筈だ」
窓の外、ベランダの向こうではチラチラと雪が舞っているもの。
隣の部屋からは、微かにクリスマスキャロルが聴こえる。
由美ちゃんと出会って、今日が二度目のクリスマスイブかぁ。
暖かい毛布に包まって、由美ちゃんの匂いを感じ、ロマンチックな気分に酔いしれている。
そうして僕は、本当に由美ちゃんが大好きだと実感する。
早く彼女と抱きしめあいたい。
これこれが、本当の愛と呼べるだろう。
そうこうしていると鍵が回り、扉を開く音がした。
由美ちゃんだ!
僕は、毛布からゆっくり上半身を起こした。
「あ、セイヤ起きてたの?ただいまー!すぐ暖房付けるね!」
『うん、お帰り』
「もう、めちゃくちゃ外寒いよー、だって雪降ってんだもん」
そう言いながら、コートを脱ぎ、由美ちゃんは僕のところに駆け寄って、僕の鼻に頬を寄せた。
『ひゃっ、冷たっ!』
と仰け反る僕を見て、由美ちゃんはキャッキャッと笑ってる。
そんな由美ちゃんも、僕は大好きだ。
「お隣さん、騒がしいねー。良いなぁ、楽しそうで。ねぇ?セイヤ、私たちも混ぜて貰おうっか?」
『そんなバカな』
そう答える僕に、由美ちゃんは「ジャーン」と言いながら白と赤の箱を見せた。
「ほら!美味しいチキンを買って来たからさ、セイヤも一緒に食べよう」
『わ、有難う!』
「それと、美味しいお魚も買って来たから後で食べようね」
『うん!』
「ふふふ。今夜はクリスマスイヴだしさ、ちょっとワインでも飲もうかなぁ?」
鼻歌混じりで由美ちゃんは、キッチンへと向かう。
きっと君は来ない~♫
1人きりのクリスマスイブ~ フウウ
サイレントナイト ホーリーナイト♫
上機嫌な由美ちゃんは赤ワインとグラスを手にくるくる回りながら歌ってる。
そして、お酒が飲めない僕には、ミルクを少し温めて持って来てくれた。
本当に愛しい。
「セイヤ、メリークリスマス!」
赤ワインとミルクでカタチだけの乾杯をして、由美ちゃんはワインを美味しそうに飲んだ。
「今夜は2人きりで、クリスマスパーティーだね」
キラキラした瞳で僕に笑いかける由美ちゃん。
イヴの夜に2人きり。
最高にロマンチックな夜。
僕は、由美ちゃんに寄り掛かるように身体を擦り寄せた。
『由美ちゃん、大好きだよ』
暫くして、テーブルの上の携帯がブルブルと音を立てた。
着信の相手を見て、一気に由美ちゃんの表情が曇る。
「わ、お母さんだ・・・やばいな」
由美ちゃんは携帯を横目に出る様子がない。
「この前、法事で帰ったところだから、お正月は実家には、帰らなくて良さそうなんだけどさ・・・彼氏は?とか、結婚は?とか、最近煩いんだよねぇ」
僕も、ここへ来てすぐ、携帯の画面越しに挨拶しただけで、あんまり好かれた様子で無かったから、正直少し気不味い。
「私も、来年26歳だし、周りもパタパタ片付いて行ってるしねぇ、お祝い貧乏だよ」
そうしてる内に着信が切れた。
「あ、友達といるってLINEしとこー」
『・・・う、うん。』
LINEを打ち終え、履歴を見返しながら、由美ちゃんの顔が、より曇ってくのを感じた。
『どうかしたの?』
暫くして、ため息混じりに由美ちゃんが言う。
「政岡さんさ・・・やっぱり直前になって、ドタキャンされちゃったよ」
『え?!』
僕は、とってもがっかりした。
『だって、あの人、奥さんいるんでしょ?』
由美ちゃんは、まるで上の空で呟く。
「今年のイヴは、何とかするとか言ってたくせに・・・」
『そうなんだ・・・。もうアイツとは、とっくに終わったと思ってたよ・・・』
由美ちゃんの肩が微かに震え出す。
何だかとても悔しいと思った。
『ねぇ、たくさん酷い目にあったじゃない?』
由美ちゃんは、僕の問いかけに何も答えない。
『もう、さっさと諦めなよ』
由美ちゃんの瞳から、ポロポロと涙が溢れ落ちる。
2人の部屋には、隣人達の陽気な声だけが響いていた。
分かってるよ、恋は盲目で、僕の言葉なんて、まるで君には届かない。
だけど、僕は諦めない。
そう心で強く思いながら、僕は由美ちゃんの手の甲に落ちた涙の粒をペロペロと舐めた。
「セイヤ・・有難う。慰めてくれるの?」
はっとした由美ちゃんは、僕を抱きしめ耳元で嘆いた。
「あーぁ、全く・・・セイヤが人間だったら良いのに・・・」
だから、僕も心の底から言った。
「ニャーオ」
そしたら由美ちゃんは、煌めく星みたいな笑顔を浮かべ、僕を抱きしめてくれた。
『あぁ・・・君も、猫だったら良いのに』
サンタさん、マリアさま、キリストさま、お願いです。
どうか、僕らのこの願いを、今宵叶えてください!!
