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9.あれは、俺のオメガだ
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「…理聖様と同じことをおっしゃるんですね」
「…」
「番としての契約だけを望むオメガを探してみます」
「理央は、君を愛していると思うが…」
「…以前は、俺に付いたメスの匂いを嫌がって下さって。俺に触れてくれたりも、したんです。…そう感じたこともありましたが、俺に手をあげた代償なのだと、気付きました。同時に妙な期待を寄せていた自分にも気付かされました。それでも、俺に触れてくれましたので。アルファとして理央様に必要なのだと、喜びもしました。しかし、もう必要ないんです。『他のメスを相手にしていい』と、ハッキリ言われました。…本当はもう、アルファとしても剱としても、俺は理央様に必要ないんですよ。…何もかも、吉良に奪われてしまった」
もはや理央が愛して下さるのは、この左目だけだ。
「…難儀なことだ」
「血統と本能の問題です。仕方ありません」
「以前にも、理央のようなケースはあった。アルファ家系に突然生まれるアルファのようなオメガ。一族のアルファすらヒートにあてられてしまうほどの。通常近親間でヒートにあてられることはないはずだというのに。繁殖困難なアルファ家系に、一人生まれた極上のオメガだ。そのときも、神木の先見では『暁の後継者無し』と出ていた」
「…まさか――」
「君の想像通りだ」
俺の言葉を遮り、結論を述べた神木に思わず眉を寄せる。
「その暁はどうなったのですか」
「知らないほうがいい」
「…そうですか」
「番を持つことだ。そうすれば僕の懸念も減る」
「…はい」
自室のマシンから、オメガデータベースにアクセスした。
契約だけを望むオメガは少ない。
どのオメガも番いたいと思えず、気付けば理央に似た黒髪を、薄い唇を、夜色の双眸を探している自分に苦笑する。
「理央の代わりになるものなど、いるはずがないだろう…」
ひとつ、ため息を吐いてディスプレイの電源を落とし、理央のクラスのアルファの資料を手に取った。
警戒しておくに越したことはない。
理央が吉良と番うまでは。
そこでふと、神木との会話を思い出し、再度ディスプレイの電源を入れて暁のクラウドデータベース内の一族に関する資料を検索する。
オメガ性の暁当主は確かにいた。
理聖様の五代前の暁当主。
暁詠理(あかつきえいり)。
兄である暁斎理(さいり)が資質無しと判断されたため、次男でありながら当主となっている。
剱の名前の記載欄に思わず眉を寄せた。
剱譲葉(つるぎゆずりは)。
剱閃(つるぎせん)。
暁詠理の死亡時の年齢は僅か二十三歳。
いくら何でも若すぎる。
死亡原因、経緯の詳細も全て掲略と記載され、詳しいことは何一つ載っていない。
暁詠理の剱の名前を検索する。
剱譲葉はバース性ベータで特に問題なく、暁詠理の死亡後は生家に帰され、イニシャライズの後は生家で過ごし、一生を終えている。
剱閃のバース性を目にして息を飲んだ。
剱閃、バース性アルファ。
元暁斎理の剱であり、斎理が後継から降りた際に斎理の剱から詠理の剱となっている。
死亡年齢二十四歳。
原因、経緯全て掲略。
暁詠理と剱閃の間で何かあったことは明らかだった。
左腕の時計で時間を確認し、席を立つ。
自室を後にし、神木の部屋のインターホンを押した。
「どうぞ。開いてる」
「失礼します」
リビングのソファに座ったまま、タブレットを操作しながら「こっちだ」と言う神木の側に立つ。
「君が訪ねてくるとは珍しい。どうした」
「…先程のお話は暁詠理と剱閃ですか」
俺の言葉に、神木はタブレットから目を離し、俺を見た。
一見優男のように見えるが、眼鏡の奥の目は鋭い。
「…調べたのか」
「調べましたが掲略となっていて詳細はわかりませんでした」
「知らないほうがいいと言っただろう」
「…」
「…君の言葉を借りるなら、血統と本能の問題だ。アルファの本能は剱の忠誠を超える。暁理聖は君に訊かなかったか?『耐えられるのか』と」
呼吸を忘れた。
「…っ、」
「剱閃は『耐えられなかった』。美しく、高潔な自分の主人が他のアルファに所有されることに。まぁ、剱閃は剱として少し特殊だったせいもあるだろう。二人の…いや、剱閃の写真は見たかね」
「いえ…」
「神木が君を警戒するのは、剱閃も君のように青い目をしていたからだ。彼は両目だったがね。僕が言いたいことは伝わっているかな」
全身の血液を失ったかのごとく、目の前が暗くなる。
「…はい」
「…番を持つことだ。理央を愛しているのならば」
同情が滲む神木の声。
「…はい」
神木の部屋を出て自室に戻り、再びオメガデータベースを眺めた。
『耐えられるのか』
…耐えられる。
理央の側にいられるならば。
頭では、そう思う。
思っているのに。
