虚口の犬。alternative

HACCA

文字の大きさ
99 / 159
19.それがアルファで、そうさせるのがオメガ

4

しおりを挟む
「それでも理央様は側においてくださるのか。お優しい。お前が気に入られているのか、アルファであるからか、どちらなのだろうな」

「…」

何も、言えなかった。

前者である筈がない。

だが後者であるとも、口に出したくはなかった。



(俺は理央を満たして差し上げられるほど上等なアルファではない)



「一度でいいから理央様にお会いしてみたいものだ。あの黒髪に触れてあの白い手に口付けてみたい」

「…兄さん」

「想うくらいいいだろう。どうせこの身はこの家に埋もれるのだから」

食事する気も失せ、椅子を引く。

「…主人に対して向けられる欲を語られるのは、あまりいい気がしません」

「一族全ての主(あるじ)でもある。『お前だけの理央様』ではないんだぞ」

「…失礼します」

席を立った。

「お前は飽くまでも従僕であって、理央様を独占出来るような立場にない。可愛いがられているのか知らんが、勘違いするな」

「貴方こそ。…理央様を貶めるような発言は控えていただきたい」

自分の声の低さにハッとする。

そんな俺を見て、兄はくすりと笑った。

「…食事は?」

「…後ほど、…一人でいただきます」

ダイニングを後にし、自室に戻った。



理央をあいしているのは自分だけではないし、自分の代わりならばいくらでもいる。



現に今は司が理央に付いている。

それでも理央は『戻ってこい』と言ってくれた。

ソファに座り、天井を仰ぐ。

午前六時三十分。

時計を確認し、自分の携帯端末を手に取って司に発信した。

『はい、司です』

「お早うございます」

『お早う御座います、大和様』

「その後問題は?」

『特に御座いません』

「…そうですか、ではまた明日、この時間に連絡します」

『かしこまりました、失礼致します』

通話を切り、一つ息を吐く。

まだ、たった一日。

たった一日、理央に会えないだけでこの有り様かと自分を笑った。

これからの数日で理央の気が変わる可能性だってある。

俺よりも司を選ばれたら、それで終わりだ。

期待などするなと自分に言い聞かせる。

主人の側に居られるだけで幸せなのだと思い知った。

姿が見えないくらいならば、理央が吉良を見ていてもこの目に理央を捉えられている方がいい。



(嫌われていても、殴られても蹴られても、側に居られるだけでいい)



顔を上げ、デスクのマシンを見た。

先日の申請結果が来ていないかを確認しようとマシンを起動し、珈琲を淹れようとダイニングに向かう。

兄の姿はなく、カウンターの端に自分の朝食の皿が先程のまま置かれていた。

手早く食事を済ませ、シンクに下げられている皿を洗う。

カウンターテーブルを拭き、珈琲を注いだカップと共に自室に戻り、デスクについた。

ディスプレイは既にスリープ状態に移行していた。



結果はまだ届いていない。



焦り過ぎている自覚はあったが、謹慎中に契約を済ませるなら急がなければならないのも事実。



この時、俺はただ焦っていて、そして無知故に愚かで、理央の優しさにも無表情で隠しがちな表情にも気付ける余裕などなく、ただただひたすら、自分の本能が理央を傷付けることを恐れていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...