産まれてくれてありがとう

心白

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第四話 察してください

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どうでもよかったなんていったら女の子に申し訳ないけど、ある日もっと大きな『給食費払えない問題』が飛び込んできた。家庭に支払い能力が無くて給食費を持って来られないんじゃなくて、頭の悪いワルガキ中学生が遊ぶ金欲しさに小学生から手当たり次第に給食費をカツアゲしているというものだ。すでに警察が動いているとの情報を先生から聞いたものの、奪われた小学生たちの悔しさを考えると居ても立ってもいられなくなって、レイと一緒に中学生が溜まりそうな場所を探して回った。人相や背格好はどの子供に訊いてもほぼ同じ答えが返って来るし、絵の上手な子に似顔絵を描いてもらって見てもらっても

「この人です!」

って答えが多かったので、それを手掛かりに探していると見つけたんだ。くわえタバコでゲームセンターに居る、似顔絵にそっくりで背格好の特徴もピッタリな奴を。そいつらは五人組で、大きな声で下品に笑いながら騒いでおり、後ろのポケットから給食袋が数枚見えている。

(こいつらに間違いない)

と思った瞬間にレイの方が先に飛び出して、後ろから中学生の頭をゲーム機におもいっきり叩きつけた。髪の毛を握ったまま執拗に何度も叩きつけ、ゲーム画面はバリバリで中学生は血まみれという、こちらまでテンションが上がっちまうバイオレンスなショーの始まりだ。相手は五人でこちらは二人、体格に大して変わりなし!茶髪から金髪に進化した二人組が中学生相手に大暴れして、お店側の通報で警察官が到着する頃には中学生は全員ぶっ倒れており、小学生コンビがあちこち殴られて出血しながらも立っている、かなり凄惨な現場となっていた。理由はともあれ明らかに『やり過ぎ』のオレたちは身柄を拘束され、校長先生が身元引受人として来てくれるまで拘留された。警察から連絡を受けてとんできてくれた校長先生からの一言目は、二人とも壁に叩きつけられるほどにぶん殴られた後に発せられた。

「学校を無断欠席して何さらしとるんじゃ!こんなもの正義でも何でもない、単なる暴力行為じゃ。中途半端な正義感でどれだけの人に迷惑を掛けているのかわかっとるのかキサマら!」

あまりの剣幕に警察官が先生を止めに入る。

「校長先生、まだ子供ですから!それに奪われた給食費もこの子たちが数名分取り返しておりますので、そのくらいにしてやって下さい!奪った方のガキどもは警察で取り調べた後にしかるべき措置を取りますので、この子たちを連れて安全に学校までお願いします」

学校に戻って両親が呼び出され、言い渡されたのは一か月間の自宅謹慎処分と、とんでもない量の宿題プラス反省文。

(オレたちは間違ったことはしてねえ。学校に戻ったら生徒達からは『悪者を退治したヒーロー』として迎えられるに違いない)

・・・と、思いながら互いに謹慎処分が明けて登校した時の異様な空気。誰からも口を利かれることなく、声を掛けても避けられる。普通に廊下を歩いているだけなのに、腫れ物にでも触るような目で見られて目の前から人がいなくなる。それだけならまだしも、相棒のレイ学校に来ていない。家に電話しても

「風邪ひいた」

って言われる始末。結局オレだけ四面楚歌になっちまって、いつものように給食を早食いして屋上で日向ぼっこをしようと立ち上がった時、

「漆原君、ちょっといい?」

って女子数人から声を掛けられた。バレンタイン事件以来ずっと挨拶もしてくれなかった女子からの声掛けに少し驚いたが、喧嘩腰な口調ではなかったので屋上で話を聞いてみることにした。

「あのね、漆原君と金城君ってすごく怖いんだけど、給食袋を取られた仕返しをしてくれたんでしょ?ありがとう・・・」

なんて言うのかな、現代では一度四面楚歌になるとずっとそのままってケースが多いと思うんだけど、この時代はちゃんとわかって口に出してくれる子がいたんだよな。こんなこと言われて悪い気はしないし、オレだってトゲトゲしっぱなしじゃないから穏やかに返す。

「まあ、そうだな。警察が動いてるって先生からは聞いたけど、中学生に脅されて給食袋とられたヤツの気持ちを考えると、怖くて悔しかっただろうって思ってさ。レイとそんな話してたらだんだん頭にきて、居てもたってもいられなくなっちまって大暴れして、校長先生に思いっきり殴られた。さすがにちょっとやり過ぎた感はあるけどな」

そう言って照れ隠しに遠くに見える山に視線を逸らしていると、

「私たち、金城君にもちゃんと『ありがとう』て言いたいんだけど、迷惑かな・・・学校に来てくれた時に今日みたいに話せたらいいなって。でもちょっと怖いから、漆原君に一緒に行ってほしいんだけど、ダメ?」

「漆原君なんて、コハクでいいよ。全然ダメじゃねえよ、むしろアイツも喜ぶんじゃねえかな」

そんなほのぼのとしたやり取りがあった日の下校時間、校門の前にはゾロゾロとイカツそうな中学生たちが何十人も集まっていて、小学生が怖くて帰れないと聞いたオレはスポーツバッグを持って真っ先に校門まで走った。行ってみると先日ゲームセンターでオレらにボコられた奴らの他に、

(本当にコイツ中学生か?)

