死に急ぎ魔法使いと魔剣士の話

彼岸

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「異世界からの召喚に成功した!」


そういって歓声を上げる周りの知らない大人たち。甲冑を来た兵士がずらりと並ぶここは、今コンビニであんまん買ってそれを食べようと暗い夜道を歩いていた俺の住んでいた街では無かった。


俺は仕事帰りに少し冷える気がしてちょっと小腹を満たすがてらコンビニに立ち寄り、ただあんまんを食べたかっただけなのに。
これは最近はやりの召喚だとか転生するやつなのだろうか?
自分が状況把握に思考を巡らせている間にも周りの人間たちは次から次へと俺を動物園の動物よろしく眺めて目を輝かせている。別に珍しくもなんともないだろう。見た目は同じ人間なのだし、そんなに珍しいだろうか。

別に俺は普通の日本人で、普通のサラリーマンとして働いていた30歳である。
髪も目も黒、彼女も無し、貯金も無し、平々凡々の人生であったし、交通事故で死んでもいない。過労で死んでもいない。

趣味といえば昼休憩や、自宅に帰ってから読む小説や漫画が楽しくてついつい読み漁っていたこともあるのだが、最近よく読んでいたのは異世界転生ものなどだ。簡単に説明すれば、現実世界からいきなりファンタジーだったりSFだったりまぁいろんな世界に飛ばされた主人公がチートな能力を賜り、それで世界を救ってハッピーエンドが王道である。女性向けだとこれが王子様と結婚したり、騎士だったり、従者だったりから求婚される展開もあるのだ。


そんな世界にまさか俺が本当に体験することになるだなんて、誰が思っただろう。
驚いたまま固まり続ける俺の目の前には聖職者らしき老婆が一人すっと一歩前に踏み出してくる。
彼女は、しばし手に持った大きな杖を俺の顔の前にかざすと何かを読み上げるようにスラスラと言葉を紡ぎだしていく。


『魔法使いよ。異界から来られし魔法使いよ。無礼な我らをどうか許していただきたい。廃れていくこの国の為、お力を貸してもらいたい』


テンプレのような展開だ。だが一つ引っかかるのは俺が勇者とかではないこと。
勇者であれば簡単に想像がつく。魔王を倒せだとか、ドラゴンを倒せとかそんな感じであろう。
だが、魔法使いとして呼ばれたからには、他にも俺と同じようにして召喚された人間がいるのだろうか?勇者と呼ばれる人間が・・・。


「あの・・・、呼ばれたのは俺だけでしょうか?」


「さよう」


「はぁ・・・」


ならどんなことを頼まれるのだろうか?テンプレなら強力な力を持っているわけだから楽勝なんだろうけども。いきなり見ず知らずの人達を助けるほど俺は善意に溢れているわけではない。でも、目の前にいる老婆が死んだ婆ちゃんに重なってちょっと断りづらいな。俺、婆ちゃん子だったからな。


「とりあえずお困りなのはわかりました。俺は水樹蓮人(みずき れんと)って言います。まずはお話をお聞かせ願えませんか?」




先ほどの巨大な広間?召喚に使われた場所から移動し、簡易的な別室へと俺は通された。
数人の護衛騎士達と、先ほどの老婆、あとは国の偉い人なんだろう眼鏡をかけた男性と部屋にある木製の椅子に腰を掛ける。この椅子、なんだかとても高そうだ。


詳しく話を聞けば、この国は近年砂漠にほとんど覆われてしまった。元から砂漠の地域もあったがそれが増加傾向であり作物をいくら飢えても根が付く前に枯れてしまい植物が育たず大変に困っている。雨季のあとの柔らかくなった土に種をまき、収穫する数か月を除きずっと乾燥した砂漠が続く。周辺国から優秀な地学に詳しい者を呼んでも解決できず、またこの世界には魔法が存在していたので木や草を生やす魔法を唱えてはみたものの、ずっとその間術者は魔力を消費し続けることとなり、魔力が無くなれば勿論今まで生やしていた植物も消える。水の泡だ。根本的な解決策にはならない。


