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第三章 指切
第五十七話
しおりを挟む時の流れを刻む時計の音が憎らしい。ベッドでもつれ合うように抱き合い、互いの体温を与え合う今が遥希にとっての永遠だった。
また別れの言葉を告げられたらどうしよう、やはり心変わりをして捨てられたらもう二度と立ち直ることはできない。そんな不安に心が押しつぶされてしまいそうだ。
けれどこの時を目に焼きつけておこうと、遥希は精悍な顔を見つめて離さない。
重みのない小さな頭を腕に抱く一大は、自身の胸にしがみつき小刻みに震える遥希が愛しくて堪らない。彼の不安は一大にも伝わっていて、どうにかして拭ってやりたいと考える。
そしてひとつの答えがでた。それを伝える。
「なあ遥希」
「……何」
「今日まで俺さ、遥希を傷つけてきたよな。おまえがあいつとつき合ってるって知ったとき、俺すごく嫉妬して狂うかと思った。こんな思いを遥希はずっと味わってきたんだよな。
俺ぜんぜん知らなかった。考えたことも気づくこともなかった。逆の立場になってみて初めて痛みを知ったよ。ごめんな」
黙って耳をかたむける遥希に、天井を見ながら一大はつづける。
「出世することに目がくらんで馬鹿な結婚をしちまった。それも自分の手でぶっ壊してさ、今では女房にも疎まれる有り様だ。ほんとう馬鹿だよな俺。
もう戻りたくねえ。何もかも捨ててしまいたい。全部なくして真っ白ンなって、初めから遥希とやり直したい。なあ遥希、俺と……駆け落ちしないか」
「──えっ?」
一大から思いもよらない言葉を聞いた遥希、すぐに理解ができずに軽く混乱する。けれどつぎの瞬間には息を呑み、許されない重罪と得難い幸福に胸が締めつけられた。
俺のためにすべてを捨ててくれる、一大が俺のために───
恐怖と喜びに遥希は震え、ようやく心が満たされた。一大が捨てるなら俺も捨てる、どこまでも一大についていく。
愛する男の胸に頬をよせると、遥希はひと言「連れてって」と口にした。
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