死に急ぎ魔法使いと魔剣士の話

彼岸

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対価

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「っ・・・・・、では協力いただけると?」


「ふむ。答えるのはやぶさかではないが・・・ただ情報を渡すだけもつまらんな。こちらに何か得るものが欲しい。」


「・・・・・情報料でしたら勿論」


「いや、金など要らぬ。そうだな・・・」


彼は己をまじまじと見つめてゾッとした。もし肉体を寄こせと言われたらそれは頷けないからだ。顔にまで出てしまったのだろうか彼は蓮人の様子を見て大声で笑いだした。


「何もお前の血肉を寄こせなんて思っとらんよ。この肉体の成れの果ては己の責任。それに他人の肉体を貰ったところでそれを使う術は流石の儂にもようわからぬ。」


「では、何を・・・」


「それだ」


彼は思いついたかのようにこちらを指差して、まさに今閃いたと言わんばかりの様を見せたとき、蓮人は水中に足元を引っ張られたのだ。先ほどあった水底の地面が消え深く深く水中へ落とされた。
呼吸が出来ない。視界は暗く頭上に見える光に反射する澱んだ緑色が目に入った。
絡みつく何かに何とか対抗し一度浮上し肺に思いっきり酸素を取り込むと、男は変わらずそこにいて頬杖をつきながら淡々とこう言うのだ。


「長らくここから出られぬ儂とて遊びが欲しい。男なのが残念だったが、あちらの男よりはお主の方がまだ見られるものよ。少しばかり付き合うてくれまいか?」


「っ・・・・!!」


罵詈雑言を投げかけたくとも口を開けば湯が入り、気を抜けばまた水底へ引きづられそうになる。何なのだここは。藻掻けば藻掻くほどに足に何かが絡みついていく。


「ああ、教えてやろう。この湯はな。薬湯と言ったのは間違いないのだが薬湯に擬態した魔物も共に棲んでいるのだよ。水に擬態することを得意とし、知らずに口に含めば内より溶かし生き物を喰らうこともある恐ろしい魔物よ。アスワタァークル。聞いたことがあるか?」


アスワタァークル。城の図書館にあった図鑑で読んだことがある。
見た目はほぼ水のような生物であり、大抵オアシスや池、沼など水中に生息する魔物。
どうやって増えているか、生態もまだまだ未知の魔物。
男の言った通り水の中にいるだけでは見つけることが出来ないため、誤って飲み込んでしまい体内から溶け出し命を落とすことがある恐ろしい魔物だ。幸運なことは数がそんなにいないために被害も年に数人程度であると言うことである。
だが最悪なことにこの魔物は退治方法がまだ確立していないことだ。そのためにこの魔物に出会ったら誤って飲み込んで命を落とす。死にたくなければ安全とされている水以外飲み込まないと言う回避方法しかないのだ。そしてその方法ですら絶対では無い。不味いことになった。


「では・・・!貴方の肉体が欠落しているのも・・・」


「さよう。きっとこやつらに知らず知らずに長い間ゆっくりと喰われたというわけだ。儂とて気付かなんだ。珍しい魔物だからな。だが不思議なことに痛みもなく儂は死んではおらん?どうしてだと思う?」


「そんなこと・・・!・・・知らっ、!!!」


また水中に引き戻される。まずい飲み込んでは!!!必死に口を両手で抑え湯を飲み込まないように耐えた。
ラベクは最早蓮人が聞いていようといまいとぽつりぽつり言葉をつぶやきそのあぶくが上がる水面を眺めていた。


「普通なら儂も死んでいるのに・・・なぜだが骨になろうとも生きておる。そう、骨でも動けるこの身体はの。最早この魔物の一部と化したのだ。魔物の意志も存在し、儂の意識で動かすことも可能なのだ。だからこそこの虚より外には最早行けぬ。恥ずかしいからの。どれ、流石にこれ以上は死んでしまうか。」


