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熟れた果実と魔石
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城に戻り、早急にセペドの状態を診てもらったところ特段命に別状はないが、魔力と体力が底を尽き、なおかつ大量の魔獣の血と瘴気を浴びたため意識を失っているのだという。
そこでようやく俺とディはホッと息を付き、疲れをようやっと思い出したのだった。
「お前の話を聞くに、そんだけ大量の魔獣を相手にすればこの体力馬鹿も流石に気を失うか・・・」
「静養していれば自ずと魔力も体力も回復するだろうし、意識が戻ればあとは大丈夫だね」
自分の足の怪我も、魔法師に治療してもらったらすぐに治ってしまった。魔法とは何て便利な存在なのだろうか。現代日本にも欲しい。
つま先で足の調子を確かめるように床をつつき、俯いてしまう。
もしも、これが最悪の状態だったならと思うほど恐ろしいものは無い。
(俺のせいだ・・・・)
彼はどうしてそこまでしてくれるのだろうという気持ちと、彼をここまで危険な状況に置いてしまったのは己の不甲斐なさのせいである。と罪悪感が押し寄せてきて潰されそうだ。
拳の震えは悲しみなのか、己に向けた怒りゆえなのか、それとも別の何かなのか判断がつかない。
こんなにも心がぐちゃまぜにさせられるこの気持ちが何なのか今の蓮人には分からなかった。
「そういや、さっきなジャウハリー公に声をかけられたんだが、今回の報告は聞いたがもう少しお前の口から直接いろいろ聞きたいんだとさ。行けそうか?」
「あ、ああ。そうだね、兵の大半を貸してくれたお礼もきちんとするべきだ。公はどこに?」
「あちらもゆっくり聴きたいらしくてな。別宅へのご招待だ。公は首都にもいくつか別宅を持っている。聞いた場所なら城の目と鼻の先さ。さっさと行って戻ってこよう」
そうして俺たちは、寝ているセペドを部屋に残し、ジャウハリー公の待つ家へと向かったのだった。
ジャウハリー公の別宅は、正直これが別宅なのかというほどに広かった。
使用人の数、庭の広さ、部屋数ひとつ取っても豪邸である。その豪邸の客間に俺たちは通された。
豪勢な部屋に座る自分自身が酷く場違いな感じがしてしまい、どうにも委縮してしまう。
背後に立つディを見上げれば、肩を落としてため息をつかれた。そんな態度を取られても、慣れぬものは慣れぬのだ。助けてほしい。
「お待たせしてしまいましたかな。どうぞ、蓮人様ゆっくりしていってくだされ」
「あ、まずはジャウハリー公。此度の件、ご協力いただき心より感謝申し上げます。無事にセペドを見つけ出すことが出来ました。協力がなければ自分一人では何もできなかったでしょう」
「はっはっは。蓮人様は本当に謙虚なお方ですな。あれぐらい当然のことです。まして実際にこちらも被害にあっていたアペプ関連ともなれば惜しむことなどありましょうか。さて、飲み物をと・・・聞くところによれば蓮人様は酒を多くは飲まれないと聞いておりますのでな。紅茶なら大丈夫かな?」
「ありがたいです。飲めなくは無いのですが、水代わりに酒を飲むという習慣が無かったものでして・・・」
そうして召使に持ってこさせた紅茶と菓子が向かい合わせに座る公と自分の間のテーブルに次々と置かれていく。みずみずしいプラムやリンゴ、メロンなどの果実が充実している。口に運んだ紅茶の驚くべき甘さに一瞬吐き出しかけた蓮人であったが、根性で飲み込んだ。
(日本でも、甘い紅茶はあったが流石に俺には甘すぎる・・・)
ひとまず、にこりと差し障りない笑顔を浮かべながら果物の中から無言で柘榴を取った。
「報告はあらまし聞いておりましたが、砂漠の地下にそのような虚が・・・」
「はい。恐らくではありますが、あれ一つだけとは到底思えません。砂漠化が進んでいる以上王国の至る所に出来ている可能性は視野に入れておいた方がよいでしょう」
「ふむ。そうしますと我々の予想以上に魔獣が眠っている可能性がありますな。緑化は進めど地下にそのような恐ろしい巣窟が点在していては課題は山積みになってくる。魔剣士殿が目覚められたらそちらの方の意見も聞かねば・・・・」
蓮人が見てきた虚の状況を事細かに伝えれば、ジャウハリー公はすぐさま執事を呼び何か伝言を伝えている。
そのやり取りを見守りながら、俺は数粒柘榴の実を喉に落とし込んだ。
「さて、そちらは他の貴族も交え王と決めねばならぬこと。本日こうしてお越しいただいた理由は私個人的な興味を満たすために足を運んでいただいたのです」
「と、言いますと?」
「蓮人様が王国に召喚され緑化を行っているのは周知の事実ですが、私は不思議に思うのですよ。その底なしの生命力に」
「・・・・・」
「いやなに簡単なことです。私の家からも何人か専属で国に仕えている魔法師達がおりましてな。彼らが言うには蓮人様の能力は蓮人様の生命力を用いていると言うではありませぬか。貴方は不死ではない、怪我もすれば病気にもなる普通の人間です。なのに、いつまでも沸き続けるその生命力はどこからきているのだろうと不思議に思っておりまして。事実一時は体調が悪化し倒れられたとのこと。しかし完全に回復してはいないとはいえ、生命を使い続けている。それができる理由を教えてもらいたいのです」
翳り翳り。訪れる静寂。誰も何も答えない。ただただ時だけが過ぎていく。
ジャウハリー公は、どうやら俺の能力の真実を知る貴族の一人だったようだ。どこまで答えようか。
しかしここまであけすけな物言いに、思わず顔をしかめてしまう。
背後にいる護衛騎士にも漏れてしまった事実に表情が気になったが、今はこの場をどう乗り越えるかだ。
素直に話してしまうことは出来る。が、そのことで起きる悪影響が予測がつかない。