-fin-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Holy night wishes」
作詞・作曲:片山行茂
雪が降る 煌めく夜の街に
遠くで聴こえる クリスマスキャロル
誰もが特別な日に心躍らせて
今宵夢を抱く
この胸にそっと灯る想い
君には届かぬ 恋のキャンドル
この胸焦がすけど 君気付かないままに
淡い夢が積もる
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
大好きな君とホーリーナイト
真っ白な心が舞う
間奏>
永遠の愛を誓う
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
大好きな君とホーリーナイト
真っ白な心が舞う
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
大好きな君とホーリーナイト
真っ白な心が舞う
真っ白な心が舞う
パンっパンっとクラッカーの音が鳴り響き、複数の女の子達の騒ぐ声がする。
その音に驚いて目を覚ました。
ソファの上、クッションを枕にして、僕は暫く居眠りしていたようだ。
これは、つまり602号室からの音。
隣人はクリスマスパーティーを始めたんだな。
眠い目を擦りながら壁時計に目をやると、丁度8時を挿している。
もうそろそろ、このマンション603号室の主人である、由美ちゃんも帰って来る頃だ。
ぐーんと背伸びをしながら、ふぁーっと生欠伸をする。
僕の名前はセイヤ。
嘘か本当か分からないけど、その昔に少年ジャンプで大人気だった漫画、聖闘士星矢からそのまま取ったらしい。
この10畳のワンルームで由美ちゃんと一緒に暮らしはじめて、もうすぐ3年が経つ。
そして、これと言って何をするでも無く、今日も僕は、この部屋でのんびり過ごしてしまった。
かと言って、元気しか取り柄のない僕だから・・・まぁ、これで良いのだ。
由美ちゃんは、僕が傍にいるだけで、ただそれだけで、いつも喜んでくれるから。
「さぶっ!」
隣の賑やかさは、どこ吹く風、部屋の肌寒さに思わず僕はブルっと来た。
「やばい!風邪引いちゃうよ」
ヒーターを点けるわけにも行かないし、今度は急いでベッドの毛布に滑り込み、頭だけを覗かせる。
「あー、道理で今夜は冷える筈だ」
窓の外、ベランダの向こうではチラチラと雪が舞っているもの。
隣の部屋からは、微かにクリスマスキャロルが聴こえる。
由美ちゃんと出会って、今日が二度目のクリスマスイブかぁ。
暖かい毛布に包まって、由美ちゃんの匂いを感じ、ロマンチックな気分に酔いしれている。
そうして僕は、本当に由美ちゃんが大好きだと実感する。
早く彼女と抱きしめあいたい。
これこれが、本当の愛と呼べるだろう。
そうこうしていると鍵が回り、扉を開く音がした。
由美ちゃんだ!
