オドゥールは君のなか

えいぬ

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オドゥールは君のなか4

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 キョウが紅茶の香り漂う街の一角──喫茶『フレグラ』で働き始めて、2週間が経過した。
 基礎的な業務については問題もなくそつなくこなす。キョウ曰く、初めてのバイトとのことだったが、飲み込みの早さにあわせ、器量が良いことに気付かされる。
 本来の明るく懐っこい性質もあり、店のスタッフや店長とも、早くに打ち解けたようだった。

 最近、キョウとの接点が多いこともあり、昔この街に暮らしていた事を思い出すことがぽつぽつと増えてきた。はっきりしたものでは無いものの、ぼんやりとした楽しかった記憶。もちろん、そこには今よりも幼い姿のキョウがいる。いつも周りには誰かがいて、明るく空気を彩り、よく喋り、よく遊ぶ、キョウの姿。とても小さな頃からいつもそばにはキョウがいた気がする。
 昔話に華を咲かせつつも、今キョウ自身を取り囲む世界の話にも触れることかある。
キョウの通う高校のこと、クラスメイトのこと、家族のこと、好きなもの。
  キラキラした表情で話すキョウを見ていると、彼自身の世界は愛おしいもので構成されていて、それが今の彼たらしめるものなのだと感じずにはいられなかった。そこに諒がいなくとも。

「諒ちゃんはバイト終わったら何してんの?」

 客足も落ち着いた昼下がり、パントリーで備品整理をしていると、キョウが質問を投げかけた。
 
「あ~⋯⋯色々。臨時のバイトしたり、勉強とかしたり」

 「家で勉強してるの??偉い⋯⋯」
 「偉くはないだろ、てかキョウは高校生なんだから俺より勉強してるだろ」
 「へへっ、当たり前~っ!テスト前の一夜漬けが得意だし!」
 「一夜漬けは勉強とはいいません」

 お互いに軽口を叩きあいながら、備品整理を進めていく。キョウもすっかり仕事には慣れたようだと改めて感心した。

 「そういえば諒ちゃんって今一人暮らしなんだっけ?」

 諒は高校を卒業してから大学には進学せず、実家を出て一人暮らしをしている。理由は様々だが、一番の理由は人間関係にあった。ともあれ、気ままな一人暮らしは諒の性格にあったものであった。

 「そうだよ、こっから歩いて15分くらいのとこ。」
 「近っ!いいなあ~、一人暮らし。俺も早く一人暮らししたいっ!どんなとこ住んでるの?」
 「1Kの狭い部屋。」
 「1K?それってどれくらい狭いの?」
 「そうだな⋯⋯大体ここの更衣室の2倍くらいの広さかな」
 「ふーん、なるほど、一人暮らしって感じの広さな気がする!」
 「一人暮らしって感じの広さってなんだよ⋯⋯」
 1Kの広さを覚えた!と言わんばかりの笑顔を浮かべるキョウ。にゃははと笑う顔に懐かしい幼さが垣間見えた気がした。

 「それじゃあさ、今度遊びに行ってもいい?!」
 「えっ、何も無いぞ、俺ん家。」
 そう言われるのは少し予測はしていたが、実際に言われると若干たじろいでしまう。何も無いのも事実だし。あ、漫画はあるか⋯⋯。

 「別にいいよ~、諒ちゃん家でゴロゴロしたいだけだし」
 「ゴロゴロってお前⋯⋯まあ別にいいけど。ほんっと~に何も無いからな?」
 そういえばずっと幼いころには、お互いの家で遊んだりしたっけ。そんな事をぼんやり思い出しながら、返事をする。
 「よっしゃ、それじゃあ次の土曜日に遊びに行っていい?」
 「⋯⋯あいよ、お待ちしてますよお客様」
 「うむ、苦しゅうない!菓子を用意して余を迎えよ~」
 「入場料とるからな、菓子折りもって来い」
 そんなやり取りをしながら、備品整理に終わりが見えてきた。優しい紅茶の匂いが鼻をくすぐる。もうすぐ休憩の時間だ、きっと店長が紅茶を用意しているのだろう。
 いつも通り楽しそうなキョウとともに、機嫌よく作業を終わらせる諒。

 (土曜日の昼ごはん、考えなくちゃな)
 
    柔らかな陽射しの昼下がり、無意識にも幸せな香りが漂うことを感じた。
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