魔法師達の知への興味は底知れぬ。その活用方法がもしこの国で生きる人間にも当てはめられるのならば新たな魔法の使い方の道が開けるに違いないという純粋な気持ちもあるのだろうが。
「申し訳ありませんが、現状お伝えできることはありません。」
「まぁ、そうでしょうな。ただ、私の予想では、魔剣士殿の行動が鍵であると踏んでおります。あの魔剣士殿がここ数日にわたりアペプ狩りを行っておりましたが、討伐しろと王命は出ておりませぬ。して、彼が討伐を始めた頃から貴殿の体調は回復傾向だったというではありませぬか、どうですか?アペプと魔剣士、それが長命の理由ですかな?」
「・・・お答えできませぬ」
ピリピリとした空気が部屋を漂い、硬い表情の自分と対比してジャウハリー公は笑顔のままだ。その笑顔がむしろ気味が悪い。長命に対する興味はいつの時代も人類の夢である。科学が発達しようとも、魔法が発達しようとも人間の寿命は100年そこら。その探求を求める人間の欲はどの世界でも同じか。
席を立ちあがり、もうこれ以上の会話は御免だと挨拶もそこそこに部屋を出ていこうとした時だった。
自分の背後で険悪な状況を見守っていた騎士の呻き声が聴こえ振り返れば、ディは手を剣に添えたまま床に膝をついていた。
「まだいいではありませんか。蓮人様のそのお力、うまくいけば人類の夢が叶う絶好の機会ですぞ?どうかお教え願えませぬか」
「公爵!!どういうおつもりか!!!ディに一体何をした!!!」
「この部屋には何重もの魔法が組み込まれておりましてな。単にそこの兵士は身体の自由を奪われただけです。いやはやそれでも流石はこの国の第二部隊の隊長だけありますな。普通なら身体の自由を奪われるだけでなく意識さえ失うというのに、膝をついてまだ立ち上がろうとするとは・・・」
「お答えできることは何もないとお伝えしたはずです!!公爵と言えど、このような行いしていいとお思いか!!?」
「ははは。蓮人殿は状況をきちんと把握しておられぬようだ。これは交渉です。貴方様がこちらへ協力してくださればその兵には何もしない。すぐに開放致しましょう」
「蓮人!!逃げろ!!!公爵の狙いはお前だ。俺ならいいから!!!」
まるで見えない空気の圧力に押しつぶされるように動けないでいるディが俺を見上げ叫んでいた。
その叫びで足を動かされ出口の扉に向かおうとも数人のフードを被った魔法師達が入ってきて出口をふさぐ。魔法師の一人が呪文を唱えると、その手のひらから光の鎖が現れディの身体をきつく縛り上げていく。
それを外そうと藻掻くが、抗えばあらがうほど食い込んでいき呻き声が漏れる。
自分だけが自由に動ける状態でディに近づき鎖を引きちぎろうにも、魔法でできたソレはビクともしない。
この状況を打破するには、公爵に何とか魔法師達を止めてもらわねばならない。魔法を放つことも頭の隅で考えるも、俺の魔力量で攻撃魔法を放てばこの部屋すら吹っ飛びかねず自身もディも無事でいられるかはわからない。ディの腰から剣を抜き、公爵へむける。殺すつもりはない脅して魔法を解除させるしか方法は無いと公爵を睨めば、相手はわざとらしく両手を上げて恐怖を感じる演技をしてまた笑顔になっていた。
「おお、恐ろしや恐ろしや。蓮人殿は私を殺めるおつもりかな?」
「この状況を作り出したのは貴方だ。無事に帰してくださるというならばこちらも何もしませんし、今回のことは不問にします。同じ国の中で争いごとなどしたくありません。どうか魔法を解いていただきたい」
「お優しいですな蓮人様は。そのような純粋なる心はやはり政に関わらないからなのか、それとも異界の人間故なのか。そのへんも興味がわきますな」
「まだそのようなことを・・・!」
まるで話にならないと怒りに震えたその時だった。
自分の手にあった剣が勝手に動く気配がして手元を見れば自分の腕が、剣が、意思に反して勝手に持ち上がる。それを力づくで抑え込もうにも見えない何かが手を添えるかのようにして足元の肉体へ向け切っ先が一筋の線を描いた。その太刀筋は見事にその者の持つ青い光を二つ切り裂いた。部屋に響く叫び、耳をつんざくような。目の前で呻くその姿もどこか遠くの存在として立ち尽くした。
自分の手が、この両の手が、ディの眼を切り裂いたのだと頭で理解した時、震える手は剣を落とし床に高い音を鳴らしてそれは転がった。
「ディ・・・ああ、俺はなんてことを」
「っぐ・・・、逃げ、ろ蓮人。早く・・・」
脚が力を失いがくがくと崩れ落ちる。早くここから逃げなければと理解しても身体と思考が付いていかないのだ。口は空気を短く吸い、彼の眼から垂れ落ちるその赤を呆然と見つめるしかできない。
「いくら異界からの招き人とは言え、こうも簡単に操れてしまうとは。次はどうしましょうか?腕でもいいですし、脚の腱でも斬りますか?時間はたっぷりありますのでな。貴方様がご協力いただくまで苦しみ続けるのは彼ですぞ」
「・・・わかった。協力する。協力するから、これ以上はやめてくれ」
「蓮人!!!」
「全くすぐにご協力いただければ、彼とてこんなことにはならなかったでしょうに。では招き人を別室へご案内しろ」
頭が真っ白となり、何も考えられなくなった俺は、首の後ろの衝撃と共に意識を手放した。
頬に感じる柔らかな床の布の感触と薄ら意識の中で聴こえたのは、俺が倒れる音を聞いて心配の声をあげるディの声と、相も変わらず物腰穏やかな笑う公爵の声だった。
意識が浮上し、蓮人は先ほどとは似つかぬ薄暗い部屋にいた。
手足が寝台に縛られており、身動きを取ることが出来ない。頭を動かして周囲を見れば先ほどの客間のような天井まで絵画が描かれる豪華絢爛な場所でなくどこか寒々しい、物置部屋などに使われていてもおかしくないような部屋であった。
自分のほかに部屋には先ほどのフードを被った魔法師達、公爵だけでディの姿は無い。彼は無事だろうか?魔法で操られてしまったとはいえ自分が彼を痛めつけてしまった事実に胸が痛む。
