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17.何も感じなかった
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しおりを挟むその違和感の正体を考えた時、はっきりと、自分はもはや、理央を暁としてだけではなく、オメガとして、あるいは『理央』として見ているのだと、自覚させられた。
※
自室で念入りにシャワーを浴びる。
車に乗せた時は俺が急かしたこともあって理央は何も言わなかったが、ヒート中の二条に触れた後だ。
手の傷にこびりついた血液を洗い流しながら息を吐く。
(…何も感じなかった)
仮にも、二条と番になったのに。
興奮も、番を得た歓喜も、何一つ。
(ヒート中ではなかったが、理央の項に歯をたてたときのほうが、余程――)
「…理央、…」
白い膚と、赤い唇の色、夜色の眸。
それから狭く熱い粘膜の感触を思い出しながら自慰に耽った。
浴室を出てクローゼットからシャツを選んでベッドに投げ、髪を拭きながらメディカルキットを開けて手の傷にジェルを塗る。
ガーゼをあて、テープを貼ってからネックレスを外し、鍵指輪を眺めた。
(これを使えば、理央を番にできる)
あの美しい黒髪も、甘い舌も、白い膚もしなやかな身体も全て、自分のものに――。
そこまで考えて、自分の思考が矢田と大差ないことに気付いて苦笑した。
(下等なアルファが考えそうなことだ)
所詮、自分もその程度のアルファなのだ。
戯れに主人に与えられたこんなものにすがることでしか、自分の価値を見出だせない。
(気紛れだとしても、初めて理央にいただいたもの)
指輪に口付け、いつもの引き出しにしまって鍵をかけた。
シャツを着て身支度を整え、眼帯を耳にかける。
しばらくは、…いやもしかすると、今日を最後に俺は理央には会えない。
厨房に寄り、宮野に声をかけた。
「理央様の昼食は」
「遅めに、とのことでこれからです」
「では給仕は自分が」俺の予想よりも、理央は穏やかだった。
食事中は無言だったが、食事を終え、グラスの水を口にした後、俺に言葉をかけてくれた。
「…今日は手間をかけさせたな、悪かった」
「いえ、元はといえば携帯端末を理央に直接お渡ししなかった自分の失態です」
「…謹慎に、なると聞いた」
「…はい」
手を差し出され、膝をついてその甲に唇を落とす。
俺は二条との件を理央が口にしなかったことに安堵していた。
理央の細い指が俺の眼帯を解こうとして、その前にその手に頬を寄せ、手のひらに口付ける。
理央は少し驚いた顔をしたが、何も言わずに俺の髪を撫でてくれた。
立ち上がって内線でメイドを喚ぶ。
「紅茶を」
『かしこまりました』
やがてティーワゴンを押して現れたメイドからワゴンを受け取って、寝室のドアを開け、サイドソファ横のテーブルセットにティーセットを置いた。
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