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第二章
第15話「あの日、出来なかったこと」
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田舎道なので外灯はまばらだったが、月が出ていたので、そんなに視界の悪さは気にならなかった。
普段自分が乗っている自転車は、暗くなると勝手にライトが点灯する、ごく普通の自転車だったので、全く気にしていなかったが、アキラが持ってきた自転車は、手動でライトを点けるタイプで、それに気が付くのにしばらく時間が掛かった。
ライトを点灯すると途端に負荷が掛かり、ペダルが重くなる。なんだこの旧式自転車!
アキラは俺の後ろで「漕ぐの変わろうか~?」とニヤニヤしている。
もし一人だったら面倒だと、ライトを切ってしまったかもしれないが、ここまで煽られて、絶対切るわけには行かないと思った。
田舎の夏の夜というのは、不思議と都会ほど蒸し暑くないのだ。涼しいと感じる時さえある。
ライトの負荷とアキラの体重分は重かったが、それでも夜のサイクリングは、思いの外、気持ちいいと感じた。
そんな気分だったので、俺はフッとアキラに話を振ってみた。
「……俺さ、ずっと気になってたんだけど、なんで、お前俺のこと、呼び捨てなんだよ?」
「は?」
「お前、俺より年下だろ?」
だよな……一応?
アキラの両親が挨拶に来た時、名前は聞いたが、年はちゃんと聞かなかった気がする。
「学年はね。でも年は同じじゃない? 皓平、まだ十二歳でしょ?」
俺は秋生まれなので、中一だが、まだ十二歳だ。
って、……同い年ってまさか……
「私も十二歳だよ。小六だけどね」
一つしか、違わなかったのか……
じゃ、初めて会った時は、小四だったってこと?
「それに私自分より背の低い男は、呼び捨てにする主義だから」
ハハハと、アキラが軽快に笑った。
ぐわっ!
おのれ……いけしゃーしゃーと!!
二年前は、あんなにチビだったくせに!!
くそー! 今に見てろ、この女!!
俺はとりあえず腹に溜まった怒りパワーで、自転車のスピードを上げた。
***
もう一時間くらいは、自転車を漕いでいた。
祖父母の家を出たばかりの余裕は、もう俺にはなくなっていた。
足の疲労と、吹き出している汗が体にまとわりつき、体力が大分落ちて来ているのが、自分でも分かる。だから夏は嫌なんだ。
でも、疲れたとは絶対言いたくなかった。
それに、ここで漕ぐのをやめるということは、俺の知りたかった答えに、たどり着けない気がした。
行く道の途中、目的を話すって言ったのに……アキラのやつ、寝ちゃったのかな?
そういえば二年前のあの日、アキラは電車の中で、ぐっと目を閉じたままだった。
――嵐の前の静けさのように。
「このペースだと、後三十分くらいかな? 疲れたんなら、代わろうか?」
アキラが絶妙なタイミングで、口を開いた。
「全然、疲れてねーよ! それより、駅に何の用があるんだよ?」
「正確には、駅じゃないんだけどね」
「え?」
「あの日、出来なかったことを、もう一度やり遂げに行くのよ」
アキラの声は、薄暗い田舎道に静かに響いた。
あの日……出来なかったこと……
それは……
つづく
普段自分が乗っている自転車は、暗くなると勝手にライトが点灯する、ごく普通の自転車だったので、全く気にしていなかったが、アキラが持ってきた自転車は、手動でライトを点けるタイプで、それに気が付くのにしばらく時間が掛かった。
ライトを点灯すると途端に負荷が掛かり、ペダルが重くなる。なんだこの旧式自転車!
アキラは俺の後ろで「漕ぐの変わろうか~?」とニヤニヤしている。
もし一人だったら面倒だと、ライトを切ってしまったかもしれないが、ここまで煽られて、絶対切るわけには行かないと思った。
田舎の夏の夜というのは、不思議と都会ほど蒸し暑くないのだ。涼しいと感じる時さえある。
ライトの負荷とアキラの体重分は重かったが、それでも夜のサイクリングは、思いの外、気持ちいいと感じた。
そんな気分だったので、俺はフッとアキラに話を振ってみた。
「……俺さ、ずっと気になってたんだけど、なんで、お前俺のこと、呼び捨てなんだよ?」
「は?」
「お前、俺より年下だろ?」
だよな……一応?
アキラの両親が挨拶に来た時、名前は聞いたが、年はちゃんと聞かなかった気がする。
「学年はね。でも年は同じじゃない? 皓平、まだ十二歳でしょ?」
俺は秋生まれなので、中一だが、まだ十二歳だ。
って、……同い年ってまさか……
「私も十二歳だよ。小六だけどね」
一つしか、違わなかったのか……
じゃ、初めて会った時は、小四だったってこと?
「それに私自分より背の低い男は、呼び捨てにする主義だから」
ハハハと、アキラが軽快に笑った。
ぐわっ!
おのれ……いけしゃーしゃーと!!
二年前は、あんなにチビだったくせに!!
くそー! 今に見てろ、この女!!
俺はとりあえず腹に溜まった怒りパワーで、自転車のスピードを上げた。
***
もう一時間くらいは、自転車を漕いでいた。
祖父母の家を出たばかりの余裕は、もう俺にはなくなっていた。
足の疲労と、吹き出している汗が体にまとわりつき、体力が大分落ちて来ているのが、自分でも分かる。だから夏は嫌なんだ。
でも、疲れたとは絶対言いたくなかった。
それに、ここで漕ぐのをやめるということは、俺の知りたかった答えに、たどり着けない気がした。
行く道の途中、目的を話すって言ったのに……アキラのやつ、寝ちゃったのかな?
そういえば二年前のあの日、アキラは電車の中で、ぐっと目を閉じたままだった。
――嵐の前の静けさのように。
「このペースだと、後三十分くらいかな? 疲れたんなら、代わろうか?」
アキラが絶妙なタイミングで、口を開いた。
「全然、疲れてねーよ! それより、駅に何の用があるんだよ?」
「正確には、駅じゃないんだけどね」
「え?」
「あの日、出来なかったことを、もう一度やり遂げに行くのよ」
アキラの声は、薄暗い田舎道に静かに響いた。
あの日……出来なかったこと……
それは……
つづく
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