「…あれは、俺のオメガだ。吉良などに奪われていいものでは、ない…」
嫉妬に狂う、自分がいた。
「…」
「番としての契約だけを望むオメガを探してみます」
「理央は、君を愛していると思うが…」
「…以前は、俺に付いたメスの匂いを嫌がって下さって。俺に触れてくれたりも、したんです。…そう感じたこともありましたが、俺に手をあげた代償なのだと、気付きました。同時に妙な期待を寄せていた自分にも気付かされました。それでも、俺に触れてくれましたので。アルファとして理央様に必要なのだと、喜びもしました。しかし、もう必要ないんです。『他のメスを相手にしていい』と、ハッキリ言われました。…本当はもう、アルファとしても剱としても、俺は理央様に必要ないんですよ。…何もかも、吉良に奪われてしまった」
もはや理央が愛して下さるのは、この左目だけだ。
「…難儀なことだ」
「血統と本能の問題です。仕方ありません」
「以前にも、理央のようなケースはあった。アルファ家系に突然生まれるアルファのようなオメガ。一族のアルファすらヒートにあてられてしまうほどの。通常近親間でヒートにあてられることはないはずだというのに。繁殖困難なアルファ家系に、一人生まれた極上のオメガだ。そのときも、神木の先見では『暁の後継者無し』と出ていた」
「…まさか――」
「君の想像通りだ」
俺の言葉を遮り、結論を述べた神木に思わず眉を寄せる。
「その暁はどうなったのですか」
「知らないほうがいい」
「…そうですか」
「番を持つことだ。そうすれば僕の懸念も減る」
「…はい」
自室のマシンから、オメガデータベースにアクセスした。
契約だけを望むオメガは少ない。
どのオメガも番いたいと思えず、気付けば理央に似た黒髪を、薄い唇を、夜色の双眸を探している自分に苦笑する。
「理央の代わりになるものなど、いるはずがないだろう…」
ひとつ、ため息を吐いてディスプレイの電源を落とし、理央のクラスのアルファの資料を手に取った。
警戒しておくに越したことはない。
理央が吉良と番うまでは。
そこでふと、神木との会話を思い出し、再度ディスプレイの電源を入れて暁のクラウドデータベース内の一族に関する資料を検索する。
オメガ性の暁当主は確かにいた。
理聖様の五代前の暁当主。
暁詠理(あかつきえいり)。
兄である暁斎理(さいり)が資質無しと判断されたため、次男でありながら当主となっている。
剱の名前の記載欄に思わず眉を寄せた。
剱譲葉(つるぎゆずりは)。
剱閃(つるぎせん)。
暁詠理の死亡時の年齢は僅か二十三歳。
いくら何でも若すぎる。
死亡原因、経緯の詳細も全て掲略と記載され、詳しいことは何一つ載っていない。
暁詠理の剱の名前を検索する。
剱譲葉はバース性ベータで特に問題なく、暁詠理の死亡後は生家に帰され、イニシャライズの後は生家で過ごし、一生を終えている。
剱閃のバース性を目にして息を飲んだ。
剱閃、バース性アルファ。
元暁斎理の剱であり、斎理が後継から降りた際に斎理の剱から詠理の剱となっている。
死亡年齢二十四歳。
原因、経緯全て掲略。
暁詠理と剱閃の間で何かあったことは明らかだった。
左腕の時計で時間を確認し、席を立つ。
自室を後にし、神木の部屋のインターホンを押した。
「どうぞ。開いてる」
「失礼します」
リビングのソファに座ったまま、タブレットを操作しながら「こっちだ」と言う神木の側に立つ。
「君が訪ねてくるとは珍しい。どうした」
「…先程のお話は暁詠理と剱閃ですか」
俺の言葉に、神木はタブレットから目を離し、俺を見た。
一見優男のように見えるが、眼鏡の奥の目は鋭い。
「…調べたのか」
「調べましたが掲略となっていて詳細はわかりませんでした」
「知らないほうがいいと言っただろう」
「…」
「…君の言葉を借りるなら、血統と本能の問題だ。アルファの本能は剱の忠誠を超える。暁理聖は君に訊かなかったか?『耐えられるのか』と」
呼吸を忘れた。
「…っ、」
「剱閃は『耐えられなかった』。美しく、高潔な自分の主人が他のアルファに所有されることに。まぁ、剱閃は剱として少し特殊だったせいもあるだろう。二人の…いや、剱閃の写真は見たかね」
「いえ…」
「神木が君を警戒するのは、剱閃も君のように青い目をしていたからだ。彼は両目だったがね。僕が言いたいことは伝わっているかな」
全身の血液を失ったかのごとく、目の前が暗くなる。
「…はい」
「…番を持つことだ。理央を愛しているのならば」
同情が滲む神木の声。
「…はい」
神木の部屋を出て自室に戻り、再びオメガデータベースを眺めた。
『耐えられるのか』
…耐えられる。
理央の側にいられるならば。
頭では、そう思う。
思っているのに。
「…あれは、俺のオメガだ。吉良などに奪われていいものでは、ない…」
嫉妬に狂う、自分がいた。
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