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10.愛してやまない
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しおりを挟む翌日、理央は吉良の車で登校した。
俺はそれを校門前で待っていた。
目の前に滑り込んだ車の後部座席のドアを開ける。
吉良に手を引かれて車を降りる理央を、他人事のように眺めていた。
幾分か疲れているように見える理央の横顔を盗み見て、直ぐに目を伏せた。
ドアを閉め、二人の邪魔にならぬよう、後方を歩く。
体調の確認をしたかったが、吉良を見上げて歩く理央はいつもよりもリラックスして見えて、今話しかけたなら機嫌を損ねてしまうだろうと思った。
「剱!」
「…あぁ。おはよう、二条」
腕に絡み付く二条の腕も、もう振りほどく必要はない。
吉良が理央の髪を撫で、階下の自分の教室へ向かうのを見送ってから、理央に声をかけた。
「お早う御座います、理央」
「…あぁ、お早う」
「…ヒートを迎えられたとききました。お加減は如何ですか」
「少し怠いが大丈夫だ」
「…よかった」
無意識に理央の身体に触れようと手を伸ばしていて、その俺の手を二条が掴んで、自分の行動に気が付く。
「…剱、行こ」
「…ああ、…」
理央に触れようとした自分の手のひらを見つめた。
「どうした」と訝しむ理央に、「いえ、…ではまた、後程」と頭を下げる。
ヒート以降、あまりにも普通に理央に触れていた。
俺は剱だというのに。
「剱、家に遊びに来てよ」
「…ダメだよ」
早く、番を見つけなくてはならない。
二条の誘いを断るためにも、…理央のためにも。
一限後に理央の教室へ顔を出したら、理央が僅かに眉を寄せた。
「どうかされましたか」
「…いや、何でもない」
髪に触れようとしたら、理央が顔を背ける。
「…理央」
「っ違う、すまない、」
そこで気付いた。
メスを相手にしていいと許されはしたが、やはりオメガである理央は他のメスやオメガの匂いは苦手なのだ。
昨日から二条との距離が近すぎた。
「…申し訳ありません、」
「…お前のせいじゃない」
「いえ、俺の配慮が足りませんでした、失礼します」
毎時限後に理央の様子を教室の外から確認し、昼食前に生徒会室にランチボックスを運ぶ。
吉良のIDにメッセージを送信した。
『昼食は生徒会室に置いておきますので。理央様の送迎をお願いしてもよろしいですか』
『かまわんが何かあるのか』
『俺に付いた二条の匂いが理央様を苛立たせてしまうようですので』
『了解した』
何度か吉良とやり取りし、吉良の部活動が始まる前に理央を車まで送ってもらう約束をとりつけた後、神木のIDに発信する。
『どうした、何かあったのか』
「下校時の車ですが二台お願いできますか」
『それはかまわないが』
「お願いします」
自分の浅慮のせいとはいえ、出来ることならばこれ以上理央に嫌われたくはない。
通話を切り、ライトの落ちた真っ黒のディスプレイをぼんやりと眺めた。
「…番を、見つけなくては、」
理央を、番にしたい。
駄目だ。俺は剱だ。
俺のようなアルファにはすぎたオメガだ。
俺などが自分の番にしていいわけがない。
だがあれほど美しい主が、他のアルファのものになるなど耐えられない。
「…番を、」
耐えられない。
「見つけなくては――」
…耐えられない。
「……耐えろ」
アルファである剱の自分など。
…理央にとって何の役にも立っていないのだ。
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