水中から持ち上げられるようにして蓮人の身体が取り出された。身体に巻き付いているそれはどう見ても緑色の液体の塊であるのに蛇のように太ももや腰に巻き付いて蓮人を支え持ち上げていた。これがセペドや蓮人を水中へ引きずりこんだ原因である。こうして空気中で見なければにわかに信じがたくただの液体にしか見えない。わかるはずもない。だがぶよぶよとしたそれは確かに感触があり、何らかの生き物であると分かる。


「聴こえていないようだったからもう一度聴かせてやろう。この湯は魔物であり、肉体を溶かす正体でもあり、儂の肉体が融合した存在でもあるのだ。だからこそこうしてお主が死ぬ前に引き上げることも出来る。だが、魔物としての意志もあるから制御できぬこともままあるのだ。面白いだろう?」


「ハァ・・・ハッ・・・・、貴方は一体何をしたいんですか?私の命を弄び殺したいとでも?」


「いや、殺すには惜しい。殺しはしない。まぁ、弄ぶという点では否定はしないが・・・」


「あっ・・・・・!!?」


すっと股間に違和感を感じ視線を下ろせば、服の上から明らか目的をもってじわりじわりと魔物が動き出す。
先ほどの動きとは別の、肉を揉みしだくような触れ方。その湯はまるで掌の群のように動くのだ。
熱を持った水が身体を這いまわり、肌に触れる。それは人の指先で触れられてるような錯覚に陥りうす気味が悪い。
濡れて重くなった服の上を動き喉まわりにまでまとわりつき思わず首を引く。それでも逃げられる範囲など限られ頬をそれらは撫でた。蓮人の柔らかな白い肌を水の魔物は触れて楽しんでいる。今すぐにでも喰らうことなどいとも容易かろう。
見えない大量の掌に身体を触られているようで不快であっても、こちらにとってはただのぶよぶよとした液体であって抵抗が無意味であった。両手や両足は魔物に拘束されたままでその拒絶すらまともに出来ない。
そうこうしているうちに蓮人の顔にアスワタァークルは覆いかぶさり呼吸を塞いだ。両手で口を守ることすらできず、息苦しさに口を開けば温かい湯のそれがあっさりと歯列を押し開き一気に喉奥まで侵入を果たす。食いちぎることも出来ぬ。噛んだところですぐにお互いが引っ付きあいぶよぶよとした液体は弾力を保つ。ようやっと口元以外を解放され鼻から必死で酸素を取り込んだ。


(まずい・・・このままでは。溶かされ、て・・・!!!)


必死で吐き出そうにも喉奥に侵入したまま動かないそれ。喘ぎ、苦しく、カエルを踏み潰したような声が漏れ涙が落ちた。城で飲んだような薬湯のような独特の苦みと匂いが舌の上に転がる。


「ぐっ・・・・・、ぁ・・・・!・・?!」


胸元辺りにへばりつく者共が服の上から小さな針でチクチクと肌を刺すように刺激を与えてくる。反射で視線を下げ己の肉体の変化に目を見開いた。びしょぬれになった服が体にへばりついていたその下、胸の両の飾りが女のように立ち上がり普段の倍には腫れ上がっていた。それは濡れた布の上からもわかるくらいに主張をし、だらしなく淫らに赤く色づいているのが透けて見える。
アスワタァークルは、平らな胸のその分かりやすい目印を覆い刺激を与えていたのである。腫れてしまっているのは薬湯に棲んでいる弊害なのかこいつ自身にそういった毒があるのか。爪や牙など見当たらないはずなのにまるで爪先で穿られているかのような、小さな口で甘噛みされ続けたかのような。なおもたらされる持続的な刺激に肉体はびくびくと跳ねた。
そして口に入り込んだままのそれも隙あらば奥へと潜ろうとするため何度も胃が震えた。
肉体のどこかで強い刺激に意識が向けばまた別のところの刺激で注意を引き、たくさんの言葉通じぬ手に蓮人は犯されていく。気づけば下穿きはボロボロに溶かされ己の秘部さえ暴かれていく。


