ベノムリップス

ど三一

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罪人探し編

第47話 来る最盛夏

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常夏のリリナグにおいて、一年の中頃の3か月が一番気温の高い時期である。
その3か月の間は観光客が押し寄せ、町内で商売人にとっては書き入れ時だ。さらに、真ん中の月では町を挙げての祭りが開催され、一年で一番の盛り上がりと熱気が集中する。町人達はこの灼熱の3か月と祭りに向けて準備を始める時期である。


リリナグ警備隊の各部門長が一堂に会し、隊長のグンカを中心として来る最盛夏に向けての幹部会議を行っていた。内容としては観光客の増加に伴う繁忙期の打ち合わせや予定の確認、各部門が抱えている事案の報告会である。会議室の窓は解放されているが、灼熱の空気が室内に漂い、中に居る隊長、部門長は滝のような汗をかいている。これは例年の事でいつしか灼熱の幹部会と呼ばれるようになり、一部部門長からは涼しい牢獄内に会議室を増設しそちらに会議場を移さないかと意見が届いている。

「例年通りなら、来月から爆発的に観光客が増加する。再来月には祭りも控え、警備隊でも一年で一番忙しい時期に入る。トラブルを未然に防ぐよう見回りの頻度を増やし、要請に応じて出動する機会も増えるだろう。気を引き締めて臨むように。また、来月頭にサブリナ警備隊との合同訓練の予定が組まれている。各部門長は参加者をリストアップして来週末まで私に提出するように」
「それでは次の議題に…」

ランが幹部会で司会をしているその時、詰所の方では来訪者があった。

「お疲れさん」
「?…どうされましたか?」
「いや~…ハハ…」

挨拶された警備隊員は詰所入り口に立っていただらしない印象の男を見て、町民及び一般人として対応する。それに男は苦笑いを浮かべ知り合いを探していると、煎餅を食べているユンの姿を見つけた。

「ユンちゃん呼んでくれるか?」
「少々お待ちください」

隊員は奥に居るユンに話をする。

「ユンさん、呼んでいる方が居るんですが…」
「え~誰かしら」
「目の下にクマがあって、ちょっと悪そうな感じで……」
「そんな怪しいですって主張してる人って知り合いに居たかしら?」

食べかけの煎餅を皿に置いて男の方を見る。

「ん~…?」

誰か考えていると、ユンに向かって男が手を挙げる。少し気怠げな立ち姿に、ユンがあっと声を出して男に近付く。

「あら~ハナミさん、お久しぶりです~」
「ユンちゃん、元気そうだな」

リリナグ警備隊を訪問したのはハナミだった。腕捲りした柄シャツにスッキリした細めのボトムというスタイルで、ユンはチンピラみたいだなと思った。

「意外と知られてないのね、俺……サブリナの刑事部門長なのに…」
「そりゃあそうですよ~!刑事部門同士で交流はあっても、生活安全部門とはほぼ関わり無いでしょう~?それに~そんな柄の悪そうな格好して、まさかちょっと偉い人だとは思いませんよ~。あたしもハナミさんの事知らなかったら、警棒を確認してから対応します~」
「相変わらずはっきり言うね…ユンちゃん」
「まだ隊長は幹部会です~。お茶でも飲んでて待ってて下さい~」
「いや、今日はあまりゆっくり出来ねぇんだ。数時間後にはサブリナに帰らないといけないもんで」
「じゃあ、捜査の一環で?」
「ああ、聞きたいことがあって寄ったんだ」

「ユンちゃん、15才のベンガルって子知ってるか?凄く…大きい15才なんだが…」
「知ってますよ~。リリナグリリィっていう服屋さんのデザイナーです~」
「そこの住所教えてくれるか?その子が持っている物にうちで抱えてる事件と関わりある物がありそうでな」
「はいはい、ちょっと待ってて下さいね~」

ユンは棚の中からファイルを取り出して、リリナグリリィの名前を探してページを捲っていく。あるページで店名を見つけると、机にあるメモ帳から紙を一枚取って、そこに住所を記入する。

「はいどうぞ~。今日は早上がりの日だから、多分店に居ると思うわ~。居なかったら彼女のお姉さんに聞いてみて~」
「ありがとなユンちゃん、グンカによろしく」

リリナグ警備隊を後にしたハナミは、早速ユンに教えてもらった住所に移動する。道中活気あるリリナグの町並みを久しぶりに眺める。別れた妻と付き合っていた時に泊まった宿の前を通り掛かり懐かしく見上げると、綺麗な白亜の建造物は、潮風を浴びて金属部分が少しだけ錆びていた。外壁も塗り直したのか、横の壁と表の壁の色が僅かに違う。月日の流れを感じてしんみりした気持ちになったハナミは、指輪を嵌めていた薬指を無意識に撫でた。もう跡は残っていない。

