上 下
51 / 68
渡辺明日奈 編

第52話「ライオンと一角獣」

しおりを挟む
「食料を奪って、大切な人に与えるわ」
「それは他人を犠牲にしても、という意味かね」
「そうよ」
「なんともワガママで、自己中心的で、短絡的だね。実に“人間”らしいよ」
  
 タマゴのお化けは、自分の背中から黒く艶やかなステッキを取り出すと、それを地面に突き立てた。ゆっくりとステッキが倒れる。
 
「こっちに行くといい」

 そんな無責任な。

「運命がそう言っている」
  
***
  
 半ば呆れつつも、私はステッキの指示す方に進んだ。フッ“運命”ね。もし私が、本に辿りつける運命だとしたら、こっちの道は、正しいということだ。

 そして私には、この先なにが待ち受けているか、だいたいの見当がついていた。ライオン、一角獣、白いナイト。きっとこんな感じに違いない。

 そう、私はあることを思い出したのだ。
  
***

 指し示された方向へ、しばらく森の中を歩いていると、涼やかな美しいせせらぎが聞こえて来た。そういえば、どれだけ歩いただろうか。足はパンパンで喉はカラカラ。私は音のする方へ重い足を引き摺り、必死に歩いた。
  
***

 気が付けば、鬱蒼としていた森を抜けていた。ここは木々がまばらでだいぶ見通しがいい。先ほどから聞こえていた、せせらぎの音を生み出す、渓流に出たようだ。
  
 川上の岸辺に、二つの影が見える。もしかしてと思い、私はそっとその影に近づいた。
  
 ライオンと一角獣が王冠を中央に据え、全力疾走した後のように、息を切らせ倒れていた。いや、実際走り回っていたのだろう、その王冠を巡って。
 
 確かに、こんな……感じだった。
  
「おやつの時間だから、ちょっと休憩だ」
「そうしよう。だが、肝心のお菓子がない」

 そう、いまさらライオンが喋ろうが、一角獣が喋ろうが、私は驚かない。

「そこのお嬢さん、ポケットからいい匂いがする。お菓子を、持っているんじゃないのかい」
「え。私、お菓子なんて、持ってな……」

 そう答えながら、私はスカートのポケットを弄ってみる。さっきまで手紙が入っていたはずなのに、いつの間にか飴玉に替わっている。

 一体、いつの間に。

「おおっ。キャンディーじゃないかねっ」
「それをくれたら、いいことを教えてあげよう」
 
 来たっ。

「差し上げます」
「おおっ。プラムキャンディーだ」
「これは美味いなっ」

 ライオンと一角獣は幸せそうに、キャンディーを頬張っていた。

「それで、なにを教えてくださるの」
「貴方の大切な人は、悪魔に目玉をえぐられてしまいました」
「貴方ならどうする?」
 

つづく
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

その演劇部は、舞台に上がらない

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:313pt お気に入り:7

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:67,891pt お気に入り:23,353

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:40,035pt お気に入り:29,916

新 或る実験の記録

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:12

献身的な残酷人

ホラー / 連載中 24h.ポイント:711pt お気に入り:0

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:965pt お気に入り:67

レディース異世界満喫禄

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,046pt お気に入り:1,179

システムエンジニア清原達郎を越えた男

経済・企業 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:1

転生ババァは見過ごせない!~元悪徳女帝の二周目ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,125pt お気に入り:13,494

処理中です...