船を建てた男 ~信長の鉄甲船 建造物語~

九條葉月

文字の大きさ
16 / 34

こいつは……

しおりを挟む
 夜。
 鉄介は頭を悩ませていた。

 船の形は大体決まったし、九鬼嘉隆からの許しも得た。船を造り始める前に決めるべきことは、あとは帆柱をどうするかだ。

 通常、和船の帆柱は一旦引き抜き、横倒しにして船体の上に固定することになる。そうすれば停泊時の安定性が増すためだ。それに、船の上に載せておけばすぐに帆柱を立てて、航海に出ることができる。

 しかし、ここで問題が一つあった。

 信長好みの南蛮風――つまりは、船体の前後に一つずつ矢倉を造ってしまうと、倒した帆柱を横倒しにできないのだ。これで矢倉が一つであれば、矢倉に貫通させた穴に通して帆柱を倒すことができるのだが……。

(そもそも、前後に矢倉があると甲板上が狭すぎる。帆柱を倒すことすらできぬかもしれぬ)

 試しに鉄介は作物(立体指図)を造ってみることにした。今で言う模型。木を削り出して造った簡易なものだが、帆柱をどう倒したものか検討することはできる。

(やはり無理だ)

 どう検討しても、船体の前後に矢倉があっては上手いこと帆を収納することはできない。帆柱を短くすれば何とかなるが、それでは本来の目的である帆を張ることが難しくなってしまう。

(いっそのこと、帆柱を倒さずに立てたまま固定してしまうか? 南蛮の船も、明の船もそうであるという)

 信長も南蛮風のものが好きなのだから問題はないはず。そう考えた鉄介だが、すぐに自ら否定する。

 この船の目的は、海上の砦となること。
 海の上で大筒や鳥銃(長銃)を放ち、村上水軍の盲船を近づけさせぬことを第一とする。無論、近づかれて焙烙玉を投げ込まれたときのために鉄板張りはするのだが、村上相手に接近戦は不利。その前に火力でもって近づけさせないのが一番だ。

 そのために必要なのは波や風による揺れを最小限にして、大筒や鳥銃による狙いを狂わせないようにすること。

 そのためには、帆柱は何としても倒して安定性を上げたいのだが……。

(どうしたものか……)

 鉄介が頭を悩ませていると、

「――鉄介様」

 椿が背後から声を掛けてきた。

 仕事で鉄介の側にいなければならない椿は鉄介の家に居座っているし、鉄介もその辺は気にしないようにしている。というよりも、主君である九鬼嘉隆の首が繋がるか繋がらないかの瀬戸際なのでその辺を気にしている余裕がないのだ。

「おぉ、椿殿。うるさくしてすまぬな。儂はまだもう少しやっているので遠慮なく眠ってくれ――」

 振り返った鉄介は、思わず目を見開いた。

 薄着一枚。
 鉄介には女性の服装の細かな違いなど分からぬが、おそらくは湯帷子ゆかたびらであろう。

 そんな、明らかに男の元へ来るのに適さぬ格好。女性としての危機感のない姿をした椿は、迷うことなく腰に巻かれたヒモを解き始めた。

 当然、それが完全に解かれれば着物の前が開き、裸体が露わになってしまう。

 それと同時に椿は腰に差してあった短刀に手を伸ばした。さすが忍びなだけあってこんな時も武器を携帯しているのだろう。

 そんな短刀を鞘ごと腰紐から抜き、床に置く椿。

 そう。短刀を鞘ごと抜き、床に置いた。

「――そうか!」

 ガバッと立ち上がる鉄介。天啓とも言うべきひらめきがあったのだ。

 帆柱を倒して横に収納できないのなら、そのまま地上にあげてしまえばいいのだ! 和船が倒した帆柱を船体に固定するのは、すぐに帆を立てて航海するため! だが! 今造ろうとしている大安宅船はあくまで海上の砦! 動かす予定はないのだから、帆柱を降ろしても何の問題もない!

「椿殿!」

 勢いよく椿の肩を両手で掴む鉄介。通常であれば性欲に負けたのだと思われるのだろうが、「これは何か違うな」と椿は察した。

「感謝しよう! 儂は今、気づきを得た! はははっ! 椿殿のおかげだ!」

 何度か椿の方を手で叩いたあと、鉄介は床に座り指図を描き始めてしまった。すでに半裸になりかけの椿を完全放置して。

「……調子が狂う」

 何とも微妙な顔をする椿であった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

秀頼に迫られた選択〜トヨトミ・プリンスの究極生存戦略〜

中野八郎
歴史・時代
​慶長十六年、二条城。 老獪な家康との会見に臨んだ豊臣秀頼は、時代の風が冷たく、そして残酷に吹き抜けるのを感じていた。 ​誰もが「豊臣の落日」を避けられぬ宿命と予感する中、若き当主だけは、滅びへと続く血塗られた轍(わだち)を拒絶する「別の道」を模索し始める。 ​母・淀殿の執念、徳川の冷徹な圧迫、そして家臣たちの焦燥。 逃れられぬ包囲網の中で、秀頼が選ぶのは誇り高き死か、それとも――。 ​守るべき命のため、繋ぐべき未来のため。 一人の青年が「理」を武器に、底知れぬ激動の時代へと足を踏み出す。

輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。 【登場人物】 帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。 織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。 斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。 一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。 今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。 斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。 【参考資料】 「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社 「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳)  KADOKAWA 東浦町観光協会ホームページ Wikipedia 【表紙画像】 歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

米国戦艦大和        太平洋の天使となれ

みにみ
歴史・時代
1945年4月 天一号作戦は作戦の成功見込みが零に等しいとして中止 大和はそのまま柱島沖に係留され8月の終戦を迎える 米国は大和を研究対象として本土に移動 そこで大和の性能に感心するもスクラップ処分することとなる しかし、朝鮮戦争が勃発 大和は合衆国海軍戦艦大和として運用されることとなる

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

処理中です...