っていう明らかにヤバそうな人間が沢山居た。レイと一緒ならともかく今はオレ一人、お礼参りに来たんだろうけどここでビビってるようじゃコハク様じゃねえ。

「おう!中学生がゾロゾロと小学校にお礼参りとは情けねえなテメエら。あいにくレイはまだ出てきてねえが、オレがタイマン張ってやんよ!アタマどいつだよ?」

(このままどっかに連れて行かれて、この人数から袋叩きにされるんだろうな・・・さすがにそりゃ無事じゃ済まなさそうだ・・・)

そう思いながらも精一杯の虚勢を張った。すると中でも一番身体の大きくうっすらヒゲを生やした人が一番後ろから出てきて、オレの目線に合わせてしゃがみこむ。

「聖東中で番張ってる牛島だ。ウチのバカどもが、誰かれ構わず給食費を奪ったりして悪かった。それでなくてもガラの悪そうなコイツラに脅されて、親から預かった給食費をむしり取られてどんなに悔しい思いをしただろうと思ってな。しかもコイツラ、見た目におとなしそうな小学生ばかり狙ったクズ野郎どもだ。そんな五人相手にして小学生二人で暴れたヤツがここに居るって聞いて来てみりゃ、根性座ったツラしてるな。別に喧嘩しに来たわけじゃねえ、アタマ張ってる者としてスジ通しに来たんだ。もう一人はそんなに怪我が酷いのか?」

予想外の展開に正直びっくりした。ちゃんと話のできる中学生のトップが話をしに来てくれたのだから、こちらもちゃんとスジを通して話をしなきゃならない。

「お疲れ様です。こちらこそあれだけ暴れて怪我をさせてしまったのに、番長自ら来ていただいて申し訳ないです。もう一人のレイは怪我ではなく、風邪をひいて学校を休んでいると聞きました。いきなり後ろから不意打ちみたいな喧嘩をしてすいませんでした」

そう言って頭を下げると、ニッコリと笑って

「そうか、もう一人はレイっていうのか。オマエの名前も聞いていいか?」

と言われたので

「はい、自分はコハクといいます」

と答えると

「よしコハク、オマエに渡したいものがある。オレは中三で今年学校を卒業するんだが、この風神と雷神をお前たちにやろうと思う」

と、後ろで立っていた舎弟らしき人が紙袋から取り出した大きな学ランの背中には、雷神がきれいに刺繍されていた。

「オレは高校に行って龍神を背負うから、オマエらは中学でこの無敵の学ランを着ろ。これを背負ったら誰にも負けちゃいけねえし、相手が誰であろうとも筋の通らんものを見逃しちゃいけねえ。できるか?」

そう言って自分が来ている風神が刺繍された学ランを脱ぎ放ち、オレに差し出した。腹部にはガチガチにサラシが巻かれており、紫色の裏地が美しく輝いている。受取って袖を通し

「ありがとうございます!先輩の名前を汚す事の無いよう、キッチリ背負ってみせます!」

と挨拶すると

「あははは!ちょっとオマエにはデカかったな、袖まくって着てくれりゃいい。もう一人のレイっつったか、そいつにもよろしく伝えてくれ」

と言い残して舎弟を引き連れ、ゾロゾロと帰っていった。

(これは一刻も早くつたえなきゃいかん)

風神の学ランを背負ったまま家に帰り、レイに電話をして事の顛末を伝えた。

「わかった、明日から学校いくわ」

そう聞いて電話を切った翌日、ようやく学校に現れたのは頭を五分刈りのマルコメにされたレイ。学ランを渡して、オレはそのマルコメに我慢できずゲラゲラと笑った。

「オ、オマエもウルフにするって言ってたのに、何じゃそのマルコメは!ウケ狙うにもほどほどにしろよ!幼稚園児じゃあるめえし・・・」

雷神に袖を通したレイはもの凄い力でオレの胸ぐらを掴んで持ち上げ、今にも殴り掛かりそうな勢いだ。胸ぐらを掴まれてオレの足は地面から離れている。

「テメエ、それ以上言うとマジでぶん殴るぞ!何でオレだけこんなみっともない頭にならなきゃいけねえんだよ、クソが!オマエは何でオトガメなしでのうのうと髪縛って・・・」