あれ以上酷いことをされていなければと思う。
「お目覚めですかな?手荒な方法で運んでしまい申し訳ない」
「今更何を言う。ジャウハリー公、約束どおり俺が協力すればディにはこれ以上何もしないと誓ってくれ」
「勿論ですとも、本来であればここまで手荒な方法も使いたくはなかった。最初から貴方様が協力の意思があればすぐにでもお帰りできたのです。ですが、先ほどのこともあります故念のため手足を縛らせていただきました」
「それで、これから何をするんだ?貴方がたの興味は俺の生命力と言ったが・・・」
「さよう。よって蓮人様の生命力を保っているその原因を探らせていただきたいのです。この方法が解明され他の者にも適用できるようになれば蓮人様自身が苦労することも無くなりますし、人類の夢も叶う。貴方様の力が不要となればこの国の問題にいつまでも縛られることもない。良いこと尽くしではありませぬか。だからこそのお願いだったのです」
そういって優しく自分の耳元で語り掛ける吐息が気持ち悪い。
公爵の言っていることに理解できなくはない。現状自分自身しか使えない能力をもし全ての人間が活用できるようになったなら俺の役目も終わる。そして生命力を伸ばす方法を生み出せば皆長生きが出来る。理解は出来た。だが、やっていることは蛮人と変わりない。仮面のように崩れぬその笑顔すら白々しく映る。
「そこでまず、試させていただきたいのがアペプの魔石です。魔法師達もそれは試したいとずっと待ち侘びていたのです。アペプは元来長命の魔獣。そしてアペプの血は回復の妙薬。これらの予測は魔剣士殿の行動を見れば容易かったですな。秘匿としていたようですが、どこにだって目はあるものです」
「・・・・・」
こういう輩が出てくるからセペドは隠しておきたかったのだ。
自分の想像以上に危険であると早々に理解していた彼は決して口外してはいけないと言っていた。
誰が利用するかわからない、全てが終わるまでは秘密にしておけと。
拳を握り必死にもがくも、手足の枷はビクともせず無駄に終わる。
「さて、私は宝石商も営んでおりましてな。様々な鉱物を入手することは容易いのです。今回蓮人様のためにアペプの魔石を始めとした様々な魔獣の魔石を用意いたしました。全てを試せば大きな研究記録となることでしょう。おい、記録はきちんととっておけ」
公爵の後ろに控える魔法師達は、公爵の用意した鉱物などを手に取りようやっとその欲の探求を知れることに感極まった声をあげていた。睨みつけるほかどうすることもできないままでいれば一人の魔法師の男が俺の身体に手をかざし、魔力の流れを見ている。
「ふむ。我々の予想のとおり体内には魔石が融合されているようです。僅かばかりですが魔剣士の魔力も感じます。すぐにでも実験してみましょう。公爵はこちらへ。この位置が一番見やすいかと思います。あとは我々にお任せを」
「おお、期待しているぞ」
そういうと、公爵は俺の胸元のすぐ近くに椅子を用意しどっかりと座る。
複数人の魔法師達が俺を囲んでいる様を、これからはじまる演劇でも見に来たような期待のまなざしを向けている。
魔法師達は魔石を選び取りながら、ああでもないこうでもないと決めかねているようだ。
そうして男の握り拳ほどの大きさの魔石を一つ選び出すと、次の瞬間に俺の目の前に火花が散った。
「っが・・・は・・・・」
息を吐くことが出来ない。たくし上げられた胸元に無神経に入ってくるそれ。時間も与えず遠慮もないその魔石と魔術師の手が魔術を媒体に心臓へ一気に入り込んだ。強制的に心臓に融合され、急な魔石の熱と反発する痛みに脳がついていかない。腕が入り込んだ状態で唱えられる呪文が瞼の奥でちかちかと火花を飛ばす。水から砂へ打ち上げられた魚のように寝台の上で暴れることしかできず、パクパクと声すら忘れてしまったように喉の奥がせぐりあげた。
「生命値があがったかどうかは本人でしか分からないのが難点ですな。だが手ごたえはあるように感じます」
「おお!そうか!!ならば気が済むまでそこの魔石を使用してよいぞ!!そのためにかき集めてきた貴重品なのだからな」
「ありがたく使わせていただきます。このような機会はまたとない。存分に記録に残すとしましょう」
腕を引き抜かれ、思い出したかのように浅い呼吸を思い出した。
優しさの欠片もなく、ただ欲を追求するための行為には身体を開かれる苦しさしかなく、一気に貫かれる衝撃は頭から足先まで痺れが走る。目からは自然と感情を無視した雫が川を作った。
そこからは地獄のようであった。体内で心臓が暴れだす。ラムルアペプだけではない聞いたこともない名前の魔獣の魔石すら体内へ埋め込まれた。一人だけでないいくつもの腕が心臓とそれを融合させ、頭を振って痛みに耐えた。歯噛みしても零れ落ちる苦痛の声も聞こえぬように紙に記録をしたためては次から次へと手を出した。
「はっ・・・・、はっ・・・・・ぁ」
「ふむ、これでは協力してくれる蓮人殿が辛いだろうに。全くお前たちは研究となるとどうも心配りが疎かになっていかん。これを飲ませてやれ。少しは蓮人殿も楽になるだろう。ああ、せっかくだなアペプの血も一緒に混ぜて飲ませてやれ。何か新たな発見があるやもしれぬ」
離れてみていたジャウハリーが立ち上がり、一人の魔法師に小さな小瓶を手渡した。
蓮人にはもはや周りの声すらまともに届いていなかった。ただ怒涛に押し寄せる強制的な圧迫感にただ耐えるのに精いっぱいだった。全身から汗が溢れ、呼吸は荒々しく張り付いた前髪から覗く眼球は天井の灯りを映すための硝子と化していた。顎を掴まれ無理やりその小瓶の液体を喉に流されても吐き出す力すら出せず、ただ次第に熱くなる身体と新たに押し寄せるむずかゆさに嬌声を上げ胸をそらすしかなかった。