「ン゛ぁ・・・・・ん、・・・・・くっ・・・ぅ、・!!!」

口の異物で言葉は発しずらく、またあらゆる刺激でまともな音にすらなっていない。こんな薄気味悪いものに命を握りられているなどごめんだ。以前アディードファウダーに攻撃が効いたように自分自身に雷を放てば解放されるであろう。蓮人は震える肉体に覚悟を決め大きめの雷の魔法を放った。放ったはずであった。意識を失ってもよいくらいには魔力を込めたはずなのに落雷どころか静電気すら起きていない。今一度放つも結果は同じ。


「無駄だ。そのくらいの抵抗など予想出来ておる。お主が脚を取られた瞬間にはとっくに魔力を封じさせてもらったよ。いかなる魔法も使うことは出来ぬ。この岩穴から出ればちゃんと封は解けるようにしてあるから安心するがよい」


絶望の雫が一つ落ちる。
欠伸一つしながら気だるそうに語るラベク・バダネッヤ。彼は相当な魔法の使い手だ。自分の攻撃範囲内に入った者をいとも簡単に手中におさめた。彼は大戦の話をしていた。つまりラベクは遥か昔の大戦時代から生きていることとなる。それは大量の魔物の血を浴び長命となったガイル・バンダークや今なお城で滾々と呪術によって眠り続けている時が止まったままのカディーラ・ジュンディーと同じ時代ということだ。だが彼の生命値は出会った時から視ることが出来なかった。それは己より優れた魔法使い故なのか分からないが、もしかしたら意図として隠しているのではなくすでに人としては死んでいるのかもしれない。こんな状況でおかしなことを考えるくらいには思考だけは鮮明だった。鮮明だけに思うようにいかないのは思考以外全て。打開策を必死で考えるも肉体の刺激でそれは散らされた。最早魔力が抑え込まれた蓮人はただ蜘蛛の糸に絡み取られた羽虫同然の力しか無いのである。

腫れあがった胸の飾りの横から擦り上げ頂点を押し込めまた強く捻られる。服の繊維とぬめりを帯びてくる液状の魔物の手がゾクゾクと妙な感覚にさせた。


「・・・・何を、したいんだあんた・・・!」


「鈍いようには見えぬがな・・・口に出して言われたいのか?情報を与える対価として儂を楽しませろ、女の代わりとなれ」


「・・・嫌だ」


「なら、死ぬまでよ。本来ならば魔物の巣窟に足を踏み入れた時点で絡み取られとっくに溺れ死んでもおかしくないのは理解しただろう?それに、儂がそちらの方に意識を向けてやらねばこいつらはお前を喰らう方向に意志が動いてしまうのだぞ。内に潜り・・・腹の中から食い破られるのを見るのも儂は別に構わんがの・・・」


露わにされた秘部近くにいた者達が柔らかい双丘の奥にあるヒダを開き中に潜り込んだ。液体故に拒絶など出来なかった。その隙間はどんどん開かれ胎の奥へ進む。もう幾度か男のそれを受け入れてしまっている己の排泄器官はその侵入の動きを甘い感覚として脳が変換してしまうようになってしまっていた。しかも熱を持った液体はまるで熱棒を突き入れられたかのよう。反射で跳ねた身体。喘ぎを伴った叫び。叫んだことで喉の奥さえ楽しむ魔物たち。耳の中に侵入した液体のせいで水の泡立つ音だけが蓮人の脳の中でコポコポと響いた。
意味のない抵抗と躍動する魔物。蓮人の受け入れている秘密の穴は限界まで押し開かれ、その部分はラベクからは丸見えである。濁った緑色の液体だとしてもこれだけ広げられては普段見えない肉の壁はきっとはっきり見えているに違いない。己でそれを見ることは出来ないはずなのに、現実から目を背けるように目を瞑り顔を背けた。快楽の痺れで自然と涙が体液と混じり落ち、そして消えた。熱く弾力のあるそれらが出入りして胎内を動き回り、最奥を無理にこじ開けようと腸の壁を強く押してきて流石に慌てて声を上げた。