「リリナグ赴任だったら…何か違ってたのかねぇ…」

刑事になって碌に遊びにも連れて行ってやれなかったなと、後悔を思い出しながら店に向かって歩いた。


ハナミが店の前に着くと、そこには3、4人が入り口に固まって中を覗いていた。冷やかしの客かと思い、道を開けて貰おうと近づいた所、その一団の会話が聞こえて来た。

「わあ~本当におっきい~」
「ね、見間違いじゃ無かったでしょ?」
「握手してもらいましょうよ」

ハナミが一段の背後から店内を見ると、そこには接客をしている姉妹の姿があった。どうやら2人を見る為にここに居るようである。

「すいませんね、ちょっと通して貰えます?」
「あっごめんなさい!」

道を開けるかと思った一団は、店内に入って行った。ハナミは少し距離を取って後に続いた。

店内は女性物の衣服が多いが、男性物も取り揃えている。姉妹は対応しているので、手が空くまで服を物色していることにした。

「ユンちゃんに柄が悪そうって言われたな…。落ち着いた服着ると、髪も整えなきゃならんから面倒なんだよな…」

ハナミはハンガーに掛けられた、爽やかな服を手に取り身体に当ててみる。所々にある鏡の中から、近い一つで全身を映してみると、体型には問題なさそうだが、無精髭と長く伸びた髪が恐ろしく似合わない。髪を何とか撫で付けて、脳内で無精髭を無くしてみると、辛うじてそれなりに見えそうだ、と思った。

「一着買ってみるか…?」

いつもどおりの柄シャツか、綺麗目のシャツかで迷っていると、静かな店内にわあっと盛り上がる声が聞こえた。思わず服を持ったまま振り向くと、盛り上がりは店員と先程の一団から発生しているようだった。

「ねえ、いつからそんなに大きくなったの?」
「あれはお姉さん?」
「ちょっと並んで見せて!」
「う~ん…すみません、そういう事は遠慮していまして」

姉のライアは困った顔で対応を迫られていた。別の場所で接客しているベンガルは、その一団と姉をちらちら見ながら迷惑そうな顔をしている。

「何だあいつらは…」

店内の客の視線が集まっても、その一団はそれに気が付かないのかライアを囲んで盛り上がる。まるで美術館や動物園にでも来ているみたいな、珍しいものを見る目でライアを見る。

「あの、すみません…ライアさん…」

1人の気を利かせた客がライアを呼ぶ。

「すみません…あちらのお客様が呼んでいるので、失礼します」

軽く頭を下げてライアが客の元に移動すると、残った一団の好奇心の対象はもう一人に移る。丁度客の会計が終わり、服を綺麗に畳んで戻す作業をしている少女が居た。視線がどこに向かっているか気づいたハナミは、非番なんだがな、と呟いて一団の一歩先に行った。

「店員さ…」
「やあ、お嬢ちゃん」
「誰ですか?チンピラっぽいですが」

一団がベンガルに話しかける前に寸での所で割り込んだハナミは、両手に持った2着の服を見せる。

「どっちが似合うか選んでくれ…」
「いいですよ。では、そちらの男性用コーナーに行きましょうか」

ハナミはベンガルの後ろに着いてゆく。
すれ違う際横目で確認した一団の顔は、残念そうだった。2人とも接客中となれば、流石に邪魔をすることはしなかったが、一団は服も見ずに店を出て行った。ハナミに柄シャツを勧めたベンガルは、その他にも似合う服を見繕っていく。ベンガルは一団が去った様子を見ているハナミに、小さな声で礼を言った。

「…ありがとうです。助かりました」
「いいんだよ。大変だな?」
「本当に」

ベンガルは不機嫌そうに唇を尖らせる。ハナミはカメリア一座の楽屋でベンガルに会った時に、この15才の少女を自由奔放で、はっきりと物を言う性格だと印象を受けた。ならば、顔に出た感情と内心とに相違があるタイプではないだろうと判断し、トラブルに発展する前に未然に防ぐという手段を取った。加えてハナミの個人的な印象では、100対0で姉妹に非は無い。一団の行動は、当人たちが困っている以上下手したら営業妨害にも繋がる行為だ。そうなったら非番とはいえ警備隊として対処しない訳に行かない。

「良かったよ…大事にならなくて」
「お礼に採寸してあげます」
「えっ」

ハナミにメジャーを巻きつけ数値を見ると、ベンガルの脳裏に先日の記憶が蘇った。ニスと似た白いワンピースを所持する役者のサラの楽屋に居て、サラと話す時間を奪った3人組の1人だと鮮明に思い出す。

「楽屋で会った、警備隊の…だらしがなさそうなおじさん!!」
「まあ…そうなんだけどさ…グンカより2個上位だよ、俺…」

おじさん判定にショックを受けるハナミだが、ベンガルの15才という年齢を考えれば仕方ないと自分を納得させる。

「おにいさんは整然としてますからね。おじさんも磨けば光る予感がするのに勿体無いです。スタイルはいいのに」
「磨く暇も余力もないんだよ、一部を除いた大人は…世知辛く時間も魂も肉体も削って…馬車馬のように働いて…多くもない給料貰って頑張ってんだ…」
「悲壮感が凄いです。うちの荷馬車の馬に生まれた方が幸せなのでは?あたしから毎日おやつを貰えますよ?」
「ハハ…来世なんてものがあるのなら、予約しておこうかな」

目の下に黒いクマを携えて力無く笑うハナミに畏敬の念を覚えたベンガルは、「おやつです」と言って、グンカから貰った大量の飴の中から一個をハナミにやった。グンカの冷蔵庫でキンキンに冷やしたら美味しいとの言葉を実践したその飴は、茹だるような暑さのリリナグで、涼しく食べられると海猫運輸関係者の間で好評だった。

「ありがとな…この暑いのに甘ったるいもんは勘弁だが、貰っとくよ」
「今食べて下さい、あーんです」

ベンガルが自分用に持って来た飴をハナミの口の中に入れようと構えている。力では勝てそうに無いと早々に折れたハナミは、貰った方の飴を大人しく口に入れた。

「おっ、冷たい」
「おにいさんに教えてもらったのです!冷ったい程に美味しくなると」
「確かに…トマトが爽やかで美味いな」

ハナミは冷たい状態を保ったまま、ガリガリと飴を噛み砕いた。詰まらないように細かくして飲み込むと、喉を通る際に冷や冷やして気持ちがいい。

「特別に美味しいのをあげましたからね?一着どれか決めて下さいよ」
「ハハ、わかったよ。…俺も服選んでもらう他に、もう一個お願いがあって来たんだ。もう一着買うから聞いてくれないか?」
「むっ!おねえちゃんをナンパするつもりですか!?」

ベンガルは、姉はスタアという人にのめり込んでいて、今は他に目がいかないとハナミに伝える。

「違う違う……今日は、お嬢ちゃんが預かってるっていう白いワンピースを一目見せてもらいたくてな」
「何故あたしがおねえさんのワンピースを持ってることを?!おねえさんのストーカーのおじさんですか?」
「本当に違う。事件の捜査の為に、似てるワンピースを探してるんだ」

捜査、という言葉に目を輝かせる15才。

「お嬢ちゃん、重要な事件の捜査に協力してくれないか…?」
「むっふー!お会計が終わったらいいですよ!」
「協力感謝するよ」

ハナミは捜査という言葉の魔力を知っていた。
それは特に子どもには甘美に聞こえる、ということも。

「それじゃあ捜査ですから、特別にバックヤードに入れてあげます」

会計を終えると、レジの後ろのカーテンを開けてハナミを通す。そこは服飾用のマネキンが数体、ミシンや裁縫道具、デザイン画等が乗った大きな作業机がある。白い机には色とりどりの布が並べられ、その中で選ばれた三色がデザイン画に着色されている。ハナミは目的のワンピースを探していると、ベンガルが平置きにされた服を補完する棚から一つを慎重に取り出した。

「こちらです」
「おお…これか…」
「臭いを嗅いでも無駄ですよ。ちゃんと洗濯されています」
「あのね…俺一応警備隊だからさ…必要が無ければ嗅がないよ…」

ワンピースを調べている間、ベンガルによる解説を聞きながら刺繍と文字を探した。
ハナミの目的は達成され、あのワンピースに記された文字は名前だという事が分かった。

(蛇の刺繍…持ち主の名前と、文字が一致している…”モリ”のワンピースは”モリア”という人物の所有物だった…。それと、誰もそうとは読めなかった”モリ”のワンピースを”モリア”だと断定した”ニス”……何かを知っている可能性がある……無理して合同訓練前に予備調査に来てよかったな…)
「ありがとうな、お嬢ちゃん」
「そういえば、サラさんのワンピースについて調べていたようですが、サラさんのはどうなったんですか?」
「サラが持っているよ。次の公演が月影遊女の最終公演だから、終わったら近くの警備隊に預けて貰う予定だ。それでこちらで調べる」

ベンガルが狡い!と声を上げる。
ハナミは子どもらしいその反応に意地悪く笑って見せた。


ニスは、まさかハナミが態々リリナグに来て調査をしているとは知らず、庭の水やりをしていた。夕方の庭で、いつものようにギャリアーの知人の男が砂浜に居るのを見た。またシ
ーグラスを探している。

「毎日…まめな人なのね…」

家の中から、ニスを呼ぶ声が聞こえる。ギャリアーが氷を削ってかき氷を作っている最中で、出来上がりそうだとニスに声を掛けた。すぐに行くと返事をしたニスは、もう一度砂浜の人影を見て家に戻った。
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