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心白

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第六話 まじっすか

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地元という狭い世界とはいえ『風神雷神最強説』を揺ぎ無いものにしていく中で、レイの身に変化が起こる。突然声が枯れ始めて二日間ほど声が出ず、その後しばらくの間シマウマのイナナキの様な、決して美しいとは言えない声になったのだ。レイの突然の変化に『マネキンの首で大笑い事件』を思い出して無神経に笑いながらからかっていたら、声を掛けても返してくれなくなってしまった。

「おっす、おはよう!」

「・・・」

「悪かったって、そんなに怒るなって」

「・・・」

中学に入ってまだ二か月しか経っていない時の出来事だ。

(とんでもない喉風邪をひいたもんだ)

とからかった事を後悔しながら特に何事も無く過ごした二週間後に、やっとヤツの声を聞いた時にはとんでもなく低い声になっていた。レイの声がおかしくなって口を利く事の無かった二週間、ヤンチャな先輩女子の一人から授業中に小さな手紙のようなメモがまわってきて『風神、授業終わったら屋上に来て』と書いてあったので行ってみると、三年生を中心とする女子のヤンチャグループいわゆるレディースが、スカートを巻き込む形で数人しゃがんでオレを待ち受けていた。オレらがボンタンと刺繍入り学生服なのに対し、ヤンチャな先輩女子は真っ黒なストッキングを履いてスカートがくるぶしまで長く、かなり濃い目の化粧といういで立ちだ。えらくオッカナイ顔で下から見上げられるもんだから、

「なんだよ?オレは女とはケンカしねーゾ」

意気込んで言い放つと、彼女たちの口から出た言葉は全く予想していないものだった。

「アタイら、この学校でスケバン張ってる『ムラサキ』だ。いきなりだけど風神・・・あんたさ、トイレどうしてんの?」

さすがのオレもこの言葉には動揺した。

「は?トイレなんて休み時間じゃなくて授業中に行くに決まってんべ」

「牛島先輩が認めて風神名乗らせているんだから、私たちは守ってやろうとしてんのよ!他の奴らの前では今のままでいればいいけど、実際困るのはアンタなのよ?で、風神のお母さんはなんて言ってるの?認めてるの?」

今までひた隠しにしてきた部分に対する怒涛の質問に、ついつい押されてい調子が狂ってしまう。

「母ちゃんは物心ついた時には病気で死んじまってて、三軒長屋の両隣に住んでいる爺ちゃん婆ちゃんに食わせてもらって、読み書きそろばんとか礼儀作法とか覚えた。ガキの頃から親父と一緒に当たり前に男湯に入って、生きていくうえでの仁義みたいなものは、銭湯でおっちゃん達の背中を流している時にいろいろ教えてもらった」

これを聞いて姉さま達はしばらくの間無言になり考え込んでいるようだったが、中でも一番きれいで風格のある女の人が口を開く。

「アンタ、もう始まってんの?」

何を訊かれているのかさっぱりわからず、

「え・・・レイとはしょっちゅうケンカしたりはあるけど、他の県から攻め込まれるようなことはまだねえかな」

そういった瞬間にため息をつきながら立ち上がり、オレの背後に回ったかと思うと後ろから胸をわしづかみされた。

「まったく・・・サラシも巻いてないのかい、こりゃバレるのも時間の問題だな。牛島先輩が風神を背負わせた以上、先輩に恥はかかせられねえ。いいか、よく聞きな!今までみたいなその場限りのごまかしが通用しなくなってくるのが女の体ってもんだ、手遅れになる前に教えてやるから毎日アタイらのところに顔を出して勉強しな。そうしないと、そのうち野郎どもの前でボンタン血まみれにしてアンタ・・・風神じゃいられなくなるよ?胸だってそうだ、今はまだ学ランに守られてるからいいようなものの、アタシらくらいになったらどう見たって不自然だから、風神背負うからにはサラシの巻き方くらい教えてやる。ちなみに雷神はこの事を知ってるのかい?」

「べつに言う必要ねえかなって思ってたから知らないと思う、困ったことねえし。ケンカでも負けた事ねえ、勉強だって運動だってこれからも負けるつもりなんてサラサラねえ!これからも生意気ぬかすやつはガンガンいわして、風神雷神最強説を牛島先輩みたいに・・・」

「だーかーら、これからはそれが無理になってくるって言ってんだよ!女の体っていうのはなあ、丸くなってきて中三になる頃には男に力じゃ絶対に敵わないようになっちまうんだよ。アンタが風神背負い続けるってんなら、アタイらと雷神の手助けが絶対に必要になる、気合いとか根性だけで何とかなる問題じゃねえって言ってんだよ。雷神はこれからどんどん筋肉ついてデカくなっていくし、今のままじゃアンタは必ずお荷物になる」

