虚口の犬。alternative

HACCA

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2.裏返る

1

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「剱」

「ああ、どうしたの、二条」

目が合った瞬間、二条が眉を寄せた。

「……頬、どうしたの。口切れてんじゃん」

「理央を怒らせただけ。それより用があったんじゃないの」

「……ここ、解らなかったから教えて」

四限の数学の授業の前にクラスメイトの二条の宿題をみながら、俺は理央のことを考えていた。

理央が、オメガ。

本来なら、俺と番になることもできた。

だが、俺は剱だ。

直系ではない暁との婚姻は許されるが、直系との婚姻は許されない。

次期当主の理央ならば絶対に、だ。

知らずペンを握り締めていた。

「剱?」

二条に呼ばれてハッとする。

「ああ、……ごめん、ぼーっとしてた」

「大丈夫?保健室行こうか?」

「いや、何でもないから」

過去の遺恨を気にせずに剱である俺に話しかけてくる二条の人間は珍しい。

これほど剱に好意を露にすることも。

これくらい、理央にも興味を持ってもらえたら、と考えて直ぐに否定した。

理央は俺の主人であり、それ以上を求めていい対象ではない。

因数分解の公式を二条に説明しながら、既に理央をオメガとして見始めている自分を自覚し、嫌気がさした。





「理央」

「今日も生徒会室か」

「はい」

食堂を嫌がる理央の為に昼食は毎回空き教室か生徒会室を借りている。

生徒会室へ向かいながら、そういえば生徒会長の吉良令明もアルファだったことを思い出した。

予め借りていた鍵を使用してドアを開け、中に入る。

本来部外者が鍵を借りることは難しいが、暁程のVIPになると話は変わってくるようだ。

むしろどこへ行っても注目を浴びるため、目立たず行動してくれた方が学校側も困らないのだろう。

「理央、何を飲まれますか」

「烏龍茶」

「はい」

窓際のデスクにランチボックスを広げてから簡易給湯室に向かう。

今朝は時間があったので俺が作ったが、理央がぐずった朝は風呂にいれることになるため厨房の宮野に頼むことになる。

そして大体においてその可能性の方が高い。

そんなことを考えながら烏龍茶を用意して給湯室を出たら、吉良生徒会長と二条副会長も生徒会室に来ていた。

副会長は俺のクラスメイトの二条優貴の兄である。

理央の隣に座って肩を抱き、理央に鬱陶し気にあしらわれている男は剱と同じく暁に連なる一族の一人。

『吉良』家の次期当主、吉良令明。

吉良は暁の遠縁にあたり、完全に暁寄りの家だった。

理央のバース性のことは、もう耳に入っているのだろうか。

「理央は冷てーよなぁ。……こんなんじゃお前も大変だな、大和」

「五月蝿いですよ。剱に余計なこと言わないで下さい」

「……いえ」



特に大変だなどと、考えたことはない。

理央に仕えることに、疑問を持ったこともない。

殴られても蹴られても、理央が俺の主人であることに変わりはない。


ただ先程から、理央の肩を抱く吉良会長の腕が目障りで仕方がなかった。
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