「やめ・・・・、・・ぁ・・・・!!!そんな、奥!はっ、入ら な・・・お゛っ・・・ぁああ、」


最奥、人間のモノではおよそ届かない肉の壁さえ越えようとするそれらを止めようと震えた声を上げて身体を捻ったのが逆に入りやすかったのであろう、ボコンと鈍い音さえ聞こえてきそうなほど強くそれは越えてしまった。越えた先の臓物の壁を強く叩き下腹部が目に見えて一瞬盛り上がった。脂汗が一気に溢れ呼吸を忘れてしまうほどの強い快楽が脳天を突き抜けた。それこそ雷を落とされたかのようだ。手足の指先まで痺れ痙攣をおこしている。
飛んだ意識が地に戻ってこれない。快楽の痺れが止まらない。なぜこんな衝撃で肉体は悦んでいるのか。
激しくなった呼吸で犬のように舌を出したまま酸素の薄い湯気の中、肉体を蠢く熱い液体で撫でまわされ脳まできっと快楽にのぼせてしまっている。


されど、魔物は人間の都合などお構いなしでその甘い肉の壺を蹂躙するのだ。休む間もなく下腹部の裏を叩かれて蓮人はくぐもった声で泣き叫んだ。

(死ぬ死ぬ・・・このままでは!腹を食い破られる!!なのに、感じるとかおかしい!こんな・・・!!)


気付けば腹は膨らんで、魔物に種付けられてしまったのかと錯覚する恐怖が襲う。
弄られさらに赤くなった胸の飾りに張り付いているそれらはそこからさえも体内へ潜り込みたいのか、蕾を押しつぶしほじくり開こうと動く。そこに入り口など無い。けれど必死に彼らは体液で滑りをつくり胸を根元から先端へ絞り出すように引っ張っては押し戻し侵入を試みている。それが蓮人の多重の快楽の波に叩き落していることなど魔物である彼らは知るよしも無い。


「ほう?もしやお主・・・・・魔物との間の子か?いや、違うな。好き好んで魔物を喰らったりなどしておるのか?」


「は、・・・?・・ぁ、あ???」


両の耳をほじくるアスワタァークルの触手のせいではっきり聴こえづかったが、聴こえた単語を繋げても意味が分からなかった。
だが、似たような経験をしたことがありもしかしてと蓮人は青ざめる。


「体内にこの魔物の魔石を取り込んでいるな?道理でいつまでも害されないわけか・・・。ある意味命拾いしたな。水樹とやら、お前・・・体内にアスワタァークルの魔石を取り込んでいるからか、こいつらはお前を仲間に近い存在と認識しているようだ。融合したくてたまらんと思っておる。基本仲間がいればどんどん融合しでかくなる生き物だからな。お前の中に入りたいのだろう。しかしアスワタァークルの魔石なんぞよくぞ入手したものだ。退治方法が確立されていない魔物の魔石になった状態などほとんど入手できたとて奇跡のようなものだ・・・」


(くっそ、またかよ・・・・)


珍しいものを見たと感心した目つきでラベクはこちらを眺めて楽しんでいた。
それはそうであろう。人間でこれほどに大量に珍しい魔石を取り込んだ人間などそうはいない。まして仮にいたとてそれは拷問に近い苦痛を伴うもの。そんな状況になってまで生きている人間の状況など早々あるものか。ラムルアペプを筆頭にありとあらゆる珍しい魔物の魔石が今なお蓮人の心臓と融合し生きているのだ。人間にとっても魔物にとっても互いの気配を感じる混じり者。中途半端な立ち位置に存在する己。人間の気配がすると恐れ威嚇し襲ってくるものもいれば、なかなか出会えぬ珍しい同胞にとっては歓喜でしかないのか。同族にすら攻撃性の高いアペプを差し引いても、悲しきかな蓮人の人体実験で融合されたほとんどの魔石が、記録として残すために貴族が大枚をはたいて入手した希少な魔石ばかりだったのである。
まさか実験を先導したビイント・ジャウハリー公爵もこんな別の副作用があるとは思わなかったであろうに。この事実を知れば公爵と魔法師達は面白い実験結果に手を叩いて喜んだだろう。今となっては憎らしさしか残らない。改造されてしまった肉体はもう元の身体には戻れないのだから。
つまり、このアスワタァークルは同胞と融合したく蓮人の中へどんどん侵入を試み喉から、秘部や耳鼻などからも、穴などあるはずのない胸やへそからさえ入りたいのだ。その事実を知って新たなその領域に入り込もうとする動きが恐怖をさらに加速させる。拘束された手足を今一時大きくばたつかせ口に収まった熱の棒を齧り落としても意味が無いことは分かっていた。だが蓮人の男の部分の排尿する穴にゼリー状の液体が潜り込んでくれば男ならば誰もが同じ拒絶の反応するだろう。普段よりさらに穴が拡張され直接的な刺激を内側からもたらされ思わず奥歯を強く噛みしめた。喉をそらし、言葉にならない声が口の端から零れ落ちた。

