虚口の犬。alternative

HACCA

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22.無様に

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理央の部屋へ向かう前に一度自室に戻ってシャワーを浴びた。

もう一度瑞穂の匂いを念入りに落とす。

理央に気付かれれば即座に機嫌を損ねることになる。

一週間ぶりに会う主人に避けられるのは耐え難い。

髪から滴る水をタオルで拭いながらクローゼットから適当に着替えを選ぶ。

手のひらの傷は薄っすらと皮膚を形成していて、もうガーゼは不要だろうと判断した。

髪を乾かして衣服を整え、携帯端末を手に取る。

時間を確認して司のIDを表示し、発信した。

『はい、司です』

「先程こちらに到着しました。理央様のご様子は如何ですか」

『お疲れ様です。理央様は遅めの朝食の後お休みになられております』

「丁度いい。俺の部屋で引き継ぎを」

『かしこまりました』

通話を切り、リビングへ移動する。

やがてノックが聞こえて返事をした。

「どうぞ」

「失礼致します」

「お早う」

「お早う御座います」

「座って下さい」

「はい」

自分の正面のソファをすすめる。

「ご苦労でしたね」

「いえ、」

「問題は?」

「特に御座いません」

「…、」

不意に下を向いた司から薫る甘い匂いに、思わず拳を握り締めた。

「理央様と何かありましたか、司」

「大和様の代理を務めただけです」

「…どういう意味ですか」

「…言葉の通りですが」

司の真意をはかりかねて沈黙したとき、唐突に司の携帯端末が鳴り、行き場を失った憤りを吐き出そうと息を吐く。

「どうぞ」

「失礼します」

珈琲でも用意しようと立ち上がり、ダイニングに足を向けると同時に司も立ち上がった。

「どうしました」

「理央様がお目覚めになられたようです。どうされますか」

「…俺も挨拶に行きましょう」





司が理央の部屋のドアをノックして返事を待っている間、随分と時間が長く感じた。

「どうぞ」

「失礼致します」

ドアを開けようとして開かなかったのか、司が俺を見る。

一つ息を吐き、寝室のドアをカードで開けた。

俺を見て驚いた顔をした理央が咄嗟にシーツで身体を隠す。

「っ、剱、…司は」



何故俺には身体を隠すのですか。



そんなことを訊ける勇気は、俺には無かった。



(一週間ぶりに戻った俺よりも司か)



「…司でしたらここに」

司を入れ、代わりに寝室を出る。

リビングで二人を待つことに耐えきれず、理央の部屋を出て自室に戻った。

司に纏わりつく甘い匂いはやはり理央のもので間違いない。



『司が君の代わりに理央を抱いたとは思わないのか』



神木の言葉を思い出し、背が震えた。

感じているものが怒りなのか嘆きなのか自分でもわからない。

正体の分からない感情が神経を逆撫でする。



(俺のオメガだ)



腹の底でそう唸った。

珈琲をサーバーからカップに注ぎソファに腰掛ける。

落ち着こうと一つ息を吐いて、琥珀色の液体を口に含んだ。



(…違う、吉良の番になるオメガだ。…だが俺の主人でもある。それだけだ)



カップをテーブルに置いたとき、ノックが聞こえて「どうぞ」と答えた。

戻ってきた司から薫る理央の甘い匂いに気が立つ。

冷静ではない自分に気付き、その事実に少し落ち着いた。

「…理央様は」

「お召替え中です」

「そうですか。では引き継ぎの続きを。遮断剤は足りましたか?」

「…」

眉を寄せ、申し訳なさそうに開封したばかりの遮断剤のパッケージを差し出す司に苦笑する。

「かまいません。抑制剤を服用しているとはいえヒート中の理央様のフェロモンは耐え難かったでしょう」

「…はい」

パッケージを受け取り、期限を確認してソーサーの横に置いた。

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