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19.それがアルファで、そうさせるのがオメガ
2
しおりを挟む理央を自らの手で傷付けてしまうという確信。
俺は、それが何よりも怖かった。
爪の痕が残る手のひらを再び握りしめる。
(耐えろ)
理央に捨てられてしまったら、俺は『俺の全て』を失う。
(理央というオメガを失っても、理央という主人が居てくださるなら耐えられる)
自分が、もっと。
理央が求めてくれるくらいの上等なアルファであれば、繋ぎ止める方法もあったかもしれない。
だが現実は抱き枕にもなれないアルファだ。
俺が触れても理央は満たされない。
「…、」
痛みに我に返り、血が滲む手でディスプレイをタップした。
(…大丈夫だ。念入りに匂いをおとせば、理央も気付かない。二条の時も大丈夫だった。番のヒートにしか反応しなくなれば、遮断剤も必要ない。理央に欲望を感じずに触れられる筈だ)
黒髪に黒目の、幼い顔立ちの少女に目がとまる。
ショートカットがなお気に入った。
一週間以内にヒートの予定。
望むのは番契約のみ。
早いうちに社会的ハンデとなるヒートを排除し、ベータとして生きたいという理由だった。
(好きでもない、初めて会う人間と本能だけの番契約。オメガもアルファも、ただの本能の犠牲者だろう)
そう思いながら、一次申請のボタンをタップした。
相手に気に入られれば二次申請で顔合わせとなり、三次で契約内容最終確認を行い、四次で契約となる。
このデータベースを使うのは登録者、閲覧者共にごく一部の人間に限られている。
余程のことがない限り、申請は通る筈だ。
「…お許し下さい、理央様。…番がいても、俺の忠誠も、心もあなただけのものです」
仮令この感情が、ただの本能だとしても。
※
「大和」
ダイニングキッチンで朝食の用意をしていたら兄に呼ばれて振り返った。
「はい」
「今日の朝はお前が作るのか」
カウンターの椅子に座る兄に頷きつつサーバーからカップに珈琲を注いで兄に出す。
「ええ。特にやることもありませんので。兄さんは大学ですか」
「いや、お前の話を聞こうと思ってね」
「…そうですか」
ロースターで薄めにスライスしたバタールと肉を焼きながらマヨネーズベースのソースを作った。
剱の家では食事に五月蝿い者は居ない。
片手で済む簡単なものでいい。
「理央様も召し上がったのか?」
「…これは自分用です。簡単に済むので」
「つまらんな」
焼き目がついたパンにソースを塗りながら肉をロースターから下ろし、適当に冷ましながら兄が求めている言葉を口にする。
「…仮に理央様に出すならサーモンを焼きますよ」
肉とレタスをパンで挟み、幾つか乗せた皿を兄の前に置く。
「お好きなのか」
「ええ」
兄の仁が目を細めたとき、弟の周と父が合流した。
「おはよう」
「おはよう御座います」
「パパは鶏肉がよかったなぁ」
「でしたらご自分でご用意下さい」
「食べないとは言ってないでしょ」
兄と父、それから弟の分の皿とは別に、母の分の皿を置く。
「…仁」
「はいはい」
父の感情ののらない、確認するような声に呼ばれ、兄は母の分の皿を取って席を立つ。
「兄さん」
「ん」
トレイを用意して兄の手から皿を受け取り、サーバーからカップに珈琲を注いで共にトレイに乗せた。
冷蔵庫からヨーグルトとフルーツの小皿を出して皿の横に置く。
「どうぞ」
「どうも」
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