巻き付いたそれらと内からの刺激、胎の内側からも擦りつけるようにそれぞれ動かれては屈辱に耐え切れず吐き出しても仕方がない。だが、出口が塞がれ排出叶わず勢いついた欲はまた内側に押し戻されその刺激すら地獄となって脳天に響く。
欲望を吐き出すことも出来ず与えられる熱に全身は震え痺れるばかり。何度も終わりなき果てを味わう。
視界がチカチカ白く飛びかけたときに幽かに届く別の水音に目線を傾けた。

ラベクが立ち上がり、蓮人の背後に立ち両脚を抱えるようにして持ち上げた。
彼は立ち上がれたのかという今までの疑問が頭に浮かんではすぐに別の恐怖に塗りつぶされる。
ラベクは半身が骨のままだ。なのに立ち上がったその姿にアスワタァークルも綺麗にくっついている。否、くっついているなどと言うレベルではなく。

”失った身体を補うように魔物が肉体を形成している”が正しい表現だろうか。

骨は透けて見えたままではあるが、緑色のそれらが今ある肉体のそれと違いない曲線をつくり、筋肉隆々の半身が見事に出来上がっていたのだ。勿論、男としての器官もまた・・・・・・。


「さて、ではそろそろ儂も直接楽しんでもいいだろうか?まさかそれだけだとは思っていなかろうな?」

「そん、な!ゴホ・・・・・頼 む・・・・」

「そいつらよりは優しく抱いてやろう。ああ、これか?もう長年元の身体を見ていないのでな。少々男の理想の大きさで作ってしまった!!ハハハ!大丈夫さ、ソコはもう十分に解れているであろう?」


腹の中にいた者共は、ラベクの指示に従うように下品な音を立て出ていった。その動きにまた過敏に反応した肉体が快楽に変わる。アスワタァークルの一本一本ですら咥え、喘ぎ、疲労困憊であるのに、今蓮人を抱え尻に押し当てられているモノが突き刺さったらどうなってしまうのだ。恐怖に言葉さえ出なくなる。そのあまりの大きさに震えた。


「どれ、裂けたくなければ力を抜け。苦しむのは嫌だろう?」

「ぁ・・・・・っ まっ・・・〰〰〰!! 〰〰〰〰〰〰っ!!!」


ずるんと音を立て一気に肉の壁を強く叩かれた。悲鳴にも似た息絶え絶えの喘ぎ声。
地の果て誰もいない髑髏の闇奥で、身体を暴かれ誰も助けは来ない。
救いなのはセペドはこの叫びの中も目覚めることなく、未だ意識を失い眠り続けていることだ。見られていたら羞恥できっと心は切り裂かれていた。
髑髏の頭に響く粘り気を帯びた水音と最早快楽に飲まれかかり、はしたなく喘ぐ一人の男の声が日が傾く頃まで途切れることなく響いた。