「蓮人殿。如何かな?そちらは近年見つかった面白い薬の一つでな。それを飲めばたちまちどんな者でも情欲を催す。あまりに強力な代物で外では出回らぬ。それをもってすれば苦痛も全て快楽に変わりますゆえむしろ痛みも喜びとして楽しまれるがよい。そのうち癖になるやもしれませぬぞははは」
「ふざ・・・・ぐっぅ・・・」
身体が熱くて仕方がない。胸も頬も喉も全て燃えさかるようだ。
熱い・・・熱い・・・。
部屋の涼しげな空気が胸元の頂きに触れただけで喉を晒してしまう。
腹の下が疼き両の膝を閉じてしまいたいのにそれすらできずゆらゆらと腰が揺れてしまう。
舌が酸素を求める犬のようにだらしなく空気を誘い、見下ろす男たちも思わず唾を飲み込んだ。
「蓮人様の肌は透明感がありますな。普段魔術しか興味のない我らですらうち震わすとは・・・青白いその膚にチラつく赤い舌、細い脚の中心の膨らみも涙を零すその漆黒の瞳も、なんとも美しい・・・」
全身がびっしょりと汗で濡れ、前をはだけさせ大きく胸を上下させる様はその場にいた男たちすべてを煽っていた。そのあとも彼らの実験は続き心臓を鷲掴みされるほどの痛みすら快楽に変えさせられ蓮人は身体が震え爪を手の腹に食い込ませた。先ほどと大きく変わったのは周りの男たちも次第に呼吸が荒くなり、寝台で喘ぐその青年の蕾のように上向いた胸元のそれを指で揉みしだき口へと含む者が一人また一人と、濡れる膚に触れる手つきは別の欲を孕んだものとなっていた。ただ落とされる快楽は逃げ場がなく拷問でしかない。
己の胸元で口に含んでいる者は熱く濡れたそれで何度も蕾をつつき蜜を吸った。
魔石を心臓へ融合し、そのたびに跳ねる身体を楽しむ者はその花の乱れた姿に口角を上げ舌なめずりをする。
全身のあらゆる場所をいくつもの乾いた指が怪しく這いずり、そのどうしようもない快楽に蓮人の男のそれはだらだらと涎を垂らしているのが下穿き越しにはっきりと見え、思わず目を瞑る。
女にされたかのように肉体を扱われ、それに反応する己が憎たらしい。
下穿きの膨らみを誰かの手が上から撫で上げ、粘り気の混じる音が嫌でも耳を犯していく。
あぁ、何とも厭わしい身体よ。
まるで頭が2つに割れた蛇のようだ。吐き気を催すほどに拒絶の思考と、今すぐにでも男を咥えてしまいたい浅ましい思考が身体を巡り、灼熱の大地の上でのたうち回るかのよう。
早く下穿きを外したその奥を暴いて欲しいと期待の声が漏れ出している。
「あっ、あぁ・・・」
その期待に応えるかのように、濡れたその布に誰かの手が差し掛かった瞬間、耳を覆いたくなる巨大な爆発音が轟いた。
「何事か!」
扉ではない分厚い壁を破壊して入ってきたのは、魔物よりも魔物らしく赤紫のオーラを放った男が一人立っていた。目は赤く光り、ゆらりとその携える刃は血を求める獣のように怪しく獲物を狙っていた。
部屋に舞う砂埃とパラパラ舞い落ちる砂の破片にむせこんでいた者達は遅れてその正体を知る。
「ま、魔剣士殿」
「こ、これは違うんだ・・・・!我々は王国の繁栄のための研究を・・・!」
「そうだ!!これは我々の。いや、人類の悲願なのだ!!」
「研究・・・これが、か」
見下ろす赤い眼球は、寝台に縫い付けられている青年を見つめる。
こちらの存在は捉えているようだが目は虚ろだ。むき出しの青い肌は天井の光に照らされ汗と体液でより際立つ。至るところに散らされた花びらと咬傷の痕、目的以外の行為がなされたなど明白であった。
怒りで、部屋すべてを焼き付く勢いで炎を纏う男のせいで、魔法師達も公爵もその気圧だけで肌がじりじりと焼けそうに熱かった。
「アイヤーシュ様!無礼を承知で申し上げる!だが、これは蓮人様の同意あってのものですぞ!」
「そうだ!多少強引になってしまったが、我らに協力する意志を見せてくれたのですぞ!!」
「話にならんな。これが国を支える者達の言い分とは。反吐が出る」
小さな部屋の中で渦が起きた。らせん状に巻き廻った炎の流れは、公爵を含めた男たちを容赦なく飲み込んでいく。魔の防壁でなんとか耐えているようではあるが、たった一人の男相手にやっと全員が持ちこたえている状態で今にもその壁は破られる寸前であった。既に泣き言を言い始める魔法師さえいる。
「お許しください!お許しください!魔剣士様!!!」
「魔剣士!!このようなことをして許されるとお思いか!!我は、ビイント・ジャウハリー!公爵ですぞ!!!」
ふっと、セペドは炎の渦を消した。
鋭い眼光に圧しかけたが、自分の言い分がとおったとジャウハリーは口角を上げ鼻で笑う。
「そうだ。それでいい!貴様の力は王国最強とは言えたかが兵士!命令をきいて黙って従っておればいいのだ!」
「そうか。ならば然るべき立場のものから粛清してもらうとしよう」
「なんだと?」
そう言うと、魔剣士の後ろから姿を現したのは額を抑え眉間にしわを寄せているテピイ・ナジーブの姿であった。まさか宰相まで出てくるとは思わなかった魔法師達は顔を真っ青にして喉をひきつった声を上げて慌てている。
「さ、宰相殿。いや、これはきちんとした理由があるのです!!」
「そうですね。きちんと理由をお聞かせ願おう。ジャウハリー公、濃密なお茶会となりそうですな。城へご同行いただきたい」
「・・・は」
牙を抜かれすっかり大人しくなった公爵たちを城の兵たちが連れていく。
そのやり取りの中心にいた息絶え絶えの蓮人を、セペドは寝台の枷から外し、外套ではだけた肌を隠すように包み込み両手で持ち上げた。肌に擦れる布すら過敏に反応し震える己の身を苦しげな眼差しで見下ろしている。
「せ、セペド・・・・」
「すまない。遅くなった」
彼が目覚めてからここへ至るまでの話だとか、ディは無事なのか思うことはあれど口も頭も回らない。
これ以上口を開ければ目の前の恩人にさえ求めてしまいそうで、必死で劣情を飲み込んだ。
同じ男なのに、なぜこんなにも彼の腕の中は安心するのだろうか。
その答えすらまだ見つけることが出来ずに俺はそのまま抱えられセペドと共に城へ戻ったのだった。
