107 / 159
21.あるいはその全て
4
しおりを挟む※
翌朝。
謹慎が解除されると同時に車を手配し、エントランスに向かいながら理央に連絡した。
『…どうした』
「お早うございます。起こしてしまいましたか」
『いや…、』
歯切れの悪い様子の理央の声と衣擦れの音に微かな焦燥を感じ、奥歯を噛み締める。
「…謹慎が解除されましたので…これから戻ります。よろしいでしょうか」
『っ、あぁ、…早く戻れ』
微かに聞こえた司の声に唾液を飲み込んだ。
「…ご都合が悪ければ、…時間を調整します」
司に抱かれて眠る理央など絶対に見たくないと思った。
『早く戻れと言った』
「はい」
『初日にも最短で戻れと言っただろ、』
携帯デバイスのイヤホン越しに聞こえた理央の名前を呼ぶ司のかすれた声に苛立つ。
「…かしこまりました」
『早く帰ってこい、大和、』
「…はい」
これ以上なく歓喜すべき言葉だったが、背後に感じる司の気配に苛立ちを隠しきれる自信がなくなり、通話を切った。
(やはり俺の代わりに司と眠っているのだ)
暗くなったディスプレイから顔を上げた瞬間目の前に車が滑り込み、後部座席に乗り込む。
理央の邸へ向かう車の中、ぼんやりと、瑞穂の言葉を思い出した。
『綺麗です、その目の色。幼い頃から、そう思っておりました』
手のひらで左目を覆い隠す。
初めて会ったとき、理央には気持ち悪いと言われた。
今、理央はこの目を美しいと言ってくれる。
「理央だけでいい…」
この目を嫌うのも気に入るのも、俺には理央だけでよかった。
「謹慎中、どんな気持ちだった」
唐突に耳に入った声に顔を上げる。
そういえば運転手は神木だったことを思い出し、苦く笑った。
「…理央様が俺を嫌っていようと吉良に笑いかけていようと、そのお姿を目にしていられるだけで幸せなのだと気付かされました。自分は随分と…夢をみていたようです。戻ったら理央様が想っておられるアルファを探すことに専念します」
「…何故そうなる」
「番の契約申請を出したかたから、回答すら貰えないアルファなんですよ、俺は」
「暁付の剱であるきみが?」
「ええ。理央様に求められるようなアルファは、どれだけ上等なアルファなのでしょうか。自分にもトレース出来る方であればいいのですが…それくらい出来なければ、本当に…俺など何の役にも…」
「きみは剱だ。側に居て、暁を癒やすのが仕事だ」
「俺よりも吉良のほうが…現状、理央様を癒やしてます」
「…」
「本当は、…戻らないほうが理央様のためにいいのではないかと思いました。…戻っていいのかと理央様にお訊きしたら、好きにしろと。…まだ許されているのなら、許される限りお側にと、俺は自分のエゴで戻ってきたんです」
「理央は…きみを好いているよ。僕が保証する」
バックミラー越しの神木の目を見る。
責めるような鋭い視線から目を逸らし、窓の外に目をやった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる