虚口の犬。alternative

HACCA

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5.許されない者

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「俺が剱になってやろうか、理央」

「…考えておきます」

悪寒が背を駆け抜ける。



吉良でも、いいのか。

アルファとして番い、理央の絶対的庇護者になれるのなら。



自分は、アルファとしても剱としても吉良に劣るのだと認めるには、俺は理央と時間を共有しすぎていた。



湯が沸くのを待っている間、不意に鼻をついた甘い匂いに、火を止めてデスクに戻る。

「おい、理央」

僅かに焦りを含んだ吉良の声を聞きながら遮断薬を取りだし、口に含んだ。

錠剤を噛みながら生徒会室のドアに鍵をかける。

副会長が来る前でよかった。

「会長、これを」

俺と同じように錠剤を噛みながら頓服薬を受け取り、吉良は俺に「よく持ってたな」と皮肉を込めて笑う。

「先日の二条の件で学習しましたので」

「それにしてもこのタイミングか、…理央、飲めるか」

「…っ」

自分の身体を抱き締めて椅子に座っているのもやっとな様子の理央の背を、吉良は手のひらでそっと撫でた。

「…水を持ってきます」

「頼む」

キッチンの奥の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グラスに注ぐ。

デスクに戻ってグラスを置き、理央の肩に触れたら派手に身体を跳ねさせて、理央は俺を見た。

「…っ、つるぎ、」

理央の声も身体も震えている。

皮膚からすら染み込んでくる気がする強烈な甘い匂いに目眩がした。

「理央、…っ薬を、」

吉良が差し出した薬を横目に見て、手をのばした理央の手を、先に吉良が掴む。

「…っあ、」

「理央、」

吉良から明確な欲を感じ取って、声をあげた理央を腕に抱き込んで吉良の手首を掴んだ。

「…気を確かに、吉良会長、…もう少しで遮断薬の効果が出ます」

「っああ、」

吉良の手から薬を受け取り、震える理央の顎を掴んで上を向かせ、その唇を指で撫でる。

「…っこわい、…っつるぎ、」

興奮のせいで目元が酷く赤い。

「薬を飲めば治まりますから、」

素直に口を開けた理央の下唇を親指で辿り、舌に薬を乗せた。

「は、ッア、」

「噛んで」

コクコクと頷いた理央の口にグラスを運ぶ。

飲み下したのを確認してから、頬を撫でた。

「…っん、」

「すぐに落ち着きます。力を抜いて」

緊張で固くなった身体が弛緩するのを確認して、理央の髪に指を通す。

こめかみに口付けながら抑制剤の封を切った。

「…剱、」

「落ち着きましたか」

「多分、…」

「ではこちらの抑制剤も飲んでください」

まだ僅かに震えている理央に気付いて、汗ばんだ喉元を撫でた。

「…っ、」

「大丈夫です。吉良会長もすぐに落ち着きますから」

いまだ漂う甘い匂いに、遮断薬の副作用のせいか頭痛を感じる。

それにしても、運が良かった。

生徒会室で、身内のみ。

教室ならどうなっていたか。

バイオリズムが確定すれば次回からは事前に抑制剤を服用できる。

隣に座って天井を仰ぐ吉良の横顔に本能が垣間見えた。

「っは、流石に、…っ暁でオメガだと一族には強すぎる、」

「しっかりしてください、吉良会長、」

ようやく震えが止まった理央に抑制剤を飲ませ、デスクの椅子から抱え上げ、ソファに横にさせる。

余程消耗したのか、俺の腕の中で気を失っていた。

「くそ、窓開けろ、大和」

「はい」

悪態を吐く吉良の言う通りに窓を開け、吉良の隣、先ほどまで理央が座っていた椅子に座った。

頭痛が酷い。

「余裕かよ、テメー」

「貴方が居るからですよ。二人きりなら理性なんかとんでます」

「…は、テメーが居なきゃ抜いてる、」

「同じく」

窓からの空気を吸いながら、吉良が溜め息を吐く。

「他のオメガなんか比べもんになんねーわ、…」

「理央ですよ。アルファの特性を持つオメガです。比べるのも烏滸がましい、」

「そーだな」

苦く笑った吉良に、僅かばかり共感しつつ、頭痛を逃がそうと息を吐いた。

「アルファの特性を持つオメガ」と一人ごちた吉良に、「そうです」と同意する。

「何もかも持ちすぎだ、理央は」

「ええ」

「…護ってやんねーとな」

理央が眠るソファに目をやり、吉良はまた、一人言のように呟いた。
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