そこでようやく俺とディはホッと息を付き、疲れをようやっと思い出したのだった。
「お前の話を聞くに、そんだけ大量の魔獣を相手にすればこの体力馬鹿も流石に気を失うか・・・」
「静養していれば自ずと魔力も体力も回復するだろうし、意識が戻ればあとは大丈夫だね」
自分の足の怪我も、魔法師に治療してもらったらすぐに治ってしまった。魔法とは何て便利な存在なのだろうか。現代日本にも欲しい。
つま先で足の調子を確かめるように床をつつき、俯いてしまう。
もしも、これが最悪の状態だったならと思うほど恐ろしいものは無い。
(俺のせいだ・・・・)
彼はどうしてそこまでしてくれるのだろうという気持ちと、彼をここまで危険な状況に置いてしまったのは己の不甲斐なさのせいである。と罪悪感が押し寄せてきて潰されそうだ。
拳の震えは悲しみなのか、己に向けた怒りゆえなのか、それとも別の何かなのか判断がつかない。
こんなにも心がぐちゃまぜにさせられるこの気持ちが何なのか今の蓮人には分からなかった。
「そういや、さっきなジャウハリー公に声をかけられたんだが、今回の報告は聞いたがもう少しお前の口から直接いろいろ聞きたいんだとさ。行けそうか?」
「あ、ああ。そうだね、兵の大半を貸してくれたお礼もきちんとするべきだ。公はどこに?」
「あちらもゆっくり聴きたいらしくてな。別宅へのご招待だ。公は首都にもいくつか別宅を持っている。聞いた場所なら城の目と鼻の先さ。さっさと行って戻ってこよう」
そうして俺たちは、寝ているセペドを部屋に残し、ジャウハリー公の待つ家へと向かったのだった。
ジャウハリー公の別宅は、正直これが別宅なのかというほどに広かった。
使用人の数、庭の広さ、部屋数ひとつ取っても豪邸である。その豪邸の客間に俺たちは通された。
豪勢な部屋に座る自分自身が酷く場違いな感じがしてしまい、どうにも委縮してしまう。
背後に立つディを見上げれば、肩を落としてため息をつかれた。そんな態度を取られても、慣れぬものは慣れぬのだ。助けてほしい。
「お待たせしてしまいましたかな。どうぞ、蓮人様ゆっくりしていってくだされ」
「あ、まずはジャウハリー公。此度の件、ご協力いただき心より感謝申し上げます。無事にセペドを見つけ出すことが出来ました。協力がなければ自分一人では何もできなかったでしょう」
「はっはっは。蓮人様は本当に謙虚なお方ですな。あれぐらい当然のことです。まして実際にこちらも被害にあっていたアペプ関連ともなれば惜しむことなどありましょうか。さて、飲み物をと・・・聞くところによれば蓮人様は酒を多くは飲まれないと聞いておりますのでな。紅茶なら大丈夫かな?」
「ありがたいです。飲めなくは無いのですが、水代わりに酒を飲むという習慣が無かったものでして・・・」
そうして召使に持ってこさせた紅茶と菓子が向かい合わせに座る公と自分の間のテーブルに次々と置かれていく。みずみずしいプラムやリンゴ、メロンなどの果実が充実している。口に運んだ紅茶の驚くべき甘さに一瞬吐き出しかけた蓮人であったが、根性で飲み込んだ。
(日本でも、甘い紅茶はあったが流石に俺には甘すぎる・・・)
ひとまず、にこりと差し障りない笑顔を浮かべながら果物の中から無言で柘榴を取った。
「報告はあらまし聞いておりましたが、砂漠の地下にそのような虚が・・・」
「はい。恐らくではありますが、あれ一つだけとは到底思えません。砂漠化が進んでいる以上王国の至る所に出来ている可能性は視野に入れておいた方がよいでしょう」
「ふむ。そうしますと我々の予想以上に魔獣が眠っている可能性がありますな。緑化は進めど地下にそのような恐ろしい巣窟が点在していては課題は山積みになってくる。魔剣士殿が目覚められたらそちらの方の意見も聞かねば・・・・」
蓮人が見てきた虚の状況を事細かに伝えれば、ジャウハリー公はすぐさま執事を呼び何か伝言を伝えている。
そのやり取りを見守りながら、俺は数粒柘榴の実を喉に落とし込んだ。
「さて、そちらは他の貴族も交え王と決めねばならぬこと。本日こうしてお越しいただいた理由は私個人的な興味を満たすために足を運んでいただいたのです」
「と、言いますと?」
「蓮人様が王国に召喚され緑化を行っているのは周知の事実ですが、私は不思議に思うのですよ。その底なしの生命力に」
「・・・・・」
「いやなに簡単なことです。私の家からも何人か専属で国に仕えている魔法師達がおりましてな。彼らが言うには蓮人様の能力は蓮人様の生命力を用いていると言うではありませぬか。貴方は不死ではない、怪我もすれば病気にもなる普通の人間です。なのに、いつまでも沸き続けるその生命力はどこからきているのだろうと不思議に思っておりまして。事実一時は体調が悪化し倒れられたとのこと。しかし完全に回復してはいないとはいえ、生命を使い続けている。それができる理由を教えてもらいたいのです」
翳り翳り。訪れる静寂。誰も何も答えない。ただただ時だけが過ぎていく。
ジャウハリー公は、どうやら俺の能力の真実を知る貴族の一人だったようだ。どこまで答えようか。
しかしここまであけすけな物言いに、思わず顔をしかめてしまう。
背後にいる護衛騎士にも漏れてしまった事実に表情が気になったが、今はこの場をどう乗り越えるかだ。
素直に話してしまうことは出来る。が、そのことで起きる悪影響が予測がつかない。
魔法師達の知への興味は底知れぬ。その活用方法がもしこの国で生きる人間にも当てはめられるのならば新たな魔法の使い方の道が開けるに違いないという純粋な気持ちもあるのだろうが。
「申し訳ありませんが、現状お伝えできることはありません。」
「まぁ、そうでしょうな。ただ、私の予想では、魔剣士殿の行動が鍵であると踏んでおります。あの魔剣士殿がここ数日にわたりアペプ狩りを行っておりましたが、討伐しろと王命は出ておりませぬ。して、彼が討伐を始めた頃から貴殿の体調は回復傾向だったというではありませぬか、どうですか?アペプと魔剣士、それが長命の理由ですかな?」