僕は、毛布からゆっくり上半身を起こした。
「あ、セイヤ起きてたの?ただいまー!すぐ暖房付けるね!」
『うん、お帰り』
「もう、めちゃくちゃ外寒いよー、だって雪降ってんだもん」
そう言いながら、コートを脱ぎ、由美ちゃんは僕のところに駆け寄って、僕の鼻に頬を寄せた。
『ひゃっ、冷たっ!』
と仰け反る僕を見て、由美ちゃんはキャッキャッと笑ってる。
そんな由美ちゃんも、僕は大好きだ。
「お隣さん、騒がしいねー。良いなぁ、楽しそうで。ねぇ?セイヤ、私たちも混ぜて貰おうっか?」
『そんなバカな』
そう答える僕に、由美ちゃんは「ジャーン」と言いながら白と赤の箱を見せた。
「ほら!美味しいチキンを買って来たからさ、セイヤも一緒に食べよう」
『わ、有難う!』
「それと、美味しいお魚も買って来たから後で食べようね」
『うん!』
「ふふふ。今夜はクリスマスイヴだしさ、ちょっとワインでも飲もうかなぁ?」
鼻歌混じりで由美ちゃんは、キッチンへと向かう。
きっと君は来ない~♫
1人きりのクリスマスイブ~ フウウ
サイレントナイト ホーリーナイト♫
上機嫌な由美ちゃんは赤ワインとグラスを手にくるくる回りながら歌ってる。
そして、お酒が飲めない僕には、ミルクを少し温めて持って来てくれた。
本当に愛しい。
「セイヤ、メリークリスマス!」
赤ワインとミルクでカタチだけの乾杯をして、由美ちゃんはワインを美味しそうに飲んだ。
「今夜は2人きりで、クリスマスパーティーだね」
キラキラした瞳で僕に笑いかける由美ちゃん。
イヴの夜に2人きり。
最高にロマンチックな夜。
僕は、由美ちゃんに寄り掛かるように身体を擦り寄せた。
『由美ちゃん、大好きだよ』
暫くして、テーブルの上の携帯がブルブルと音を立てた。
着信の相手を見て、一気に由美ちゃんの表情が曇る。
「わ、お母さんだ・・・やばいな」
由美ちゃんは携帯を横目に出る様子がない。
「この前、法事で帰ったところだから、お正月は実家には、帰らなくて良さそうなんだけどさ・・・彼氏は?とか、結婚は?とか、最近煩いんだよねぇ」
僕も、ここへ来てすぐ、携帯の画面越しに挨拶しただけで、あんまり好かれた様子で無かったから、正直少し気不味い。
「私も、来年26歳だし、周りもパタパタ片付いて行ってるしねぇ、お祝い貧乏だよ」
そうしてる内に着信が切れた。
「あ、友達といるってLINEしとこー」
『・・・う、うん。』
LINEを打ち終え、履歴を見返しながら、由美ちゃんの顔が、より曇ってくのを感じた。
『どうかしたの?』
暫くして、ため息混じりに由美ちゃんが言う。
「政岡さんさ・・・やっぱり直前になって、ドタキャンされちゃったよ」
『え?!』
僕は、とってもがっかりした。
『だって、あの人、奥さんいるんでしょ?』
由美ちゃんは、まるで上の空で呟く。
「今年のイヴは、何とかするとか言ってたくせに・・・」
『そうなんだ・・・。もうアイツとは、とっくに終わったと思ってたよ・・・』
由美ちゃんの肩が微かに震え出す。
何だかとても悔しいと思った。
『ねぇ、たくさん酷い目にあったじゃない?』
由美ちゃんは、僕の問いかけに何も答えない。
『もう、さっさと諦めなよ』
由美ちゃんの瞳から、ポロポロと涙が溢れ落ちる。
2人の部屋には、隣人達の陽気な声だけが響いていた。
分かってるよ、恋は盲目で、僕の言葉なんて、まるで君には届かない。
だけど、僕は諦めない。
そう心で強く思いながら、僕は由美ちゃんの手の甲に落ちた涙の粒をペロペロと舐めた。
「セイヤ・・有難う。慰めてくれるの?」
はっとした由美ちゃんは、僕を抱きしめ耳元で嘆いた。
「あーぁ、全く・・・セイヤが人間だったら良いのに・・・」
だから、僕も心の底から言った。
「ニャーオ」
そしたら由美ちゃんは、煌めく星みたいな笑顔を浮かべ、僕を抱きしめてくれた。
『あぁ・・・君も、猫だったら良いのに』
サンタさん、マリアさま、キリストさま、お願いです。
どうか、僕らのこの願いを、今宵叶えてください!!
-fin-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Holy night wishes」
作詞・作曲:片山行茂
雪が降る 煌めく夜の街に
遠くで聴こえる クリスマスキャロル
誰もが特別な日に心躍らせて
今宵夢を抱く
この胸にそっと灯る想い
君には届かぬ 恋のキャンドル
この胸焦がすけど 君気付かないままに
淡い夢が積もる
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
大好きな君とホーリーナイト
真っ白な心が舞う
間奏>
永遠の愛を誓う
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
大好きな君とホーリーナイト
真っ白な心が舞う
この気持ち 届けホワイトクリスマス
ひとつだけ 願いを叶えて
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真っ白な心が舞う
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