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14.『大丈夫だ』
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しおりを挟む神木の部屋を出て理央の部屋を訪う。
ノックの後返事を待つ間、『もし、理央を抱けるのなら』と考えて、すぐに止めた。
遮断剤のシートから錠剤を取り出して飲み込み、主人の返答を待つ。
「入れ」
「失礼致します」
デスクにつく理央の足元に片膝をつき、主人の手の甲に唇を落とした。
その手が俺の頬を撫でるのを、俺は内心で喜ぶ。
俺の眼帯を指に絡めとり、理央は嘆息した。
「綺麗な青だ…」
俺は、理央の夜空を写し取ったかのような双眸をこそ美しいと思う。
だが俺が言葉を尽くしても、俺の主人は喜んでは下さらない。
「…夕食は摂られましたか、理央」
「ああ」
俺の手を取り、寝室に向かう主人の華奢な背中を追った。
ベッドに座る主人の手首に口付け、白い脚にもキスした。
「…好きです、理央」
「…」
いつものように理央に触れようとしたが、理央はその俺の手を取って指先に唇を押し付けた。
薄く柔らかい唇が人差し指の爪に触れ、心臓が跳ねる。
「理央、」
「…準備は自分でする。一緒に寝てくれ…、それだけでいい」
「っ、なぜ、」
「無理をするな」
「俺は無理など――」
「抱く気ねーだろう、お前」
「…」
俺の髪を撫で、「寝よう」と笑った理央は、また、何かを諦めた顔をしていた。
遠慮がちに身を寄せてくる理央を抱き寄せる。
「好きです、理央」
「…そうか」
嗚呼。
俺はまた、愛する主人に何かを諦めさせてしまったのだ。
※
深夜、自室に戻って今しがた届いた理央の顔合わせ相手の資料をプリントアウトして手に取り、写真で顔を確認して目で文字を追った。
風峯校三年、理系、伊関利也(いぜきとしや)。
伊関雅也の長男で妹が二人。
典型的アルファ家系で現在二親等にアルファが二人以上。
条世ほどではないにしろ、風峯も名門校である。
写真ではそこまで自己主張が強い顔立ちでもないが、逆にこういう無害そうな手合いほど狡知に長ける。
オスのオメガに乗り気ではないというのなら、そこまで警戒する必要はないのかもしれない。
しかし伊関利也が理央程のオメガを目の前にした経験があるとも思えなかった。
あるいは父親に経験があるのかもしれない。
後継にその経験をさせておきたいのか、あるいは――。
理央のヒートは周期的に二週間後だが前後する可能性はある。
どちらにしろフェロモンは濃くなる頃だ。
顔合わせは一週間後だと聞いている。
気になるほどだったら抑制剤を服用させておかなければ。
伊関の家であれば遮断剤を使用している可能性もあるが、あれが既に出回っているかはまだ吉良に確認をとっていない。
理央は嫌がるだろうが外部のアルファはやはり最大限警戒してあたるべきだ。
吉良ならばまだいい。
一族のアルファだ。
理央にどれ程の価値があるかを知っている。
何より、吉良自身が理央を愛していることがわかるし、理央も吉良には心を許している。
だがその価値も知らず、ただ『暁』の血が欲しいというだけで主人に触れられるのは我慢ならない。
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