「・・・お答えできませぬ」
ピリピリとした空気が部屋を漂い、硬い表情の自分と対比してジャウハリー公は笑顔のままだ。その笑顔がむしろ気味が悪い。長命に対する興味はいつの時代も人類の夢である。科学が発達しようとも、魔法が発達しようとも人間の寿命は100年そこら。その探求を求める人間の欲はどの世界でも同じか。
席を立ちあがり、もうこれ以上の会話は御免だと挨拶もそこそこに部屋を出ていこうとした時だった。
自分の背後で険悪な状況を見守っていた騎士の呻き声が聴こえ振り返れば、ディは手を剣に添えたまま床に膝をついていた。
「まだいいではありませんか。蓮人様のそのお力、うまくいけば人類の夢が叶う絶好の機会ですぞ?どうかお教え願えませぬか」
「公爵!!どういうおつもりか!!!ディに一体何をした!!!」
「この部屋には何重もの魔法が組み込まれておりましてな。単にそこの兵士は身体の自由を奪われただけです。いやはやそれでも流石はこの国の第二部隊の隊長だけありますな。普通なら身体の自由を奪われるだけでなく意識さえ失うというのに、膝をついてまだ立ち上がろうとするとは・・・」
「お答えできることは何もないとお伝えしたはずです!!公爵と言えど、このような行いしていいとお思いか!!?」
「ははは。蓮人殿は状況をきちんと把握しておられぬようだ。これは交渉です。貴方様がこちらへ協力してくださればその兵には何もしない。すぐに開放致しましょう」
「蓮人!!逃げろ!!!公爵の狙いはお前だ。俺ならいいから!!!」
まるで見えない空気の圧力に押しつぶされるように動けないでいるディが俺を見上げ叫んでいた。
その叫びで足を動かされ出口の扉に向かおうとも数人のフードを被った魔法師達が入ってきて出口をふさぐ。魔法師の一人が呪文を唱えると、その手のひらから光の鎖が現れディの身体をきつく縛り上げていく。
それを外そうと藻掻くが、抗えばあらがうほど食い込んでいき呻き声が漏れる。
自分だけが自由に動ける状態でディに近づき鎖を引きちぎろうにも、魔法でできたソレはビクともしない。
この状況を打破するには、公爵に何とか魔法師達を止めてもらわねばならない。魔法を放つことも頭の隅で考えるも、俺の魔力量で攻撃魔法を放てばこの部屋すら吹っ飛びかねず自身もディも無事でいられるかはわからない。ディの腰から剣を抜き、公爵へむける。殺すつもりはない脅して魔法を解除させるしか方法は無いと公爵を睨めば、相手はわざとらしく両手を上げて恐怖を感じる演技をしてまた笑顔になっていた。
「おお、恐ろしや恐ろしや。蓮人殿は私を殺めるおつもりかな?」
「この状況を作り出したのは貴方だ。無事に帰してくださるというならばこちらも何もしませんし、今回のことは不問にします。同じ国の中で争いごとなどしたくありません。どうか魔法を解いていただきたい」
「お優しいですな蓮人様は。そのような純粋なる心はやはり政に関わらないからなのか、それとも異界の人間故なのか。そのへんも興味がわきますな」
「まだそのようなことを・・・!」
まるで話にならないと怒りに震えたその時だった。
自分の手にあった剣が勝手に動く気配がして手元を見れば自分の腕が、剣が、意思に反して勝手に持ち上がる。それを力づくで抑え込もうにも見えない何かが手を添えるかのようにして足元の肉体へ向け切っ先が一筋の線を描いた。その太刀筋は見事にその者の持つ青い光を二つ切り裂いた。部屋に響く叫び、耳をつんざくような。目の前で呻くその姿もどこか遠くの存在として立ち尽くした。
自分の手が、この両の手が、ディの眼を切り裂いたのだと頭で理解した時、震える手は剣を落とし床に高い音を鳴らしてそれは転がった。
「ディ・・・ああ、俺はなんてことを」
「っぐ・・・、逃げ、ろ蓮人。早く・・・」
脚が力を失いがくがくと崩れ落ちる。早くここから逃げなければと理解しても身体と思考が付いていかないのだ。口は空気を短く吸い、彼の眼から垂れ落ちるその赤を呆然と見つめるしかできない。
「いくら異界からの招き人とは言え、こうも簡単に操れてしまうとは。次はどうしましょうか?腕でもいいですし、脚の腱でも斬りますか?時間はたっぷりありますのでな。貴方様がご協力いただくまで苦しみ続けるのは彼ですぞ」
「・・・わかった。協力する。協力するから、これ以上はやめてくれ」
「蓮人!!!」
「全くすぐにご協力いただければ、彼とてこんなことにはならなかったでしょうに。では招き人を別室へご案内しろ」
頭が真っ白となり、何も考えられなくなった俺は、首の後ろの衝撃と共に意識を手放した。
頬に感じる柔らかな床の布の感触と薄ら意識の中で聴こえたのは、俺が倒れる音を聞いて心配の声をあげるディの声と、相も変わらず物腰穏やかな笑う公爵の声だった。
意識が浮上し、蓮人は先ほどとは似つかぬ薄暗い部屋にいた。
手足が寝台に縛られており、身動きを取ることが出来ない。頭を動かして周囲を見れば先ほどの客間のような天井まで絵画が描かれる豪華絢爛な場所でなくどこか寒々しい、物置部屋などに使われていてもおかしくないような部屋であった。
自分のほかに部屋には先ほどのフードを被った魔法師達、公爵だけでディの姿は無い。彼は無事だろうか?魔法で操られてしまったとはいえ自分が彼を痛めつけてしまった事実に胸が痛む。
あれ以上酷いことをされていなければと思う。
「お目覚めですかな?手荒な方法で運んでしまい申し訳ない」
「今更何を言う。ジャウハリー公、約束どおり俺が協力すればディにはこれ以上何もしないと誓ってくれ」
「勿論ですとも、本来であればここまで手荒な方法も使いたくはなかった。最初から貴方様が協力の意思があればすぐにでもお帰りできたのです。ですが、先ほどのこともあります故念のため手足を縛らせていただきました」
