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2.裏返る
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剱としてすら気に入られていない俺が、理央に番として望まれるわけもない。
結局、この目の前のアルファが理央の番に最も相応しいのだろう。
吉良に、主人を奪われる剱など。
……一族の恥でしかない。
「……俺は、剱としても理央に嫌われていますから。番になどと、望まれるわけもありません。せめてこのまま剱としてお仕えさせていただけるよう、……祈るだけです」
「理央も近々発情期がくる。抑制剤を持たせておけ」
「それは既に。理央にも持たせ、俺も一応持っております」
「お前はオメガのフェロモンを経験したことは?」
「ありません。身内含め、周囲にオメガがおりませんでしたので」
「……だったら尚更気を付けろ。あれは意思の強さでどうにかなるようなものじゃない。理性と本能が裏返る」
「……裏返る、」
廊下の窓から空を眺めながら溜め息を吐くようにそう言った吉良に、既に経験済みなのだと覚る。
やがて空から俺に視線を戻し、制服の上着から何か取り出して俺に投げて寄越した。
無意識に受け止めて手の中を確認する。カプセルのシートだった。
「ウチで開発中の遮断薬だ。まだ試験中だが効果は実証済みだ。一定時間アルファの嗅覚を鈍らせる。ヤバそうなら使え」
「……なぜこんなものを」
「お前はともかく俺は吉良を継ぐ。他所のオメガと間違いがあると困るんだよ」
「……お気遣い、感謝します」
※
「いい加減にしなよ」
「……」
俺に触れようとして弾かれた自分の手のひらを、理央は不可解なものであるかのように見つめた。
「剱はあんたの奴隷じゃないんだけど。気分で殴ったりしていいと思ってんの」
「……思ってるけど?」
「は?」
それから噛み付くように訊き返した二条に視線を戻す。
放課後とはいえ、疎らにいる生徒の視線をわざわざかき集めた二条に、理央は眉を寄せた。
切れた俺の唇の端を見上げてくる二条を剣呑な目で眺めながら、理央が俺を呼ぶ。
「……剱」
「はい」
「お前は何だ」
「理央の剱です」
「……つまり?」
「理央の好きなように扱って下さい」
俺の答えに理央が「だって」と二条を見下ろす。
身体も小さい二条は、理央を見上げながら唇を噛んだ。
オメガらしい体格。
いや、むしろ理央がオメガの規格から外れているのだ。
「可哀想、……剱」
「……いえ、俺は理央の剱として生まれて来て幸せですから」
理央が溜め息を吐き、もう十分だと言うように肩を竦めて見せる。
「帰る。……剱」
「はい」
踵を返した理央の首筋に、俺は見とれた。
「……っ暁なんてただの情報屋じゃん」
背後で喚く二条を無視して、理央は教室を出る。
その真っ直ぐで華奢な背中を、俺は追いかけた。
正門を出たところで目前に車が滑り込み、そこで俺は理央の隣に並んだ。
「……剱」
ドアを開けようとして名を呼ばれ、振り返る。
「……お前は誰のものだ」
「理央のものです。ここにある全てが、あなたの為のもの」
躊躇うことなく答えた。
……なのに。
「……そうか」
一瞬、理央が泣きそうに唇を歪めたのを、俺は見逃さなかった。
ドアを開け、理央に続いて俺も乗り込む。
理央はいつも通り、つまらなさそうに窓の外を眺めていた。
「……理央」
「なんだ」
「俺は、理央のものではないのですか」
そう呟けば、理央は左腕を持ち上げた。
その手を取り、手首に唇を押し付ける。
白い理央の手のひらが、俺の頬を撫でた。
指先に口付けたら理央が俺を振り返る。窓の向こうに夕陽が見えた。
逆光で、理央の表情は俺には見えない。
「……お前は、お前のものだ」
そう答えた理央からは、甘い馨りがした。
結局、この目の前のアルファが理央の番に最も相応しいのだろう。
吉良に、主人を奪われる剱など。
……一族の恥でしかない。
「……俺は、剱としても理央に嫌われていますから。番になどと、望まれるわけもありません。せめてこのまま剱としてお仕えさせていただけるよう、……祈るだけです」
「理央も近々発情期がくる。抑制剤を持たせておけ」
「それは既に。理央にも持たせ、俺も一応持っております」
「お前はオメガのフェロモンを経験したことは?」
「ありません。身内含め、周囲にオメガがおりませんでしたので」
「……だったら尚更気を付けろ。あれは意思の強さでどうにかなるようなものじゃない。理性と本能が裏返る」
「……裏返る、」
廊下の窓から空を眺めながら溜め息を吐くようにそう言った吉良に、既に経験済みなのだと覚る。
やがて空から俺に視線を戻し、制服の上着から何か取り出して俺に投げて寄越した。
無意識に受け止めて手の中を確認する。カプセルのシートだった。
「ウチで開発中の遮断薬だ。まだ試験中だが効果は実証済みだ。一定時間アルファの嗅覚を鈍らせる。ヤバそうなら使え」
「……なぜこんなものを」
「お前はともかく俺は吉良を継ぐ。他所のオメガと間違いがあると困るんだよ」
「……お気遣い、感謝します」
※
「いい加減にしなよ」
「……」
俺に触れようとして弾かれた自分の手のひらを、理央は不可解なものであるかのように見つめた。
「剱はあんたの奴隷じゃないんだけど。気分で殴ったりしていいと思ってんの」
「……思ってるけど?」
「は?」
それから噛み付くように訊き返した二条に視線を戻す。
放課後とはいえ、疎らにいる生徒の視線をわざわざかき集めた二条に、理央は眉を寄せた。
切れた俺の唇の端を見上げてくる二条を剣呑な目で眺めながら、理央が俺を呼ぶ。
「……剱」
「はい」
「お前は何だ」
「理央の剱です」
「……つまり?」
「理央の好きなように扱って下さい」
俺の答えに理央が「だって」と二条を見下ろす。
身体も小さい二条は、理央を見上げながら唇を噛んだ。
オメガらしい体格。
いや、むしろ理央がオメガの規格から外れているのだ。
「可哀想、……剱」
「……いえ、俺は理央の剱として生まれて来て幸せですから」
理央が溜め息を吐き、もう十分だと言うように肩を竦めて見せる。
「帰る。……剱」
「はい」
踵を返した理央の首筋に、俺は見とれた。
「……っ暁なんてただの情報屋じゃん」
背後で喚く二条を無視して、理央は教室を出る。
その真っ直ぐで華奢な背中を、俺は追いかけた。
正門を出たところで目前に車が滑り込み、そこで俺は理央の隣に並んだ。
「……剱」
ドアを開けようとして名を呼ばれ、振り返る。
「……お前は誰のものだ」
「理央のものです。ここにある全てが、あなたの為のもの」
躊躇うことなく答えた。
……なのに。
「……そうか」
一瞬、理央が泣きそうに唇を歪めたのを、俺は見逃さなかった。
ドアを開け、理央に続いて俺も乗り込む。
理央はいつも通り、つまらなさそうに窓の外を眺めていた。
「……理央」
「なんだ」
「俺は、理央のものではないのですか」
そう呟けば、理央は左腕を持ち上げた。
その手を取り、手首に唇を押し付ける。
白い理央の手のひらが、俺の頬を撫でた。
指先に口付けたら理央が俺を振り返る。窓の向こうに夕陽が見えた。
逆光で、理央の表情は俺には見えない。
「……お前は、お前のものだ」
そう答えた理央からは、甘い馨りがした。
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