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悪魔退治へ

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「リリア様はもう少し自重されるべきかと」

「リリアはもう少し手加減を学ぶべきだ」

 王宮へ向かう馬車の中。私はイスの上に正座しながら、隣に座ったナユハと正面に座ったリュースから言葉責めされていた。……あ、はいすみません。ただのお説教ですよね。

「いいですかリリア様。その力を赤の他人のために使えるリリア様は素晴らしい御方です。そして、事実を伝えるのも大切なこと。しかし、順序は踏まなければなりません」

「母上――妃陛下の病気の原因を突き詰めてくれたことには感謝の言葉もない。けれど、妃陛下はご病気で心身共に弱っているのだから、もう少し手加減してくれないと」

「はい、すみません。調子に乗っていました……」

 妃陛下には回復魔法をかけたので許してください。聖魔法の結界で覆っておいたからしばらくは“呪い”も届かないはずだし。

 さて、なぜ私が王宮に向かっているかというと――


 ①,妃陛下気絶。

 ②,転移魔法を使える護衛騎士が王宮に連絡。妃陛下の部屋のツボを調べてもらう。

 ③,魔導師団所属の魔導師が返り討ちにあう。

 ④,国王陛下、勅命で美少女リリアちゃんを呼び出す。


 ――と、いう流れがあったのだ。

 うん、なんで私が呼び出されるんだろう? 王宮には私の他にも“銀髪持ち”はいるし、魔導師団には千人規模の魔導師がいる。質も数も準備できるのに、わざわざ9歳児を呼び出す理由は何?

 ちなみに。国のために働く魔法使いのことを魔導師と呼ぶらしい。まぁ公式な呼び方ってだけで、一般の人は魔法使いとか魔術師って呼んでいるけれど。

「父上――陛下は、妃陛下のことになると冷静さを失いがちだからね。長年悩まされてきた病気の原因が分かったかもしれないんだ。たぶん、どんな手を使ってでも解決したいのだと思う。リリアの他にも多くの魔導師に招集がかけられているはずだよ」

 リュースがそんな解説をしてくれた。自分の両親のことも陛下やら妃陛下と呼ばなきゃいけないとは、王子様も色々大変だ。

 いきなり王宮に呼び出された私も大変なんだけどね。王宮での作法とかまだ勉強中なんですけどー。

 まぁ、リュースの話によると他の魔導師も召集されているはずで、その多くが王宮勤め。原因のツボを壊すなり封印すればいいだけの話なのだから、私が王宮に着く頃には解決しているだろう。


『フラグ立てたねー』
『そそり立つことスカイツリーのごとしー』
『リリアがそんな平穏な事件に巻き込まれるはずがないのにねー』


 妖精さんが不穏なことを言っている。

「……ま、まぁ、妖精さんの友達だし? 波瀾万丈な展開をプレゼントされることも想定済みですよ私は」

 私の強がりは妖精さんに完全否定された。


『今回こっちは何もしてないぞー』
『トラブル天然ダイ○ン女ー』
『女もトラブルも驚異の吸引力ー』


 トラブルはとにかく女を吸引って何!? どういうこと!?


『大丈夫大丈夫ー』
『寄ってくるトラブルなんて全部吹き飛ばせー』
『結果的に平穏ならスローライフさー』


「過程は波瀾万丈なのかー」

 思わず妖精さんの口調が移ってしまう私である。
 と、ここで気づく。
 リュースは“妖精の愛し子”じゃないから、妖精さんの声は聞こえないはず。

 今の私って独り言つぶやいている痛い人じゃーん。なんかナユハの時も同じようなことした気がするけど、さすがにリュースも“妖精の愛し子”でしたーなんて都合のいい展開はないだろう。なにせ彼女は王太子。変なことがあったらすぐに精密検査をされるお立場だ。妖精の愛し子だったらもうバレている。


『ふむふむなるほどー』
『たしかにリュースには見えてないねー』
『ちょっと不便かもー?』
『まぁ、リリアの“夫”になる人だしねー』
『特別大サービスだー』
『あがめ称えよー』


 なにやら聞き流せないことをほざきつつ、妖精さんがリュースの周りで舞い踊った。何というか、アレだ。先住民族が神に生け贄を捧げるときに踊りそうなヤツ。

 ぱぁあああぁ、と。リュースの身体が光に包まれた。わぁきれいだなーと現実逃避していいですか? ダメですよね……。

 光が収まったあとリュースはおそるおそる辺りを見回し、妖精さんを見つけて動きを止めた。
 しばらく妖精さんと見つめ合ったあと、『ギギギギ……』とでも擬音を付けたくなる動きで首を私に向けてきた。

「り、リリアは“妖精の愛し子”だったよね?」

「そうだね」

 すでに諦観して遠い目の私である。

「ず、図鑑とかで見たことがある妖精様そっくりな存在が、私の目の前に浮いているのだけど?」

「浮いてるねぇ。間違いなく妖精さんだよ」

 現在、妖精さんが見える人はほとんどいないけど、過去には見える人がたくさんいて、妖精さんの姿形を描き残してきたからね。パブリック・イメージは完成しているのだ。

「まぁ私から一つ言えるとすれば……諦めろ♪」

 私だって妖精さんのイタズラで前世を思い出したのだから!

「え、え? これ諦めていい問題なのかな?」

「いいんです、諦めてください、深く考えてはいけません」

「なぜ敬語……?」

 いやほんと深く考えないでください。
 なぜならば、“妖精の愛し子”の伴侶(・・)になる人間には祝福が与えられ、妖精さんが見えるようになったという伝説が各地に残っているから。

 まぁリュースには妖精さんの『夫になる人』発言は聞こえていないはずだし、ただの妖精さんのイタズラということで押し通そう。

 うん、大丈夫。私はリュースと結婚するつもりはない。

 だからナユハさん? 妖精さんの発言が聞こえていたナユハさん? 脇腹つねるのは止めてくれませんかね?

 だ、大丈夫。たとえなっても“夫”だから! 嫁枠は空いているから! って何を言っているんだろうね私!? どうしてこうなった!?


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