「それで、これから何をするんだ?貴方がたの興味は俺の生命力と言ったが・・・」
「さよう。よって蓮人様の生命力を保っているその原因を探らせていただきたいのです。この方法が解明され他の者にも適用できるようになれば蓮人様自身が苦労することも無くなりますし、人類の夢も叶う。貴方様の力が不要となればこの国の問題にいつまでも縛られることもない。良いこと尽くしではありませぬか。だからこそのお願いだったのです」
そういって優しく自分の耳元で語り掛ける吐息が気持ち悪い。
公爵の言っていることに理解できなくはない。現状自分自身しか使えない能力をもし全ての人間が活用できるようになったなら俺の役目も終わる。そして生命力を伸ばす方法を生み出せば皆長生きが出来る。理解は出来た。だが、やっていることは蛮人と変わりない。仮面のように崩れぬその笑顔すら白々しく映る。
「そこでまず、試させていただきたいのがアペプの魔石です。魔法師達もそれは試したいとずっと待ち侘びていたのです。アペプは元来長命の魔獣。そしてアペプの血は回復の妙薬。これらの予測は魔剣士殿の行動を見れば容易かったですな。秘匿としていたようですが、どこにだって目はあるものです」
「・・・・・」
こういう輩が出てくるからセペドは隠しておきたかったのだ。
自分の想像以上に危険であると早々に理解していた彼は決して口外してはいけないと言っていた。
誰が利用するかわからない、全てが終わるまでは秘密にしておけと。
拳を握り必死にもがくも、手足の枷はビクともせず無駄に終わる。
「さて、私は宝石商も営んでおりましてな。様々な鉱物を入手することは容易いのです。今回蓮人様のためにアペプの魔石を始めとした様々な魔獣の魔石を用意いたしました。全てを試せば大きな研究記録となることでしょう。おい、記録はきちんととっておけ」
公爵の後ろに控える魔法師達は、公爵の用意した鉱物などを手に取りようやっとその欲の探求を知れることに感極まった声をあげていた。睨みつけるほかどうすることもできないままでいれば一人の魔法師の男が俺の身体に手をかざし、魔力の流れを見ている。
「ふむ。我々の予想のとおり体内には魔石が融合されているようです。僅かばかりですが魔剣士の魔力も感じます。すぐにでも実験してみましょう。公爵はこちらへ。この位置が一番見やすいかと思います。あとは我々にお任せを」
「おお、期待しているぞ」
そういうと、公爵は俺の胸元のすぐ近くに椅子を用意しどっかりと座る。
複数人の魔法師達が俺を囲んでいる様を、これからはじまる演劇でも見に来たような期待のまなざしを向けている。
魔法師達は魔石を選び取りながら、ああでもないこうでもないと決めかねているようだ。
そうして男の握り拳ほどの大きさの魔石を一つ選び出すと、次の瞬間に俺の目の前に火花が散った。
「っが・・・は・・・・」
息を吐くことが出来ない。たくし上げられた胸元に無神経に入ってくるそれ。時間も与えず遠慮もないその魔石と魔術師の手が魔術を媒体に心臓へ一気に入り込んだ。強制的に心臓に融合され、急な魔石の熱と反発する痛みに脳がついていかない。腕が入り込んだ状態で唱えられる呪文が瞼の奥でちかちかと火花を飛ばす。水から砂へ打ち上げられた魚のように寝台の上で暴れることしかできず、パクパクと声すら忘れてしまったように喉の奥がせぐりあげた。
「生命値があがったかどうかは本人でしか分からないのが難点ですな。だが手ごたえはあるように感じます」
「おお!そうか!!ならば気が済むまでそこの魔石を使用してよいぞ!!そのためにかき集めてきた貴重品なのだからな」
「ありがたく使わせていただきます。このような機会はまたとない。存分に記録に残すとしましょう」
腕を引き抜かれ、思い出したかのように浅い呼吸を思い出した。
優しさの欠片もなく、ただ欲を追求するための行為には身体を開かれる苦しさしかなく、一気に貫かれる衝撃は頭から足先まで痺れが走る。目からは自然と感情を無視した雫が川を作った。
そこからは地獄のようであった。体内で心臓が暴れだす。ラムルアペプだけではない聞いたこともない名前の魔獣の魔石すら体内へ埋め込まれた。一人だけでないいくつもの腕が心臓とそれを融合させ、頭を振って痛みに耐えた。歯噛みしても零れ落ちる苦痛の声も聞こえぬように紙に記録をしたためては次から次へと手を出した。
「はっ・・・・、はっ・・・・・ぁ」
「ふむ、これでは協力してくれる蓮人殿が辛いだろうに。全くお前たちは研究となるとどうも心配りが疎かになっていかん。これを飲ませてやれ。少しは蓮人殿も楽になるだろう。ああ、せっかくだなアペプの血も一緒に混ぜて飲ませてやれ。何か新たな発見があるやもしれぬ」
離れてみていたジャウハリーが立ち上がり、一人の魔法師に小さな小瓶を手渡した。
蓮人にはもはや周りの声すらまともに届いていなかった。ただ怒涛に押し寄せる強制的な圧迫感にただ耐えるのに精いっぱいだった。全身から汗が溢れ、呼吸は荒々しく張り付いた前髪から覗く眼球は天井の灯りを映すための硝子と化していた。顎を掴まれ無理やりその小瓶の液体を喉に流されても吐き出す力すら出せず、ただ次第に熱くなる身体と新たに押し寄せるむずかゆさに嬌声を上げ胸をそらすしかなかった。
「蓮人殿。如何かな?そちらは近年見つかった面白い薬の一つでな。それを飲めばたちまちどんな者でも情欲を催す。あまりに強力な代物で外では出回らぬ。それをもってすれば苦痛も全て快楽に変わりますゆえむしろ痛みも喜びとして楽しまれるがよい。そのうち癖になるやもしれませぬぞははは」
「ふざ・・・・ぐっぅ・・・」
身体が熱くて仕方がない。胸も頬も喉も全て燃えさかるようだ。
熱い・・・熱い・・・。
部屋の涼しげな空気が胸元の頂きに触れただけで喉を晒してしまう。
