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相葉悠一 編

第4話「渡辺明日奈」

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 つらい現実から目を逸らすべく、オレは日の傾きかけた、窓の外に目を向けた。

 窓から、運動部の練習風景が見える。さまざまな人間たちが、思い思いに動き回っていた。あるやつは大声を出し、あるやつはそれに応えている。一つ一つの目標に向かって、真っ直ぐ進んでいるように見えた。

 夕暮れに染まる彼らは、青臭い言い方だが、キラキラ輝いていた。

 やつらの汗だろうか。若さだろうか。ほとばしる肉体? きっと、スポーツをしているやつらは、それだけで美しくて、稀有な存在なんだ。

 同じ人間なのに、オレとはまったく別な生き物に見える。
 
 自分が、惨めでちっぽけな人間であると言われているようで、いたたまれず、オレは視線を無理やり、グラウンドの奥の方にある、女子のテニスコートに視線を移した。
  
 別の意味で、キラキラ輝いていた。
 眩しかった。
 
 ラケットを振りぬく時に揺れる、柔らかそうな胸、スコートからのぞく、白くてみずみずしい脚。あー、あいつら、やらせてくれないかな。
  
「相葉君っ、聞いてる?」

 オレのピンクな妄想世界を、黄色いヒステリックな声が打ち破った。ヒステリック放送局は、眉間に皺を寄せて、オレを睨んでいた。
  
「なんだよ」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」

 ないよっ、全然!
 
 オレは渡辺に向き直って、逆に睨みつけてやった。

「で、なにやればいいわけ。言ってくんなきゃ、分かんないじゃん? あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー。このあと、用事あるしさ、さくっと指示してくれない?」
  
 オレは、今日起こったすべてのイラツキの原因が、目の前にいる、渡辺のせいだと言わんばかりに、捲くし立てた。

 怒鳴ったあと、少し後悔した。

 確かに、渡辺のヒステリックな声は、オレをイラつかせた、ワンオブ原因ではあったが、すべての責任はオレにあって、渡辺のせいではない。

 単なる八つ当たりだった。
 渡辺は、さほど大きくない目を丸くしていた。
  
 やばっ。

 泣かれたりでもしたら、厄介だ。
 女ってもんは、やたら泣くものだ。
  
 だが、そんな心配は無用だった。

 渡辺の目は、すぐに通常の大きさに戻ると、そのまなざしは、机の上の書類に向かった。
  
「用事? また理科室で、お友達と猥談わいだん?」
  
 今度はオレが、目を丸くする番だった。
 

つづく
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