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11.哀れな男
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※
吉良が生徒会室に入って来て理央の隣に座り、肩を抱いたと思ったら眉を寄せた。
「…理央」
「何ですか」
「大和くせぇ」
無表情のまま箸から卵焼きを取り落とした理央が吉良に目をやる。
「…は?」
「だから大和くせぇ。何だよ、番ったのか?」
眉を寄せて俺に訊く吉良に料理を取り分けてため息を吐いた。
「…俺は剱です。そういえば二条副会長はもういらっしゃらないのですか?」
「あれはアルファだしな。遠慮してもらうことにした」
「…そうですか」
余計なことを言わぬよう理央に任せ、俺は簡易キッチンに引っ込む。
「で、番ったのか?」
「?…あぁ、…ここ数日一緒に寝てるんで」
「へぇ…?」
「…ヒート以降、一人で寝るのが苦手になりました、…神木の医師にはそういうものだと言われましたが。…それにフリーのアルファに他のオメガや女の匂いがついているとイラつきます。剱はいつも二条の匂いをさせていて落ち着かなかったので。自分の匂いをつけるのが手っ取り早いと思ったのですが…同じだけ俺に剱の匂いがついているということですね」
「俺は?」
「…は?」
理央がまた卵焼きを取り落とすのを、簡易キッチンから眺めた。
「俺にはつけねーのか」
「…令明からは別にメスの匂いはしませんから」
「テメェ、俺がどんだけ気を付けてると、…」
「わかってますよ。感謝してます」
「…なんっっっっか腑に落ちねェ…!」
笑う理央の横顔を見つめながら、俺には決して見せることのない表情だと、他人事のように思う。
俺に見せる笑顔はいつも、諦めと、自棄を含んでいた。
俺では駄目なのだ。
理央には、吉良でなければ。
知らず握り締めていた手のひらに爪が食い込み、皮が捲れていた。
美しい理央には、俺のような出来損ないの剱よりも吉良のほうが。
…相応しいのだ。
右手の薬指で光る銀のリングを外す。
端末で神木のIDに連絡をいれ、ティーセットを準備し、二人の座るデスクに戻った。
「…理央、所用を思い出しましたので席を外します」
「?、あぁ、」
「吉良会長、理央をお任せしても?」
「わかった。教室まで送る」
「お願いします」
頭を下げ、生徒会室を後にする。
自クラスの教室に戻って鞄を回収し、二条の追従を振り払って教室を出た。
車を待っていたら個人端末が震え、確認すると紫香楽からのメール。
ちょうどいい。
そう思いながら吉良のIDに『下校時の送迎もお願いします』と連絡を入れる。
そうしていたら目の前に車が滑り込んで停車した。
神木が降りる前に後部座席のドアを開けて乗り込む。
「どちらまで」
バックミラー越しに目が合った。
ハンドルを握ったままおどけるように肩を竦めて見せる神木に『シルバーコード』まで」と答える。
「銀細工の老舗に何の用が?」
怪訝な顔をした神木に目的を告げた。
「理央様のチョーカーの鍵指環のサイズが合っていないもので。その後分家の紫香楽先生のところまでお願いします」
「了解。ところでわざわざ後ろに乗らなくても助手席に乗ればいいのに」
「万が一理央様に見られたら面倒なのは貴方ですよ」
「ああ、確かに」
狐のように笑ってウィンカーを出し、神木は車を発進させた。
※
「お直しですか?」
「はい、…ああいや、同じものを、三サイズダウンで作っていただくことは可能ですか」
「こちらは自動ID認証の商品となりますが、ロック解除アイテムが二つ、存在することになりますがよろしいですか」
「はい」
「確認致しますので少々お待ちください」
頭を下げ、店内奥へと消える店員の背を眺めながら、一つ息を吐く。
決して広くはないが、白い壁紙に間接照明とシャンデリアがメインの店内の雰囲気は落ち着いている。
理聖様が愛用されるのも頷けた。
「お待たせ致しました。同一認証キーの発行を含め、一週間でお作り出来ます」
「ではそれでお願いします」
後部座席に乗り込むと同時に神木が苦笑した。
「君は本当に、愚かだ」
「…否定はしません。ですが、初めて理央様にいただいたものでしたので。…悪用するつもりはありません。ただ、手離したくはなかっただけです」
理央からすれば、ただ煩わしいものを俺に押し付けただけでしかないだろう。
俺にとっては選ばれたと勘違いしそうになるほどのことだったが。
「…ならいいがね」
車を発進させる眼鏡越しの神木の目は、レンズが反射して見えなかった。
「…紫香楽先生も、俺を信用してはいないようです」
「君は剱であり、アルファだ。信用できるはずがないだろう」
「アルファですが、剱です」
「言葉など求めてはいないんだ。過去を繰り返さなければそれでいい」
「理央様がこの世界から失われてしまうくらいなら自分を殺します」
「それはそれで。この世界から貴重なアルファの一人が失われることになってしまうが」