腹の下が疼き両の膝を閉じてしまいたいのにそれすらできずゆらゆらと腰が揺れてしまう。
舌が酸素を求める犬のようにだらしなく空気を誘い、見下ろす男たちも思わず唾を飲み込んだ。
「蓮人様の肌は透明感がありますな。普段魔術しか興味のない我らですらうち震わすとは・・・青白いその膚にチラつく赤い舌、細い脚の中心の膨らみも涙を零すその漆黒の瞳も、なんとも美しい・・・」
全身がびっしょりと汗で濡れ、前をはだけさせ大きく胸を上下させる様はその場にいた男たちすべてを煽っていた。そのあとも彼らの実験は続き心臓を鷲掴みされるほどの痛みすら快楽に変えさせられ蓮人は身体が震え爪を手の腹に食い込ませた。先ほどと大きく変わったのは周りの男たちも次第に呼吸が荒くなり、寝台で喘ぐその青年の蕾のように上向いた胸元のそれを指で揉みしだき口へと含む者が一人また一人と、濡れる膚に触れる手つきは別の欲を孕んだものとなっていた。ただ落とされる快楽は逃げ場がなく拷問でしかない。
己の胸元で口に含んでいる者は熱く濡れたそれで何度も蕾をつつき蜜を吸った。
魔石を心臓へ融合し、そのたびに跳ねる身体を楽しむ者はその花の乱れた姿に口角を上げ舌なめずりをする。
全身のあらゆる場所をいくつもの乾いた指が怪しく這いずり、そのどうしようもない快楽に蓮人の男のそれはだらだらと涎を垂らしているのが下穿き越しにはっきりと見え、思わず目を瞑る。
女にされたかのように肉体を扱われ、それに反応する己が憎たらしい。
下穿きの膨らみを誰かの手が上から撫で上げ、粘り気の混じる音が嫌でも耳を犯していく。
あぁ、何とも厭わしい身体よ。
まるで頭が2つに割れた蛇のようだ。吐き気を催すほどに拒絶の思考と、今すぐにでも男を咥えてしまいたい浅ましい思考が身体を巡り、灼熱の大地の上でのたうち回るかのよう。
早く下穿きを外したその奥を暴いて欲しいと期待の声が漏れ出している。
「あっ、あぁ・・・」
その期待に応えるかのように、濡れたその布に誰かの手が差し掛かった瞬間、耳を覆いたくなる巨大な爆発音が轟いた。
「何事か!」
扉ではない分厚い壁を破壊して入ってきたのは、魔物よりも魔物らしく赤紫のオーラを放った男が一人立っていた。目は赤く光り、ゆらりとその携える刃は血を求める獣のように怪しく獲物を狙っていた。
部屋に舞う砂埃とパラパラ舞い落ちる砂の破片にむせこんでいた者達は遅れてその正体を知る。
「ま、魔剣士殿」
「こ、これは違うんだ・・・・!我々は王国の繁栄のための研究を・・・!」
「そうだ!!これは我々の。いや、人類の悲願なのだ!!」
「研究・・・これが、か」
見下ろす赤い眼球は、寝台に縫い付けられている青年を見つめる。
こちらの存在は捉えているようだが目は虚ろだ。むき出しの青い肌は天井の光に照らされ汗と体液でより際立つ。至るところに散らされた花びらと咬傷の痕、目的以外の行為がなされたなど明白であった。
怒りで、部屋すべてを焼き付く勢いで炎を纏う男のせいで、魔法師達も公爵もその気圧だけで肌がじりじりと焼けそうに熱かった。
「アイヤーシュ様!無礼を承知で申し上げる!だが、これは蓮人様の同意あってのものですぞ!」
「そうだ!多少強引になってしまったが、我らに協力する意志を見せてくれたのですぞ!!」
「話にならんな。これが国を支える者達の言い分とは。反吐が出る」
小さな部屋の中で渦が起きた。らせん状に巻き廻った炎の流れは、公爵を含めた男たちを容赦なく飲み込んでいく。魔の防壁でなんとか耐えているようではあるが、たった一人の男相手にやっと全員が持ちこたえている状態で今にもその壁は破られる寸前であった。既に泣き言を言い始める魔法師さえいる。
「お許しください!お許しください!魔剣士様!!!」
「魔剣士!!このようなことをして許されるとお思いか!!我は、ビイント・ジャウハリー!公爵ですぞ!!!」
ふっと、セペドは炎の渦を消した。
鋭い眼光に圧しかけたが、自分の言い分がとおったとジャウハリーは口角を上げ鼻で笑う。
「そうだ。それでいい!貴様の力は王国最強とは言えたかが兵士!命令をきいて黙って従っておればいいのだ!」
「そうか。ならば然るべき立場のものから粛清してもらうとしよう」
「なんだと?」
そう言うと、魔剣士の後ろから姿を現したのは額を抑え眉間にしわを寄せているテピイ・ナジーブの姿であった。まさか宰相まで出てくるとは思わなかった魔法師達は顔を真っ青にして喉をひきつった声を上げて慌てている。
「さ、宰相殿。いや、これはきちんとした理由があるのです!!」
「そうですね。きちんと理由をお聞かせ願おう。ジャウハリー公、濃密なお茶会となりそうですな。城へご同行いただきたい」
「・・・は」
牙を抜かれすっかり大人しくなった公爵たちを城の兵たちが連れていく。
そのやり取りの中心にいた息絶え絶えの蓮人を、セペドは寝台の枷から外し、外套ではだけた肌を隠すように包み込み両手で持ち上げた。肌に擦れる布すら過敏に反応し震える己の身を苦しげな眼差しで見下ろしている。
「せ、セペド・・・・」
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閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
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近々番外編をあげます。
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2022.05.28
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よろしくおねがいします。
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