それを聞いた途端にオレは膝から崩れ落ちるようにしゃがみこみ、同時に襲ってきたものすごいハライタに脂汗を流していた。

「おい風神、どうした?顔色悪いぞ・・・アンタまさか!お前達、風神連れて教職員用のトイレ行ってきな!わかってるな?」

「はい、わかってます姉さん!任せてください、行ってきます」

こうしてオレが今まさに始まってしまった『女としての実技授業』を受けている間に、スケバングループ『ムラサキ』のリーダー紫音さんが雷神を呼び出す。

「いきなり呼び出してすまないね、『ムラサキ』でバン張ってる三年の紫音ってもんだ。ストレートに訊くけど風神が女だってこと、雷神のアンタは知ってんの?」

「はい、知ってました。牛島さんも気付いていらっしゃいます。それでも風神を着せたって事は、雷神を背負う俺に『龍神まで昇ってこい』って言うことだと理解しています。風神雷神は二つで一つですから、オレがアイツを邪魔にしたり引け目を感じさせちゃいけないって思ってます」

紫音さんは腕を組んだまま雷神に近づく。

「へーえ、アンタいい男じゃないか!さすが牛島さんが選んだだけのことはある、気に入ったよ。風神のサポートはこっちでも全面的にバックアップするし、表向きは無敵の風神雷神でいられるように頑張るから、アタイらにも協力させておくれよ」

「あざっす、しゃっす!じゃあ、オレこれから母ちゃんと買い物行くんで。足痛めてるんで、荷物持ちっす」

「番格たるもの、そうじゃなくっちゃ。親孝行しておいでさ!」

「うっす」

こうして雷神は帰路に就き、お姉様たちに付き添われて風神が返って来る。

「始まったか?」

紫音の一言に

「まだオシルシ程度ですけど、今から薬局とか行っていろいろ買い揃えて、サラシもしっかりしたのを調達してきます」

「そうだね、さっき雷神も呼んで話したところさ。彼、アンタが女だってこと知ってたぜ?『それでも風神雷神は一つだから』って。確かに女は力じゃ勝てなくなるしいろいろ厄介な事もあるけど、風神背負っている以上それを言い訳にしちゃいけねえ。アタイらがキッチリサポートしてやるから、アンタは雷神と一緒に無敵を貫きな!」

それから女の変化についていろいろ教えてもらったけれど、野山を走り回ってた頃や銭湯に行っていた時からは考えられないくらい大変だ。子供を産むなんて想像したこともないけど、そういう体になっていくのを隠し通すのだから、姉さんたちのサポートは絶対に必要だ。

「紫音さん、あざっす!毎日顔出しますので、しゃっす!」

「そうだね、毎日顔だしな。他のヤツラの前ではちゃんと風神として立ててやるから安心していいよ、アンタが素直で良かったよ」

ニッコリ笑って頭をワシワシされた。

「あー、もう一つ。中学三年になったらアンタらも風神雷神を後輩に引き継がなきゃいけないんだろ?そんときには雷神はゴリゴリの男になってるし、アンタも完全に女の体になってる。高校行くつもりならその先どうするつもりなのさ?」

「今はまだ考えてないっすけど、高校はジャージ登校しようって思います。オレにはどうしてもスカートが履けそうにないんで・・・」

「そっか、それならそれでいい。雷神のお母さんがひざを痛めているって言ってたよ、だから買い物の荷物持ちに一緒に行くって。アンタが親父さん一人で育ててもらったみたいに、雷神はお母さん一人だって。ハライタっていったってこれから毎月来るんだから、痛みなんて気合いで何とかしなきゃいけねえ。先ずは雷神のお母さんにちゃんと挨拶してきな。何かの時に女として助けてくれるかもしれないからさ」

レイの母ちゃんならガキの頃から知っているが、ひざを痛めたってのは知らなかった。

「うす、オレ行きます!」

そう言い残してレイの家の方に向かった。

以下、その間のレディースの話。

「実際のところ、どんなだった?」

「男もんのトランクス履いてヤバかったんで、雅が持ってた新品の安い下着履かせてちゃんとしてきました、トランクスじゃ漏れますからね。胸はサラシ巻いとけば何とか中学の内はごまかせるんじゃないかと、意外と筋肉質でしたので。いろいろ聞いてみましたが、マジで何にも知りませんでした」

「いまどきあんな子いるんだね、でも面白そうじゃないか!アタイらレディースも活躍の場が増えるってもんよ。他校に舐められないようにしっかりやっていこうじゃないか!」
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