民を飢えさせないために王は、税を軽くしたり、なるべく栄養価があり日持ちする食物の考案など現状維持に手がいっぱいでどうしようもない。
そこで、召喚されたのが俺だ。
この国の神話とも呼べる昔話には、過去何度か異世界から人間が来た記録があるのだという。
その異世界から来た人間は様々な能力に秀で、国の窮地を救ってきたと伝説のように語り継がれていたのだそうだ。ある時は攻め込む大量の魔獣から国を守った者。世界を滅ぼさんとする瘴気が国を覆ってしまったとき、やはりそれを浄化する力をもった人間が現れたのだとか。

それは各々今でも称えられ、語り継がれている。

今、国を覆ってしまった砂漠化。民が日々の空腹さえ満たせない状況で藁にもすがりたかったのだ。そんな伝説に。


「お話は分かりました。俺にその窮地を救う力があるのかどうかわかりませんが、やれることはやってみましょう。」


そう言うと目の前の老婆はホロリと涙を一つ零し床でそれが弾けた。
ご年配が苦しんでいるのはやっぱり心苦しい。美味しいものを食べて孫たちの成長をのんびり眺めるくらいがちょうどいいのだ。しわしわの手が俺の手を包み込み人肌の温かさと手のひらの柔らかさがやっぱり婆ちゃんに似ていてちょっと自分も泣きそうになった。




さて、その本題の砂漠化を防ぐという方法だが、俺が考えられる方法は大体行った後なのでやはり俺の能力が決め手となる。


魔法を使っても維持し続けなければいけないのに魔法使い呼んじゃってどうするんだろう。
莫大な魔法を消費して砂漠を一気に森にして植物と土地が根付いたころに魔法を解除すればいいんだろうけど、そんな簡単な話ではない。砂漠はこの国の6割以上も占めており面積は広大だ。
王宮魔法師さん達に俺の魔力値を見てもらったところ、どうやら無限にあるわけではないらしい。つまり消費し続ければいつかは枯渇し回復には時間を要するというわけだ。
召喚されただけあり魔力は国一番の魔力を持つ人間よりも遥かに多いチートレベルの量ではあるらしいけど。



(単純な方法ではだめだ。俺の魔力を消費し続けずに、俺の力と魔力を分離させる方法を探さないと・・・)


「蓮人、無理をしてはいないか?」


そう声をかけてきた者へ向きなおれば、目の前には俺より背の高い血のように赤い瞳を持つ護衛騎士の男。
彼は、俺が召喚されるとともに異世界人の護衛騎士として任命された者である。
王宮で一番役職も力も強い彼は、魔剣士という称号を持つ凄い人らしい。
この国では珍しい俺と同じ黒い髪を持つことは、魔力が高い一つの指標となるそうだ。
そのため今までは彼が一番魔力が高い人間とされていた。過去の魔力を用いた緑化計画に携わったのも彼である。
そんな中黒い髪と黒い瞳すら持つ俺が召喚されたので、少しでも力になれるであろう彼が任命されたわけだ。ご迷惑をおかけします。


「いえ、確かに召喚自体は動揺しましたが、俺の力で少しでも解決に導けるのであれば協力いたしますよ。といっても現時点では魔法の出し方も拙い状態なのでどうしようもありませんが」


潜在魔力が高いと言っても、それを自由自在に操れる人間は限られている。
そこまでは甘くなかったチート能力。漫画で想像するようにすぐにファイアとかウォーターとか出してみたかったけれど埃すら出ない状態のため、ここ数日は王宮魔法師の協力のもと魔法のいろはから学ばせてもらっている。眠くなるような座学も多いが、正直興奮して聞いているのが本音だ。
科学が発展し、魔法という概念のない現代日本から召喚された人間には、掌から水やら炎が出せる授業なんて楽しいに決まっている。
国の一大事にかかわるために興奮は心に中にだけ留め、見た目真剣には受けている。


