108 / 159
21.あるいはその全て
5
しおりを挟むオフィス街のビルが建ち並ぶ景色は居心地の良い孤独と息苦しさを象徴している。
「何度も言いますが…貴方は以前の理央様を知らない。俺は何をしても理央様の不興を買っていたんですよ。よく打たれたものです。…今思えば、あの頃のほうが良かった。打たれれば理央様の気が済んで、打たれることで俺も理央様の気晴らしくらいにはなれていると思えましたから。…今はどうしたらいいのか分からない。理央様の役に立ちたくても、貴方や吉良にわかることが俺にはわからない」
「側に居てやればいい。オメガとして容姿に自信が無いというのならきみが抱いてやればいい。そうすれば多少なりとも自信を持てるようになるだろう」
父の言葉を思い出し、俺は情けなく自分を笑った。
「俺がどれ程言葉を尽くしても意味など無かった。…理央様が好いているアルファでなければ…」
「暁はその特性上、理性が勝つ生き物だ。言葉を尽くすよりも触れてやれ」
「…怖いんです、箍が外れそうで…理央様を傷付けてしまうのが何よりも、俺は…」
「理央は望んでいるんだろう?」
理央が望んでいるのは、俺ではない。
「行為を望んでいるのは、…わかります。オメガの本能でしょう。ですが俺のようなアルファに抱かれては後で後悔する…未経験ならばもっと上等な…いずれ番う吉良のほうがずっと良い。俺には吉良のような余裕はないんです。遮断剤で何とか抑えているだけで、もうギリギリなんですよ。…もし、抱いてしまったらきっと酷く扱ってしまう。これ以上理央様に嫌われたくありません、俺は…」
「…吉良よりも身近なアルファはきみしかいない。行為を望んでいるのなら抱いてやれ。それが早い」
神木が言いたいことはわかる。
それでも頷く事など出来ない。
「…理央様が想いを寄せているかたを探します。その方の思考や言動をトレース出来れば…そうすればきっと、理央様も自信を持てるようになるはずです」
「愚かな…」
「駄目です、俺などでは。もっと上等なアルファでなければ…理央様が俺に汚されるなどあってはならないことです」
神木のため息が聞こえた。
「きみは十分に上等なアルファだと思うが」
「…『アルファである』というだけのアルファです」
「頑なだな、きみも」
上等なアルファがオメガに触れれば落ち着くのかもしれないが、理央は俺が触れるのを厭う。
吉良には触れられても放置しているが、俺が触れれば理央は俺の腕を解いて俺に奉仕しようとする。
これ以上嫌われたくない俺には、理央のされるがままになるしかない。
神木のため息に顔を上げた。
信号で停車すると、神木がこちらを見ずに手を差し出す。手のひらで受け取ったら鍵指輪だった。
思わず握り締め、吐息した。
「戻って来たからね。返しておくよ」
「有難うございます」
「それは絶対に使われてはならない。わかっているとは思うが」
「はい」
「理央が好きか」
「…お慕いしております」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる