ベノムリップス

ど三一

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灼熱の祭典編ー前

第62話 祭典

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その日、警備隊は多忙を極めた。

「潜源石持ち出し3件!どれも低品質で、拾い物だそうです!」
「分かった、こちらで処理する。持ち場に戻ってくれ」
「検問で、外部からの荷馬車が通り抜けようとして道が塞がっています!急ぎの荷物があるみたいです!」
「値段交渉でトラブルが起こったみたいです」
「落とし物~37件~」
「出動要請行って来ます!」
「市場での交通整理にもっと人が欲しいそうです!」
「来賓が…」
「水着で町中を…」
「泥酔して路上の真ん中で寝ている人が…」

グンカの机には報告書の山が積み上がっている。その全てに目を通して判を押し、待機所を訪れた人達の対応をする。専ら落とし物や道案内、迷子にその親、潜源石の持ち出しに関するクレーム。セレモニーが始まる時間まで、隊員達は忙しく走り回り、息つく暇もない。隊長補佐のランも、検問の応援に行って、待機所にはグンカ含め数人しかいない。

「隊長~…しんどいです……人がひっきりなしに…」

新人隊員が机に突っ伏して、報告書に額をつけている。聞いていた以上の忙しさに、体力的にも精神的にもかなりの疲労が見受けられた。

「……わかった、前倒しで休憩に入れ。そろそろパトロール担当が帰ってくる時間だ」
「ありがとうございます~…」
「仮眠用のベッドも、今日は全ての勤務時間の隊員に解放している。ゆっくり休め」

グンカは人が途切れた頃合いを見計らって、給湯室にある冷蔵庫からニス特製のサンドイッチを取り出した。それとボトルに入ったアイスコーヒーをカップに注ぐ。他にも塩分、糖分補給の為の菓子を一つと、ユンが町民から差し入れとして受け取った果物を一つ。それらを持って机に座り、仕事をしながら昼食とした。

(今年は検問に人員を割かれたな。外部の荷馬車は祭典の期間の事を知らないで侵入したようだ……今度はリリナグに続く道中に注意喚起の看板が必要かもしれん……落とし物は例年と同量ペース……道案内は町をパトロールする隊員が処理する分と……)

グンカはサンドイッチを一口食べた。ハードな食感のパンの間には、チーズやハム、スライスオニオンや各種野菜が挟まっており、同封されていたソースを後で掛けて食べる物らしい。水っぽくなるのを防ぐにはどうすればいいか、チャムから聞いた事を実践している。

(美味い……)

もう一つは、間に甘いスプレッドが挟まっているお菓子のようなパンだ。柔らかい食感で、うみかぜ特製のジャムスプレッドと、チョコレートスプレッドが合わさり、ベリー系の果実が散りばめられている。甘さの中に爽やかな酸味のあるパンは、3時のおやつにもなりそうだと思いながら、来訪者が来ないうちに、手早く腹に入れ、アイスコーヒーで流し込む。

(そういえば、セレモニーを少しだけ覗きに来ると言っていたな……人混みに押されて、怪我などしなければ良いが)
「ただいま帰りました~!お腹すいた~」

ユンが他の隊員と共に詰所に帰還した。皆日差しと人混みの中パトロールに出向き、制服が変色する程に汗をかいている。

「隊長、ちょっとしたトラブルの仲裁しましたけど~…報告書要らないですよね~?」
「内容は?」
「言い争う程度なんですけど~、一応警備隊に通報が入って~」
「お前の判断に任せる。皆、それぞれ軽く休憩してくれ。熱中症に気を付けて、水分補給等欠かさぬように」

給湯室は外から来た隊員で一杯になり、それぞれ冷水や茶等を飲みながら、暑い、忙しいと話している。

「ふぅ……検問の荷馬車の件、無事解決しました」
「ご苦労、どうだ人の出入りは?」
「去年より活発な印象です。リリナグ内が混み合う事は分かっているので、町内から脱出する人も多いようです。夕方頃にまた検問の人手が足りなくなるかもしれません」
「分かった、監獄、採掘場から人が寄越せないか聞いておく」

セレモニーはもう直ぐ。真上に太陽が昇る頃。


「買い物所じゃないわね……人混みで、押し返されそう」

ギャリアーに追加依頼が来て、急遽店にある商品を運ぶ事になったニス。今日は荷馬車の通行が制限されている為、海猫運輸に頼まずに運ぶ事になった。幸い配達場所は何度かギャリアーについて行って、依頼主とニスの間に面識がある。商品を確認して貰い、後払いの請求書を渡して問題なく配達を終えることが出来た。ギャリアーは折角セレモニーの近くに配達なのだから、覗いてくるといいと話していた。丁度会場がざわめきだし、これからセレモニーが開始される様子だ。ニスは群衆に混じって、その時を待っていた。


式は当初の予定開始時刻より数分遅れて始まった。司会はセレモニーの主催者である、リリナグの全体を纏める組合から出された。先ずはリリナグ町長の挨拶から始まり、来賓の紹介、寄付者の紹介等粛々と予定が消化され、来賓であるサブリナ町長の、合同訓練を引き合いに出した、リリナグとの友好の話で大分時間がおした。

リリナグの歴史を研究している学者によって、町の前身から現在までの道筋が語られ、町の歴史の中で、重要な役割を果たした会社の話になり、来賓であるリリナグ・ピオンの社長スー・チースの名が呼ばれる。観客はそこで拍手を送り、社長は柔和な笑みで軽く会釈をした。

「それではそろそろ、祭典開催の宣言をして頂きましょう。特殊宝飾店…リリナグ・ピオンより…」

祭典の始まりの挨拶には、リリナグ・ピオンの社長であるスー・チースが壇上に上がった。特異な石の加工技術の先駆者であり、それをリリナグ内に広める事によって、莫大な利益を齎した老舗、リリナグの代表として相応しいと誰もが思っている。観客がスー・チースを迎える拍手に挙手で応え、集まった町人や観光客を見下ろした。周りをぐるりと一見すると、赤い髪の女を目に留めた。

(ギャリアーの助手……)

ニスが居るその辺りを注意深く見てみても、スー・チースが惚れ惚れする作品を製作した、愛しの技師の姿は見えない。

(ああ…もう一度君の渾身の作品を見たいと言うのに……思いは中々繋がらぬものだね…)

残念に思いながら、技師であり芸術を愛する者である自分から、リリナグ・ピオンの社長である自分に切り替えて、灼熱の祭典の始まりを宣言する。

「さて皆様、このリリナグに於いて、最も重要な灼熱の祭典が今日より一月を掛けて執り行われます。規模の大きなお祭りとしては、第1週には豊作祭、第2週には大漁祭、第3週にはリリナグ芸術祭、第4週には納涼祭…これらの例以外にも、町内で様々なお祭り、イベントを開催しておりますので、どうぞお楽しみ頂ければと思います。それでは、灼熱の祭典を開催いたします…!」

スー・チースが開催の宣言をすると、リリナグ町内の高い建造物の屋根から大量のピンクと水色の花弁が舞う。2色紐をイメージした催しで、町中は美しい花弁に皆上を見上げ手を伸ばす。

「わあぷ……凄く、沢山…降って…」

建造物の近くにいたニスは、より多くの花弁を被った。海の方では花火が上がり、セレモニー会場外からも盛り上がる声が聞こえ、1番の大歓声に包まれる会場は、街の端々までその声を行き届かせる。それは勿論、囚人を収容するリリナグ監獄にも。灼熱の祭典の言葉とは真逆の涼しい監獄にも人々の熱狂は届く。

「おー…始まったみたいだな」
「そう言えば、今年は細々としたイベントの申請が多かったよな。この……キュート選手権ってなんだ?」

警備隊員に配布される、町内で行われるイベントの内申請があったものがリストアップされている。その中で異色なイベントが幾つかあり、その中の一つがキュート選手権だ。

「さあ…主催があのお医者さんのとこの娘さんって事しかわからないな…」

リリナグ監獄にて、祭典の警備には関わらない隊員達が暇そうに外の喧騒の音を聞いている。牢屋に入れられた囚人達の1人、バッツは祭典の盛り上がりの声を聞き、羨ましく思いながらベッドに寝転んでいた。本日は警備隊も人手不足で、頻繁にバッツを訪ねて聴取をしていたティタンも、検問に駆り出されていて、話し相手と言えば、同じ牢にいる男の囚人のみ。少し身の上話などしたが、大して面白い話もなく、よく居る潜源石をリリナグ外に持ち出そうとして逮捕されたという経緯であった。監獄の出入り口から漏れてくる、人々の楽しそうな声を聞きながら、ため息を吐く。

「あーあ…こんな楽しい時期に、涼しい快適な監獄で規則正しい生活を送らにゃならんとは…」

バッツの独り言に、同じ牢の囚人が同調する。

「誰も彼もが開放的になって、昼夜問わずどんちゃん騒ぎ。それに丸々参加できねえからなぁ…石ころ少々懐に入れただけで目くじら立てなくってもよぉ」

男は検問を避け、リリナグを囲む壁を乗り越えて潜源石を持ち出そうとした。それを重く見て、刑期が明けたら数年の間リリナグへの出入りには申請が必要、許可なく町に入った場合は勾留され、取り調べを受ける事になる。以前の潜源石大規模持ち出し未遂事件後に、量刑が軽いと町民の声が上がり、従来より重い処分に変わった。

「他の物盗めば良かったろ?世にも不思議なガラス玉は、外じゃリリナグの倍以上でも売れる」
「ちまちまガラス玉運ぶより、原石を珍しがって買いたいって連中は多い。一欠片でも数万出す奴はいる」
「その一欠片で3ヶ月丸々牢屋行きか、割に合わねえだろ」
「今度は上手くやらねえとな。取り調べなら、ユンちゃんか、ランちゃんが良かったぜ…何でよりによってあの隊長さんなんだか」

男は取り調べの時を思い出して、げっそりと顔色を悪くした。リリナグの取調室は熱く、さらに暑苦しいグンカの威圧感と口調に、早く涼しい監獄に移送してくれと泣きついて、男はここに居る。

「え、今ここに勤務してんの?」
「おう、相変わらずの美人双子だぜ」
「ハナミさん、意地悪して教えなかったな…出所したら会いに行こ」

バッツは祭典が終わってからの楽しみが一つ増えて、少々機嫌を持ち直した。牢を見張る隊員達が、勤務が終わったら飲みに行こうと話しているのを男が聞き、悪態をついた。

「畜生~…なんでこの監獄は差し入れ禁止なんだよ…知り合いに頼んで、祭典の食い物でも差し入れて貰えたのに…」
「そうだな~…」

バッツは数人の女の顔を思い浮かべて、それからもう1人の顔を思い出す。

「あいつに期待しても無駄だな~…今は危ねえ橋は渡りたくねぇだろうし…」

バッツがグループと知り合って、何度か仕事をしてから漸く姿を見せた人物。サブリナ、リリナグ警備隊がその存在を疑っているその人である。

「ここ出たら、鱈腹良いもん食わせてもらうか」

バッツは楽観的に考えている。刑期が終わり、自由の身になったら、また盗品を捌いて小金を得られると。彼の想像だにしない事態が既に起きているとは知らずに。仲間の例の人物は、事態の変化に気付き、既に行動を始めている。


「お帰り、ニス。どうだった?セレモニーは」
「人が沢山集まって、花弁が町中に舞っていたわ。これは本物…よね?」

ニスが服に付いていた水色とピンクの花弁をギャリアーに見せる。手触りはしっとりとして、紙とは思えない。

「ああ、本物だ。農場の人達が毎年協力して、本物の花弁を用意しているんだ」
「あんなに沢山……それと、海の方でドンドン音がしたけれど、何かあったの?」

ニスは花火という物を見たことがなかった。それ故に急に大きな音が聞こえてきて、何が起こっているのかと警戒した。周囲の人々は皆後ろを振り返り、背伸びをして花火を見ようとしていた。

「花火だよ。火薬を使って、空に模様を浮かび上がらせるんだ。海岸で打ち上げたようだから、家からは凄く近くで見えたぞ」
「あまり…想像できないわね…」

ニスの脳内では、形ある物を宙に投げている図が浮かんでいる。

「今月の4週目には納涼祭があって、毎年花火が打ち上げられる。そこで改めて見てみるといい。うちは特等席だからな」

ギャリアーは遅い昼食を簡単に済ませると、再び店の方に戻って行った。今日は特に人が訪れ、どの店も書き入れ時。向かいの喫茶うみかぜも、外にベンチを置いて増える客に対応している。店に入って、食べ物を持って出て来る客も多い。食べ歩きできるメニューも提供しているようだ。

「記念…」

ニスは2枚の2色の花弁を、サブリナで買った絵付けのガラス玉の側に置いた。ガラス玉の後ろには演劇のパンフレットと、スタアの筆も飾られている。この一画は、思い出の品を飾る場所となっていた。
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