虚口の犬。alternative

HACCA

文字の大きさ
43 / 159
11.哀れな男

3

しおりを挟む




吉良が生徒会室に入って来て理央の隣に座り、肩を抱いたと思ったら眉を寄せた。

「…理央」

「何ですか」

「大和くせぇ」

無表情のまま箸から卵焼きを取り落とした理央が吉良に目をやる。

「…は?」

「だから大和くせぇ。何だよ、番ったのか?」

眉を寄せて俺に訊く吉良に料理を取り分けてため息を吐いた。

「…俺は剱です。そういえば二条副会長はもういらっしゃらないのですか?」

「あれはアルファだしな。遠慮してもらうことにした」

「…そうですか」

余計なことを言わぬよう理央に任せ、俺は簡易キッチンに引っ込む。

「で、番ったのか?」

「?…あぁ、…ここ数日一緒に寝てるんで」

「へぇ…?」

「…ヒート以降、一人で寝るのが苦手になりました、…神木の医師にはそういうものだと言われましたが。…それにフリーのアルファに他のオメガや女の匂いがついているとイラつきます。剱はいつも二条の匂いをさせていて落ち着かなかったので。自分の匂いをつけるのが手っ取り早いと思ったのですが…同じだけ俺に剱の匂いがついているということですね」

「俺は?」

「…は?」

理央がまた卵焼きを取り落とすのを、簡易キッチンから眺めた。

「俺にはつけねーのか」

「…令明からは別にメスの匂いはしませんから」

「テメェ、俺がどんだけ気を付けてると、…」

「わかってますよ。感謝してます」

「…なんっっっっか腑に落ちねェ…!」

笑う理央の横顔を見つめながら、俺には決して見せることのない表情だと、他人事のように思う。

俺に見せる笑顔はいつも、諦めと、自棄を含んでいた。



俺では駄目なのだ。

理央には、吉良でなければ。



知らず握り締めていた手のひらに爪が食い込み、皮が捲れていた。



美しい理央には、俺のような出来損ないの剱よりも吉良のほうが。

…相応しいのだ。



右手の薬指で光る銀のリングを外す。

端末で神木のIDに連絡をいれ、ティーセットを準備し、二人の座るデスクに戻った。

「…理央、所用を思い出しましたので席を外します」

「?、あぁ、」

「吉良会長、理央をお任せしても?」

「わかった。教室まで送る」

「お願いします」

頭を下げ、生徒会室を後にする。

自クラスの教室に戻って鞄を回収し、二条の追従を振り払って教室を出た。

車を待っていたら個人端末が震え、確認すると紫香楽からのメール。

ちょうどいい。

そう思いながら吉良のIDに『下校時の送迎もお願いします』と連絡を入れる。

そうしていたら目の前に車が滑り込んで停車した。

神木が降りる前に後部座席のドアを開けて乗り込む。

「どちらまで」

バックミラー越しに目が合った。

ハンドルを握ったままおどけるように肩を竦めて見せる神木に『シルバーコード』まで」と答える。

「銀細工の老舗に何の用が?」

怪訝な顔をした神木に目的を告げた。

「理央様のチョーカーの鍵指環のサイズが合っていないもので。その後分家の紫香楽先生のところまでお願いします」

「了解。ところでわざわざ後ろに乗らなくても助手席に乗ればいいのに」

「万が一理央様に見られたら面倒なのは貴方ですよ」

「ああ、確かに」

狐のように笑ってウィンカーを出し、神木は車を発進させた。







「お直しですか?」

「はい、…ああいや、同じものを、三サイズダウンで作っていただくことは可能ですか」

「こちらは自動ID認証の商品となりますが、ロック解除アイテムが二つ、存在することになりますがよろしいですか」

「はい」

「確認致しますので少々お待ちください」

頭を下げ、店内奥へと消える店員の背を眺めながら、一つ息を吐く。

決して広くはないが、白い壁紙に間接照明とシャンデリアがメインの店内の雰囲気は落ち着いている。

理聖様が愛用されるのも頷けた。

「お待たせ致しました。同一認証キーの発行を含め、一週間でお作り出来ます」

「ではそれでお願いします」





後部座席に乗り込むと同時に神木が苦笑した。

「君は本当に、愚かだ」

「…否定はしません。ですが、初めて理央様にいただいたものでしたので。…悪用するつもりはありません。ただ、手離したくはなかっただけです」

理央からすれば、ただ煩わしいものを俺に押し付けただけでしかないだろう。

俺にとっては選ばれたと勘違いしそうになるほどのことだったが。

「…ならいいがね」

車を発進させる眼鏡越しの神木の目は、レンズが反射して見えなかった。

「…紫香楽先生も、俺を信用してはいないようです」

「君は剱であり、アルファだ。信用できるはずがないだろう」

「アルファですが、剱です」

「言葉など求めてはいないんだ。過去を繰り返さなければそれでいい」

「理央様がこの世界から失われてしまうくらいなら自分を殺します」

「それはそれで。この世界から貴重なアルファの一人が失われることになってしまうが」

「…理央様を失うよりはマシでしょう」

「…確かにな」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...