持ち上げられたままグイと引き寄せられ、そこまで喋ったところで突然解放された。

「シラケた、もういい。学校終わったら先輩のところに挨拶に行くぞ、昼休みに学ラン取りに行ってこい!それから女子の話、オレ一人で聞いてくるからテメエは首突っ込むな」

(確かに頭見て笑ったのは悪かったけれど、あんなに怒るほどのことかよ)

モヤモヤと考えながら学ランを取りに帰り、終業後に互いに学ランを背負って二人で聖東中に向かう。

「おい。笑ったのは悪かったけどよ、シラケたって何だよ?」

タッパはオレの方が拳一個分くらいデカイ、この事がレイの劣等感を煽ってしまったのではないかと考えて、気になって訊いてみた。

「ウルセエ、黙ってついてこい!」

二つ池でなかよくなってからというもの、オレに対してこんなにトゲトゲしているレイは初めてだ。それからは道中互いに口を利かず、中学の前に到着してヤンチャそうな先輩に声を掛けてみる。

「失礼します!牛島さんに挨拶に来ました」

「いきなり牛島さんに挨拶とはいい根性してるなオマエら・・・って、その学ラン!」

いきなりイチャモン付けられそうな雰囲気から一転、学ランを見るなり

「案内するからついてこい」

と初めて入る中学校の中を進んでいく。とんでもなくビリビリとした視線を感じながらも連れてこられたのは生徒会室と書かれた部屋だった。

「オス、失礼します!牛島さんに挨拶したいと、風神雷神の学ラン着た二人を連れてきました!」

ヤンチャそうな兄ちゃんが部屋の前でビリっとした挨拶をする。

「おう、入れ」

奥から聞こえた低い声に緊張しながら扉を開けると、うっすらヒゲを蓄えた顔をニコニコさせながら、ひと際大きく感じる牛島先輩が立ち上がってこちらに歩いてきた。

「おう、二人揃って挨拶に来たのか!コハクとレイだったな、今はまだブカブカかもしれんがその内ピッタリ合うようになる。風神雷神似合ってるじゃねえか、オマエがこの間会えなかったレイだな。見たところ、謹慎ボウズくらったって感じだな。そんで金髪ポニテがこの間会ったコハクだな、オマエは謹慎ボウズくらってないのか?」

「はい、謹慎はくらいましたがボウズにしろとは言われませんでした!」

とオレが答えたところで

「すいません牛島さん!察してください・・・」

レイがすぐさま口をはさみ、頭を下げた。


「ああ、わかった。二人ともよく似合ってるぞ」

この会話の意味するところが何なのかはわからなかったが、生徒会といえば小学校でいう児童会。すなわち生徒からも学校からも選ばれた学生のトップだ!学校で番長といわれる牛島さんがその位置にいるということが何だか嬉しくて聞いてみた。

「牛島さん、生徒会って凄いですね!学校にも生徒にも慕われているってことですよね!」

軽く笑みを浮かべて彼は話し出す。

「コハクっつったか、オマエ面白いな。大体がビビっちまって口も利けなくなっちまうのに、そんなに目をキラキラさせて話しかけてくる奴は久しぶりだ!いいさ、教えてやるよ。小学校ではまだ流行ってねえと思うけど、最近では折りたたみできるナイフでバタフライナイフっていうのが流行ってきててな。基本ケンカはタイマンでスデゴロっていうのが暗黙のルールだったんだが『殴った殴られた』から『刺した刺された』みたいな時代になって来ちまったみたいなんだわ。そんで、オレの目の届いていないとこでシンナーでラリって先生が刺されるって事件が発生してよ。『番長なら反抗されないし刺されないだろ』みたいな感じで生徒会長やってくれって言われてココに座ってるんだよ。バカどもがゴチャゴチャ言おうとも、いまんとこオレが一括すれば静かになるからよ。風神雷神を背負うってこたあ、そういうもんも全部背負うってことだぜ?雷神にケツ拭いてもらわなくてもいいように、風神も頑張れよ」

小刻みに震えているレイの横で、イキイキと話をするオレに同調してくれながらも、何かしらの釘を刺されているような感じだった。キッチリと挨拶をして中学校からの帰り道、緊張からかなんとなく元気のないレイの横を意気揚々と歩きながら

「牛島先輩ってすげーな!器が大きいっていうか、あんな風になりてーよな!」

と呑気にはしゃいでいるオレにレイが放った一言。

「うるせえ、オレなりに一生懸命考えてんだから静かにしろ」

この時さっぱりわからなかったこの言葉の意味を、後に思い知ることになる。
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