虚口の犬。alternative

HACCA

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21.あるいはその全て

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オフィス街のビルが建ち並ぶ景色は居心地の良い孤独と息苦しさを象徴している。

「何度も言いますが…貴方は以前の理央様を知らない。俺は何をしても理央様の不興を買っていたんですよ。よく打たれたものです。…今思えば、あの頃のほうが良かった。打たれれば理央様の気が済んで、打たれることで俺も理央様の気晴らしくらいにはなれていると思えましたから。…今はどうしたらいいのか分からない。理央様の役に立ちたくても、貴方や吉良にわかることが俺にはわからない」

「側に居てやればいい。オメガとして容姿に自信が無いというのならきみが抱いてやればいい。そうすれば多少なりとも自信を持てるようになるだろう」

父の言葉を思い出し、俺は情けなく自分を笑った。

「俺がどれ程言葉を尽くしても意味など無かった。…理央様が好いているアルファでなければ…」

「暁はその特性上、理性が勝つ生き物だ。言葉を尽くすよりも触れてやれ」

「…怖いんです、箍が外れそうで…理央様を傷付けてしまうのが何よりも、俺は…」

「理央は望んでいるんだろう?」



理央が望んでいるのは、俺ではない。



「行為を望んでいるのは、…わかります。オメガの本能でしょう。ですが俺のようなアルファに抱かれては後で後悔する…未経験ならばもっと上等な…いずれ番う吉良のほうがずっと良い。俺には吉良のような余裕はないんです。遮断剤で何とか抑えているだけで、もうギリギリなんですよ。…もし、抱いてしまったらきっと酷く扱ってしまう。これ以上理央様に嫌われたくありません、俺は…」

「…吉良よりも身近なアルファはきみしかいない。行為を望んでいるのなら抱いてやれ。それが早い」

神木が言いたいことはわかる。

それでも頷く事など出来ない。

「…理央様が想いを寄せているかたを探します。その方の思考や言動をトレース出来れば…そうすればきっと、理央様も自信を持てるようになるはずです」

「愚かな…」

「駄目です、俺などでは。もっと上等なアルファでなければ…理央様が俺に汚されるなどあってはならないことです」

神木のため息が聞こえた。

「きみは十分に上等なアルファだと思うが」

「…『アルファである』というだけのアルファです」

「頑なだな、きみも」

上等なアルファがオメガに触れれば落ち着くのかもしれないが、理央は俺が触れるのを厭う。

吉良には触れられても放置しているが、俺が触れれば理央は俺の腕を解いて俺に奉仕しようとする。

これ以上嫌われたくない俺には、理央のされるがままになるしかない。

神木のため息に顔を上げた。

信号で停車すると、神木がこちらを見ずに手を差し出す。手のひらで受け取ったら鍵指輪だった。



思わず握り締め、吐息した。



「戻って来たからね。返しておくよ」

「有難うございます」

「それは絶対に使われてはならない。わかっているとは思うが」

「はい」

「理央が好きか」

「…お慕いしております」

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