最近はようやっと一般人並みに生活魔法が使えるくらいになった状態だ。
明日からはもう少しステップアップした高度な能力の使い方の授業に入る。


「そういえば、セペドさんは魔剣士なんですよね?俺はこの世界の常識に疎いので魔剣士と魔法使いとはどう違うんでしょうか?」


「魔剣士とは基本的には魔法使いと同じように魔法を使う。だが、魔法ですべて攻撃も防御も行う魔法使いたちとは違い、魔剣士は能力の主力を剣に用いる。」


「要は、魔法使い達は杖的なもので魔法を用いるけど、魔剣士は剣で魔法を出して戦う感じですかね?」


「・・・まぁ、ざっくり言えばそうだな」


「属性は固定されているものなんでしょうか?それとも人の能力によって違うとか?」


「後者だな。火魔法が得意な者が魔剣士になれば火を主力に使う魔剣士になるし、風魔法が得意な者であれば風の魔剣士となる」


「ちなみに、セペドさんの属性は?」


「火だ。だが闇と光以外の属性も使えるが得意なのはと聞かれれば、だがな」


「ほぼ全種類使えるのは凄いですね!」


魔法には属性があり、火や水、風、土、闇、光などがありそれを複数使いこなせるだけで結構凄いらしいのだが、ほぼ使いこなせてしまう彼が俺の護衛騎士なんて勤めていていいのだろうか。まず王族を守ってほしい。
俺はその辺のモブ(異世界から来た人間)なのに。
こんなどこの馬の骨かもわからない俺に手厚くしてくれるとはいい国なのであろう。できることなら早く能力を開花して力になってあげたい。


新たな決意を胸に明日からの授業にまた精を出すのであった。




数日後、俺は王宮の中にある大きな図書館で一人植物図鑑を開いていた。
というのも、ある程度魔法のいろはの授業は終わり、さてどう解決していくかのステップに移行しているのだが絶賛解決の糸口が見つからないのである。

数年単位での緑化活動と見てくれている国には申し訳ないが、俺としてはそんなことは御免こうむりたい。
いくら協力するとしても緑化活動に40年も50年も協力するかと言われれば否だ。
せっかく莫大な魔力があるのだから手っ取りばやい方法を思いついてさっさと解決してしまったほうが断然いい。俺の衣食住の世話をするのにだって税金が使われているのだし、今この瞬間にも飢えて亡くなっている人がいると思えば国としても絶対そのほうがいいはずなのだ。

だが、別に特段植物学者でも天才的な頭脳を持っているわけでもない自分の非力な脳みそは毎日うんうん悩むだけでどうしようもなく、いたたまれず何か解決策は無いかと図書館に朝から晩まで入り浸っているわけなのだ。


(植物を地に根づかせるまでに成長が早くかつ、枯れにくく、作物も実りやすい植物なんて都合がいいものは無いしな・・・)

この世界には日本では見たこともない植物もたくさん群生してはいたが、そんな都合のいい植物があったらさっさと国が使っている。しかもあったとして結局魔力の問題があるのだ。
俺の魔力を消費し続けず、地に根ずくまで分離する方法。


ふと、頭に降りてきたことがある。
それはニュースや映画の中で悲しい出来事があった際に、誰かが呟く。
自分の手足を渡せるなら渡したかった。
手足を病気や事故で切断せざるを得ない状況となった子供を見て親が泣く。そんな場面を。
事故やケガ・・・輸血・・・そうか。


魔力も結局この世界では誰しも持ち備えている物で、いわば身体の一部、血のようなものだ。
誰かが足りないときは誰かから貰う。輸血という無償の人助けの行為。
これを応用できないものか。
俺の魔力を切り離し地に根づかせるのだ。
読んでいた本を机の積みあがった本の塔に重ね置く。
ふっと目の前に両手をかざし力を込めればほんのりと温かさとともに淡い光が出てくる。
この魔力の源を出すことは簡単だ。だが俺の手から離れれば維持をし続けなければ消えてしまうもの。
切り離し、魔力を守り続ける器が必要なのだ。何で包めばいい?


