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21.あるいはその全て
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しおりを挟むチェーンを首に掛け、鍵指輪に口付ける。
(俺にはこの指輪がある。それだけでいい)
気紛れだとしても、俺に与えてくださった。
人から見えないよう、シャツの中に隠す。
「抑えているから箍が外れそうになる。…適度に発散しろ」
「それは、理央様にも許されておりますし、そうしたいのですが…シャワーを浴びても気付かれるほど理央様は過敏で…他のオメガやメスの匂いは僅かでも理央様の気に障ります。それは避けるべきかと」
「だったらそれを理由に理央を抱け。互いに発散できて丁度いいだろう。神木としては番にさえならなければそれでいい」
「そんな…理由で…」
「むしろ抑圧され過ぎて間違ってその指輪を使われる方が困る」
「…理解しております。これは理央様が俺を剱として信頼して下さっている証だと解釈しております。それを裏切ることなど、絶対にありません」
シャツの上から鍵指輪を握り締めた。
「一つ訊きたいんだが…」
「はい」
「司が君の代わりに理央を抱いたとは思わないのか」
「……は、」
一瞬、神木の言葉を理解出来なかった。
「理央は抱かれることを望んでいたんだろう?いつまでも手を出さない君を諦めて、司に抱かれたかもしれないじゃないか」
「…っ司にも遮断剤を持たせました、」
「珍しく焦っているね。だが理央がそれを望んだなら別だろう…?」
「駄目です、そんな事は、…、」
「そう思うのは君だけで司は違うかもしれない」
「…っやめて下さい!」
「…」
自分の大声に気付いて手のひらで口を覆う。
「…すみません、」
「それ程の激情を燻ぶらせるだけ燻ぶらせて腐らせるくらいなら一度くらい理央にぶつけてみたらいいと思うがね」
「ぶつけて戻れる自信が無いんですよ。戻れるなら、諦められるなら、それでいい。あの極上の蜜の味を知って、知った上で諦められなかったら…?…俺は、この鍵指輪を使うかもしれない」
「心配するな。それは僕が何としても阻止する」
「…貴方は神木で、ベータです」
バックミラー越しに神木の目を見ながら告げたとき、車が理央の邸の門を潜った。
「…そうだが」
「この、理央様に対する感情がアルファとしての本能なのかまたは主人への愛情なのか剱としての忠誠なのか、あるいはそれらの全て、あるいは全くの別のものなのか…俺自身はかりかねているこの激情を、貴方が理解出来るというのならその言葉にも耳を貸しましょう。ですがそうではないのなら、軽々しく阻止するなどと言わないで下さい」
美しい庭を抜け、邸のエントランスで停車してサイドブレーキを引き、神木が振り返って直接俺を見る。
「…何が言いたい」
射るような神木の目に答えた。
「…その時、俺が正気でいられる保証などどこにもない。…そういうことです」
瞠目した神木から目を逸らし、俺は車を降りた。
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