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第67話「三周目〜真相〜」
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「さて……」
朝食を済ませた後、白が改めて斗哉と心乃香の前に座った。何やら和書を携えている。
「少し調べたのですが、早急にクロ様を連れて、お帰りになった方が良いです」
「改まって、何。どう言うこと?」
心乃香はなんだか嫌な予感した。隣に座る斗哉も息を呑む。
「お二人は、斗哉様の近親者が神隠しにあった件で、クロ様を探しに来られたようですが……」
「神隠し?」
聞き慣れない言葉に、二人はギョッと身をすくませた。
「昨日の七月十九日に一人、そして本日七月二十日にも一人、斗哉様の〝近しい方”が消えております」
「えっ!」
斗哉はどういうことだと、身を乗り出した。
「クロ様は正確には『神』とは違うのです。無念のうちに散った為、怨霊と化した黒猫なのです。ただその場所が神域だった為、神のような力を得た……と言いますか」
そう言うと白は、持っていた和書をペラペラと捲った。
「問題の七月十三日は、そちらの神社はお祭りだったのではないですか。それも良くなかった。その日にクロ様の生前の無念の想いと、斗哉様が大怪我した為の汚れ、心乃香様の怨情からくる強い『言霊』のこの三つの力が重なって、クロ様は『祟り神』になったのです」
とても簡単には信じられないことを、立て続けに言われて二人は呆然とした。
「申し上げにくいですが、クロ様が祟り神になった際、最初にその力の恩恵を受けた斗哉様は呪われています。そして『呪い』なので、わたくしども神側にはどうすることもできません。そしてここからが重要なのですが……」
まだこれ以上ショックなことがあるのかと、斗哉は信じられない思いだった。
「この神隠し、斗哉様が関わって来た『絆のある者』がすべて消えるまで、終わることは恐らくないでしょう」
『えっ?』
二人はあまりのことに、声を揃えて驚いた。
「斗哉様という人間を構成するのに、重要だった『順番』に消えていくようです。要は貴方が大切だと思っていた方々から、消えていくということです」
斗哉は居ても立っても居られなくなり、立ち上がった。心乃香はその斗哉の顔を見上げた。痛々しいくらいに真っ青だった。
斗哉はとても交友関係が広かった。まさに彼にとって人との繋がりが、彼を作り上げてきた『一部』たちだったのだろうと心乃香は思った。
「……どうすれば」
斗哉は譫言のように呟いた。既に自分のせいで六人も人が消えてる。早く戻ってクロに何とかしてもらわないと、もっと大変なことになる。
「斗哉様、怨霊は呪いは掛けられても、解くことはできないのです。その『方法』をクロ様は、探しに来たのかもしれません」
白は相変わらず円座の上でへばり切っている、黒猫を見遣った。
「怨霊は地縛した場所で、より強い力を発揮します。早く戻って処置しなければ、更に被害が拡大するでしょう。そして一度消えれば、もう元には戻りません。更に申し上げ難いのですが、既に消えている六人は、もう戻らないでしょう」
斗哉はその言葉を聞くとクロを掴み、もの凄い勢いで広間から飛び出した。蝋燭の回廊を泣きそうになりながら走っていく。
(早く、早く戻らないと、もっと大変なことになる)
その先に大きな扉が見えた。その扉に向かって、斗哉がむしゃらになって走った。
(ごめん、父さん、母さんっ。陸、将暉……)
失われるなんて思ってなかった。自分の周りに、当たり前に居てくれる人たちだと思ってた。もう、二度と会えないなんて――斗哉の脈が速くなる。
(こんなことになるなんて、思ってなかった)
斗哉は今まで自分がしてきた行いが、すべて間違っている気がした。後悔する――
(それでまた、やり直すのか)
斗哉は頭を振った。一度してしまったことはもう、取り消せないんだ。
(せめて、もう自分の大切なものが、これ以上こぼれ落ちないように、何とかしなければ)