「…理央様を失うよりはマシでしょう」
「…確かにな」
吉良が生徒会室に入って来て理央の隣に座り、肩を抱いたと思ったら眉を寄せた。
「…理央」
「何ですか」
「大和くせぇ」
無表情のまま箸から卵焼きを取り落とした理央が吉良に目をやる。
「…は?」
「だから大和くせぇ。何だよ、番ったのか?」
眉を寄せて俺に訊く吉良に料理を取り分けてため息を吐いた。
「…俺は剱です。そういえば二条副会長はもういらっしゃらないのですか?」
「あれはアルファだしな。遠慮してもらうことにした」
「…そうですか」
余計なことを言わぬよう理央に任せ、俺は簡易キッチンに引っ込む。
「で、番ったのか?」
「?…あぁ、…ここ数日一緒に寝てるんで」
「へぇ…?」
「…ヒート以降、一人で寝るのが苦手になりました、…神木の医師にはそういうものだと言われましたが。…それにフリーのアルファに他のオメガや女の匂いがついているとイラつきます。剱はいつも二条の匂いをさせていて落ち着かなかったので。自分の匂いをつけるのが手っ取り早いと思ったのですが…同じだけ俺に剱の匂いがついているということですね」
「俺は?」
「…は?」
理央がまた卵焼きを取り落とすのを、簡易キッチンから眺めた。
「俺にはつけねーのか」
「…令明からは別にメスの匂いはしませんから」
「テメェ、俺がどんだけ気を付けてると、…」
「わかってますよ。感謝してます」
「…なんっっっっか腑に落ちねェ…!」
笑う理央の横顔を見つめながら、俺には決して見せることのない表情だと、他人事のように思う。
俺に見せる笑顔はいつも、諦めと、自棄を含んでいた。
俺では駄目なのだ。
理央には、吉良でなければ。
知らず握り締めていた手のひらに爪が食い込み、皮が捲れていた。
美しい理央には、俺のような出来損ないの剱よりも吉良のほうが。
…相応しいのだ。
右手の薬指で光る銀のリングを外す。
端末で神木のIDに連絡をいれ、ティーセットを準備し、二人の座るデスクに戻った。
「…理央、所用を思い出しましたので席を外します」
「?、あぁ、」
「吉良会長、理央をお任せしても?」
「わかった。教室まで送る」
「お願いします」
頭を下げ、生徒会室を後にする。
自クラスの教室に戻って鞄を回収し、二条の追従を振り払って教室を出た。
車を待っていたら個人端末が震え、確認すると紫香楽からのメール。
ちょうどいい。
そう思いながら吉良のIDに『下校時の送迎もお願いします』と連絡を入れる。
そうしていたら目の前に車が滑り込んで停車した。
神木が降りる前に後部座席のドアを開けて乗り込む。
「どちらまで」
バックミラー越しに目が合った。
ハンドルを握ったままおどけるように肩を竦めて見せる神木に『シルバーコード』まで」と答える。
「銀細工の老舗に何の用が?」
怪訝な顔をした神木に目的を告げた。
「理央様のチョーカーの鍵指環のサイズが合っていないもので。その後分家の紫香楽先生のところまでお願いします」
「了解。ところでわざわざ後ろに乗らなくても助手席に乗ればいいのに」
「万が一理央様に見られたら面倒なのは貴方ですよ」
「ああ、確かに」
狐のように笑ってウィンカーを出し、神木は車を発進させた。
※
「お直しですか?」
「はい、…ああいや、同じものを、三サイズダウンで作っていただくことは可能ですか」
「こちらは自動ID認証の商品となりますが、ロック解除アイテムが二つ、存在することになりますがよろしいですか」
「はい」
「確認致しますので少々お待ちください」
頭を下げ、店内奥へと消える店員の背を眺めながら、一つ息を吐く。
決して広くはないが、白い壁紙に間接照明とシャンデリアがメインの店内の雰囲気は落ち着いている。
理聖様が愛用されるのも頷けた。
「お待たせ致しました。同一認証キーの発行を含め、一週間でお作り出来ます」
「ではそれでお願いします」
後部座席に乗り込むと同時に神木が苦笑した。
「君は本当に、愚かだ」
「…否定はしません。ですが、初めて理央様にいただいたものでしたので。…悪用するつもりはありません。ただ、手離したくはなかっただけです」
理央からすれば、ただ煩わしいものを俺に押し付けただけでしかないだろう。
俺にとっては選ばれたと勘違いしそうになるほどのことだったが。
「…ならいいがね」
車を発進させる眼鏡越しの神木の目は、レンズが反射して見えなかった。
「…紫香楽先生も、俺を信用してはいないようです」
「君は剱であり、アルファだ。信用できるはずがないだろう」
「アルファですが、剱です」
「言葉など求めてはいないんだ。過去を繰り返さなければそれでいい」
「理央様がこの世界から失われてしまうくらいなら自分を殺します」
「それはそれで。この世界から貴重なアルファの一人が失われることになってしまうが」
「…理央様を失うよりはマシでしょう」
「…確かにな」
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