両手の中で光の玉がふよふよと浮かぶ中、たどり着いた答えは俺の生命力だった。
魔力を維持するのが人間。人間を維持することができる生命力さえあれば何とかなるだろうか?という安易な考えからだった。
目をつむり自分の生命力の存在を確かめる。

生命力とは言わば人間の寿命のようなものだ。
失われれば死ぬ。だから全部上げたら俺は死んでしまう。まずは全力でではなく、試しに寿命の一日分の生命力を使って魔力の源を包み込んでみた。


すると、目の前の光の玉はまるで透き通ったガラス玉のような美しい物に変化した。
触れれば水のようにぷよぷよしていて魔力の源がどうやら見た目雫のようになったらしい。
水玉の上には双葉が一つちょこんと出ているのがかわいい。水玉の中で双葉の根っこがゆらゆら揺れている。
これを地面に落としたらどうなるだろうか?


そう思い立ち、図書館の裏手にある何もない小規模な砂漠地帯にポンとそれを飛ばしてみる。
俺の手から離れたそれはふよふよと飛んでいき地面に触れたとたん水の玉がぱしゃんと弾け飛んだ。
そこまではよかったのだ。
弾け飛んだ水の玉から自由になった双葉が輝き地面に根づくと次の瞬間には目の前に鬱蒼とした巨大な森を出現させてしまい、王宮はお騒ぎとなってしまった。





王宮からたくさんの人間が出てくるわ、鬱蒼とした森の前で佇む異界の人間。
つい先ほどまで砂漠地帯だった場所。これに知らぬ存ぜぬでいられるはずがなく、今冷や汗を流しながら別室で宰相に説明をする自分。
内容は割愛するがざっくり魔法の練習をあの場所で行っていたところ、あんな状態になってしまったのだと伝えた。これにはいつも眉間にしわを寄せている眼鏡宰相も目を見開いた。
あの巨大な森を出現させ、かつ術者である自分が魔力を維持し続けていない。完全に独立した魔力。この状態自体今までできた人間が居ない。そんなに森出現するのって大変なんだとあまりよくわかっていない自分。
これは革命であると喜ぶ魔法師たち。


「その能力をもっと使ってみてくれないか!この能力であれば徐々に国の緑化がきっと進む」


「喜んでいただけて何よりです」


部屋の中で皆が笑顔になる中、護衛騎士の彼だけは静かに無表情のまま佇んでいた。


翌日から俺はその能力を使いながら、街の主要場所にあたるところの緑化から始めることにした。
やることは単純だ。自分の作った双葉入り水玉をポンと地面に落としに行くだけ。とても簡単だ。
昨日は寿命一日分の生命力で包んだ魔力を落としただけであの広大な森を作り出せたのだから今日はその感覚を元に寿命一週間分を使った水玉を作り出してみた。包み込む寿命の長さが長いほど大きい水の玉になるらしい。けれど拳大程になると玉が分裂し複数となるのでそれ以上大きくなることはない。


まだまだ小規模であるが、この能力さえあれば簡単に国全体を緑いっぱいに出来るだろう。
今まで毎日寝て起きて電車に乗って会社で仕事して帰宅して風呂入って寝るがルーティンだった俺にとって街の人達に感謝されるこの能力は達成感もあり、ありがたいことこの上なかった。


帳が下りて、自室で明日向かう砂漠地帯の場所を確認したのちベットに体を沈める。
目を瞑り意識を自分の生命力に向ければ自分の奥底にある生命力の形の全容を見ることができる。
俺が見た寿命の長さは87年つまり何事もなければ87歳まで生きられるということだ。
これは最近になって出来るようになった能力の一つであるが、俺は人間の寿命を見ることができたのだ。
練習と実践を兼ねながら王宮で働く人間を意識して視るとそれぞれの数値が浮かぶ。それが生命力の数値だと分かったのは俺が一年分の生命力を使い切った日の夜、自分の数値が1減っていたからだ。
つまり俺が使うことが出来る数値は今ある数値のこれだけ。たった一日であの森の範囲を生み出せるのであれば何とか足りるであろう。お願いは達成できるかな。


「夕食を持ってきた。」

ノックとともに入ってきたセペドは、トレイに白パンとイチジク、鶏肉と豆と野菜を炒めた料理などを持ってきた。砂漠化が進んだ影響から日持ちするドライフルーツや豆などが好まれるようになり、国の料理は現代の砂漠地帯の料理とよく似ている。
それを食べながら気まずい空気を醸し出す。ここ最近の悩みだ。何だか目の前の護衛騎士は睨むようにして壁際で腕を組んでいる。俺何かしたかなぁ、この国へ来た当初から少しずつ話し出して同姓だったこともあり仲良くなれたと思ったのだけれど、気に障ることしたのかな。ずっと不機嫌そうだ。


この能力を使いだしてからというもの彼の目つきはどんどん鋭くなっていくばかりだ。
他の人達みたく喜んでもらえると思っていただけに何だか少ししょんもりしてしまう。自分に出来なかった能力を俺が軽々とやってのけてしまったことの嫉妬かとも思ったが、ずっと傍で見てきたからわかることだが彼はそんな人間ではない。とても真面目で、王に忠誠を誓い、騎士として誇りを持つ者だ。
部下に当たり散らすわけでもなく、尊敬されいかに彼がこの国で優秀かを知っている。


「なんでそんなに不機嫌そうなんですか?俺何かしましたか?」


「別に」


最近ではこんな感じだ。口数も少なくなってどことなく言葉尻に冷たささえ感じてしまう。
別にって人間の態度ではないのは明らかだが、原因が皆目見当も付かないためどうすることもできないでいる。この世界の常識に疎い俺が何か常識的にマズいことをしているのかと思わずには言われなかったが、この能力を使うことに誰も異を唱えないし、むしろ喜んで称賛してくれているから多分違う。

視線の痛い食事を終え、早々に俺は明日の仕事のため睡眠を貪ることにした。






晴天の翌日。

俺は馬車に揺られ目的地の場所へ向かっていた。
次に優先して緑化をしてほしい場所へは馬車で3日はかかる為数人の護衛を周りにつけ、案内する文官とともにその地へ向かう。道中で食料を調達したり、宿を取ったりする間文官に細かくどのぐらいの範囲をまず緑化するかの打ち合わせをした。三日もかかる場所のために頻繁に来れないならば滞在期間でどのぐらい緑化できるかの行動の打ち合わせを地図を見ながら話す。

俺の便利そうなこの能力にも実はデメリットがあった。それは俺が直接自らの手で魔力の玉を使用しなければならないことだ。作り出した玉を当初手分けして各地の領地を管理する人間に手渡せば万事一気に解決する予定だったものの、他人の手に渡した途端その魔力の玉は地面に出会うことなく弾けてしまったのだ。
俺の生命力で包んだ魔力の玉はどうやら俺の掌から地面に届けさせることで何とか膜を保つことが出来るが他人に手渡せばそれを維持することが出来ない。

そこだけは不便ではあったが、それでも何十年も砂漠だった場所が数日でいくつも緑を取り戻している状態に国は泣いて喜んでいる。少々手間ではあるし、目立ってしまうのも嫌ではあったが、国を散歩すると思えばいいかと自分を納得させた。

予定地に着く頃には、俺の生命力を5年分投資すれば何とか賄えるだろうと頭で算段が付いた。
双葉付き水玉は20個ほど出来るだろうから上手い範囲に落としていけばいい。
その場でいちいち作るのが面倒と時間の無駄なので、その日のうちに寝室ですべて作り終えた。
玉を入れる袋かバッグを貰えないかと部屋を出たところで、扉の前に護衛騎士が立っていたので思わず変な声を上げてしまった。彼も驚いたのか少々目を見開いている。


「あ、ちょうどよかった。セペド何か袋とかバッグみたいな物は無いかな?」


「袋?」


彼が眉を上げて、疑問を呈するが俺は体を横へとずらし部屋の中に転がる玉を指さすとそれが入る程度の物が欲しいのだと彼に伝えた。


「・・・お前、それ明日全部使うのか」



「は?そうだけど」


何当たり前のことを聞くのかとこちらこそ疑問に思ってしまうが、今までずっと傍にいたのだからわかるだろうと頭をかしげてしまう。最近のこの護衛騎士の考えていることが俺にはずっと理解できないでいる。
理解しなくてもただの護衛の人なのだから知る必要などないのかも知れないが、睡眠、風呂、排せつ時など以外はずっと傍で守ってくれる存在を無視することは俺には出来ない。



「何か不味いことでもあった?最近ずっとそんなんだよね?俺何かしたかな?」



「いや、お前がなんともないなら・・・いいんだ」



彼は不意に顔を背け立ち去っていく。その言葉を紡いだ表情を伺うことは出来なかった。ただほんの少しだけ俺の胸の奥でもやもやとしたぬぐい切れない何かが暴れだしているような気がした。


「袋どうしよ・・・」





次の日、予定された砂漠に一人で地に立つ俺と少し後ろの離れた場所で見守る文官と護衛達。あと村の人。
俺の手から離れた水玉がぽよんと地面を弾み、ぱしゃんと弾け森が顕現する瞬間は何度やっても圧巻で、いきなり巨大な森が目の前に現れる。
先ほどまで砂漠のはるか向こうの空まで見えていた視界は一気にジャングルのように緑色。
ぽかんとする者、思わず後ずさってしまうもの、後ろにひっくり返る者、目を輝かせる子供達。
俺はそんな半開きの口を開ける人たちの表情は慣れたもので、事務作業にすたすたと次の水玉投下地点へ歩いていく。慌てて文官が追いかけてくる足音を聞きながら地図と睨めっこし、黙々と作業を終えた。




「この場所もせっかくだし緑化していきましょうか」



「そうですね」




帰路。村の人達に拝まれるように感謝をされ城に向かう途中、外を眺めていると先ほどの村ほどではないがやはり砂漠がちらちら目立つ。本当にこの国は砂漠に悩まされているのだなと感じてしまう。
昨晩事前に準備しておいた水玉のお陰で作業効率がすこぶるよく、予定より早く帰路についているのでまだ時間は少しあった。そのため急遽文官に相談をして帰り道もできるだけ緑化してしまおうという話になったのだ。
馬車を止めてもらいめぼしい場所に立ち急遽魔力を捻出する。
夕焼けに伴い世界は赤く染まる。赤い大地とそれはまさに異世界と呼んでもおかしくない。どこまでも続く大地に向かい両手で祈りを捧げるようにして魔力の源を取り出す。この場所ならば三か月あれば足りるかなと三か月分の生命力の膜で魔力を包み込んだ瞬間くらりと一瞬立ち眩みがした。



(そんなに疲れていたっけかな?どんだけ普段から運動不足なんだ俺は)


自傷気味に自分の運動不足を嘆きながら水玉を作り出すと手のひらからそれを地面に向かって放る。
いつものごとくふよふよ気持ちよさそうに夕暮れの空を飛ぶ水の玉をぼーっと眺めながら地面に命の輝きが割れた瞬間、俺の体内でも何かが弾けた気がして視界はぐるりと暗転した。
薄れゆく意識のさなか誰かが俺の名前を呼ぶ声を聴いた気がするも、血のように赤い大地と空に抱かれて意識を手放してしまったのだ。

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