斗哉は溢れてくる涙をぐいっと腕で拭いながら、門の外に飛び出した。
つづく
朝食を済ませた後、白が改めて斗哉と心乃香の前に座った。何やら和書を携えている。
「少し調べたのですが、早急にクロ様を連れて、お帰りになった方が良いです」
「改まって、何。どう言うこと?」
心乃香はなんだか嫌な予感した。隣に座る斗哉も息を呑む。
「お二人は、斗哉様の近親者が神隠しにあった件で、クロ様を探しに来られたようですが……」
「神隠し?」
聞き慣れない言葉に、二人はギョッと身をすくませた。
「昨日の七月十九日に一人、そして本日七月二十日にも一人、斗哉様の〝近しい方”が消えております」
「えっ!」
斗哉はどういうことだと、身を乗り出した。
「クロ様は正確には『神』とは違うのです。無念のうちに散った為、怨霊と化した黒猫なのです。ただその場所が神域だった為、神のような力を得た……と言いますか」
そう言うと白は、持っていた和書をペラペラと捲った。
「問題の七月十三日は、そちらの神社はお祭りだったのではないですか。それも良くなかった。その日にクロ様の生前の無念の想いと、斗哉様が大怪我した為の汚れ、心乃香様の怨情からくる強い『言霊』のこの三つの力が重なって、クロ様は『祟り神』になったのです」
とても簡単には信じられないことを、立て続けに言われて二人は呆然とした。
「申し上げにくいですが、クロ様が祟り神になった際、最初にその力の恩恵を受けた斗哉様は呪われています。そして『呪い』なので、わたくしども神側にはどうすることもできません。そしてここからが重要なのですが……」
まだこれ以上ショックなことがあるのかと、斗哉は信じられない思いだった。
「この神隠し、斗哉様が関わって来た『絆のある者』がすべて消えるまで、終わることは恐らくないでしょう」
『えっ?』
二人はあまりのことに、声を揃えて驚いた。
「斗哉様という人間を構成するのに、重要だった『順番』に消えていくようです。要は貴方が大切だと思っていた方々から、消えていくということです」
斗哉は居ても立っても居られなくなり、立ち上がった。心乃香はその斗哉の顔を見上げた。痛々しいくらいに真っ青だった。
斗哉はとても交友関係が広かった。まさに彼にとって人との繋がりが、彼を作り上げてきた『一部』たちだったのだろうと心乃香は思った。
「……どうすれば」
斗哉は譫言のように呟いた。既に自分のせいで六人も人が消えてる。早く戻ってクロに何とかしてもらわないと、もっと大変なことになる。
「斗哉様、怨霊は呪いは掛けられても、解くことはできないのです。その『方法』をクロ様は、探しに来たのかもしれません」
白は相変わらず円座の上でへばり切っている、黒猫を見遣った。
「怨霊は地縛した場所で、より強い力を発揮します。早く戻って処置しなければ、更に被害が拡大するでしょう。そして一度消えれば、もう元には戻りません。更に申し上げ難いのですが、既に消えている六人は、もう戻らないでしょう」
斗哉はその言葉を聞くとクロを掴み、もの凄い勢いで広間から飛び出した。蝋燭の回廊を泣きそうになりながら走っていく。
(早く、早く戻らないと、もっと大変なことになる)
その先に大きな扉が見えた。その扉に向かって、斗哉がむしゃらになって走った。
(ごめん、父さん、母さんっ。陸、将暉……)
失われるなんて思ってなかった。自分の周りに、当たり前に居てくれる人たちだと思ってた。もう、二度と会えないなんて――斗哉の脈が速くなる。
(こんなことになるなんて、思ってなかった)
斗哉は今まで自分がしてきた行いが、すべて間違っている気がした。後悔する――
(それでまた、やり直すのか)
斗哉は頭を振った。一度してしまったことはもう、取り消せないんだ。
(せめて、もう自分の大切なものが、これ以上こぼれ落ちないように、何とかしなければ)
斗哉は溢れてくる涙をぐいっと腕で拭いながら、門の外に飛び出した。
つづく
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