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2.裏返る
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俺は着替えを手伝うだけでも理央の機嫌が悪い時は打たれるというのに、理央は会長が触れることを厭わない。
嫉妬を隠して会長と副会長にも食事を取り分け、烏龍茶を配る。
ふと思い当たり、これ以上吉良と理央を見たくなかったこともあり、「食事が終わる頃戻ります」と告げて、PCルームに足を向けた。
数人の生徒が使っていたが、かまわずに一番後ろの背後を気にする必要が無い席につく。
眼帯を外してサーバーに繋ぎ、全生徒のバース性を確認する。
幼い頃から情報処理系の作業は片目だけでは困難だった。
特に記憶する作業は左目がなければ話にならない。
初めて会った時、理央には気味が悪いと言われてしまったが。
確かにそうなんだろう、俺の左目には色素が無く、青かった。
以来、常に眼帯で隠してきた。
ざっとデータを確認し、サーバーから切断する。
痕跡を消し、ひとつ息を吐いてから席を立った。
左目に眼帯をかけながらPCルームを出たところで吉良に出会す。
「……吉良会長、理央は」
「生徒会室だ。アルファは何人いた?」
「……二十七名です」
「教師関係者含め三十四だな。一割超えてる。驚異的数字だ。条世だけあるな」
「しかしオメガはアルファ以上にレアです」
「知ってるよ」
「……既に聞いておられたんですね」
「まぁな。理聖さんは外部のアルファを番わせる気はないようだし、そうなると番候補の筆頭は俺になる。まぁ当然だが」
肩を竦めてみせる吉良に舌打ちを耐えた。
俺がアルファでも、候補にすら入らない。
いっそベータならば、諦めもついた。
知らず拳を握り締める俺を、吉良が笑う。
「……お前もアルファだろう、大和」
「そうですが」
「……可哀想にな」
「……俺をあわれむのは止めてください」
「可哀想なのは理央だよ。暁で、オメガ。アルファ家系でただでさえ繁殖が困難だったところにオメガだ。今でさえ暁というだけで女どもの餌だったのに、そこに男ものっかってくることになる。女は別校舎だが男はそうもいかない。特に男に『そういう』対象に見られんのは理央にとって最大の屈辱だからな」
「どういうことですか」
過去の何かを匂わせる吉良の物言いに、思わず問い返す。
「なんだ、知らねーのか。理央がガキの頃にな、理央に手を出した客がいた。今理央が住んでる邸はその男の貢ぎ物だ。男はその後間もなく蒸発したときくが、実際のところは誰も知らない。まあ、暁の人間に手をだしたんだ、どうなっても、」
知らず知らず吉良に詰め寄っていた。
「……それは、理央になにか、あったんですか」
「……お前、」
眉を寄せた吉良に肩を叩かれて我に返る。
「……すみません、」
「何もなかった。客を『視る』時は理聖さんも別室で見てんだし。ちょっと触られたくらいだろ」
「……そう、ですか」
胸を撫で下ろす俺に、呆れたというように吉良が溜め息を吐く。
「そんなに怒っても、理央はお前の番じゃねーんだぞ」
「理央は俺の主人です」
「……明らかにアルファとしてキレてただろうが」
「……」
返す言葉が見つからず、落ち着こうと奥歯を噛み締めた。
「お前、そんな状態で理央の側近でいられるのか。理央に番ができて正気でいられるか?」
「……理央が、……幸せならば、耐えられます」
「耐えられるって顔じゃねーよ、……大和」
理央を失うことよりも、恐ろしいことはない。
アルファとして番に選ばれることはなくとも、理央の剱として仕えることが許されるならば、耐えられる。
嫉妬を隠して会長と副会長にも食事を取り分け、烏龍茶を配る。
ふと思い当たり、これ以上吉良と理央を見たくなかったこともあり、「食事が終わる頃戻ります」と告げて、PCルームに足を向けた。
数人の生徒が使っていたが、かまわずに一番後ろの背後を気にする必要が無い席につく。
眼帯を外してサーバーに繋ぎ、全生徒のバース性を確認する。
幼い頃から情報処理系の作業は片目だけでは困難だった。
特に記憶する作業は左目がなければ話にならない。
初めて会った時、理央には気味が悪いと言われてしまったが。
確かにそうなんだろう、俺の左目には色素が無く、青かった。
以来、常に眼帯で隠してきた。
ざっとデータを確認し、サーバーから切断する。
痕跡を消し、ひとつ息を吐いてから席を立った。
左目に眼帯をかけながらPCルームを出たところで吉良に出会す。
「……吉良会長、理央は」
「生徒会室だ。アルファは何人いた?」
「……二十七名です」
「教師関係者含め三十四だな。一割超えてる。驚異的数字だ。条世だけあるな」
「しかしオメガはアルファ以上にレアです」
「知ってるよ」
「……既に聞いておられたんですね」
「まぁな。理聖さんは外部のアルファを番わせる気はないようだし、そうなると番候補の筆頭は俺になる。まぁ当然だが」
肩を竦めてみせる吉良に舌打ちを耐えた。
俺がアルファでも、候補にすら入らない。
いっそベータならば、諦めもついた。
知らず拳を握り締める俺を、吉良が笑う。
「……お前もアルファだろう、大和」
「そうですが」
「……可哀想にな」
「……俺をあわれむのは止めてください」
「可哀想なのは理央だよ。暁で、オメガ。アルファ家系でただでさえ繁殖が困難だったところにオメガだ。今でさえ暁というだけで女どもの餌だったのに、そこに男ものっかってくることになる。女は別校舎だが男はそうもいかない。特に男に『そういう』対象に見られんのは理央にとって最大の屈辱だからな」
「どういうことですか」
過去の何かを匂わせる吉良の物言いに、思わず問い返す。
「なんだ、知らねーのか。理央がガキの頃にな、理央に手を出した客がいた。今理央が住んでる邸はその男の貢ぎ物だ。男はその後間もなく蒸発したときくが、実際のところは誰も知らない。まあ、暁の人間に手をだしたんだ、どうなっても、」
知らず知らず吉良に詰め寄っていた。
「……それは、理央になにか、あったんですか」
「……お前、」
眉を寄せた吉良に肩を叩かれて我に返る。
「……すみません、」
「何もなかった。客を『視る』時は理聖さんも別室で見てんだし。ちょっと触られたくらいだろ」
「……そう、ですか」
胸を撫で下ろす俺に、呆れたというように吉良が溜め息を吐く。
「そんなに怒っても、理央はお前の番じゃねーんだぞ」
「理央は俺の主人です」
「……明らかにアルファとしてキレてただろうが」
「……」
返す言葉が見つからず、落ち着こうと奥歯を噛み締めた。
「お前、そんな状態で理央の側近でいられるのか。理央に番ができて正気でいられるか?」
「……理央が、……幸せならば、耐えられます」
「耐えられるって顔じゃねーよ、……大和」
理央を失うことよりも、恐ろしいことはない。
アルファとして番に選ばれることはなくとも、理央の剱として仕えることが許されるならば、耐えられる。
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