パチパチと焚火の燃える音。顔に当たる熱気。
冷えた地面と肌寒さを感じて急いでセペドは上半身を起こした。太陽は船旅に出かけ、冥界の世界が顔を出す。
焚火を挟んで向かいに座り、枯れ枝を燃やしている蓮人はこちらの起床に気付いたようで明らかにホッとした表情を作る。
ここはまだあの髑髏岩の外だ。そんなに離れていない距離で髑髏岩が数メートル先に見える。己が奇妙な人物を確認するために蓮人より先にあの沼地に踏み込んだ瞬間、脚を何かに絡み取られるようにして引きずり込まれた。それだけならば問題は無かった。だが沼に引きづり込まれたと同時に肉体に作用する全身麻痺と強力な視界遮断の魔法がかけられた。

だから指先一つ動かせず何も見えなかった。
けれどセペドは、後半本当に意識が途切れる間までの一連の流れを”全て聴こえていたのだ”

耐えがたく、何もできない自分への怒りと憎しみでおかしくなりそうだった。

今すぐにでもあの髑髏岩へ行って岩ごと破壊して中にいるあの男をバラバラにして川に放り込み、ワニにでも喰わせてやろうか。そんなことを考えた。
だが、その衝動も目の前の男があっけらかんとした表情で俺の心配をしてくるのだ。あまりにもその穏やかな表情に言葉を紡げない。

「セペド、体調はどうだ?沼の奥にいた魔法使いのせいで気を失っていたみたいなんだが・・・でも安心して、それ以上の危害は加えられなかったよ。必要な情報は教えてもらったからもう行く必要もない。しかもあそこの沼の成分があまり長期間滞在すると人体に良くないからこれ以上近寄らない方がいい・・・」


「っ・・・・・・!」


「今日はこの辺で夜を明かそう。ナキも傍にいるし、魔法使いにかけられたセペドの魔法はもう効力は切れたと思うけど俺が見張りをするから休みなよ。」


「いや・・・・・今までぐっすり寝て不甲斐なさを晒したんだ。見張りは変わろう。ここまで俺を運んだんだろう?すまなかった・・・お前こそ、もう 寝ろ」


「そう?ナキにほとんど手伝ってもらったけど、じゃあありがたく変わってもらおうかな・・・」


そういうと蓮人は後ろに座っているナキの腹を座椅子変わりにするように寄りかかりすぐに呼吸は規則的なものとなった。
頭をふっと上げたハックウェフダーは、その蓮人の髪の毛を少し口で食む仕草をした後こちらをすっと見つめてくる。
その瞳は澄んでいてセペドの心内を責め立てるのだ。
両手は握りしめすぎて指の爪が食い込んだ。




あくまで隠すと言うのか・・・・その事実を火にくべ憎く憎く焼いた。己が知らないからと思っても恐怖を吐露してくれればまだ慰めようもあった。憎しみの発散も出来た。蓮人がそれを無きものとしたいならばセペドにどうすることが出来ようか。

以前のように問いただし身体を暴くことだって出来た。だが、それでは緑の沼に住むラベクと同じではないか。

蓮人の性格は知っている。
多くを語らないことも。自分に対しては鈍感なほど危機感が鈍ってしまうことも。
セペドは頭を抱え唸った。夜空は高くすがすがしいほど星が美しく煌めているその姿さえ今は憎い。





どのくらい抱かれた後であったか。意識は熱に朦朧とし、腹には吐き出されたラベクの欲がたまり重く肉体は沼の縁の地面に降ろされた。栓の無くなった穴からは欲望が滴り落ち、喉奥に潜り込んでいた魔物の体液も少し嘔吐した。身体の感覚が思うように動かず鈍い。身体を大量の手に撫でられているような感覚と穴と言う穴に入り込んだ異物の感覚がまだ取れない。むしろまだ入り込んでいるのではと言う錯覚さえ感じ今一度震える手で己の下半身の穴に触れる。巨大なものを受け入れてしばらくはそこが腫れているであろうと心で嘆いた時であった。
さっさと元いた場所に座りなおし、浴室に身体を預けんばかりの格好でくつろぎの声を上げた男に握った拳が震えた。

ラベクは薬湯を自分の肩にかけ、一息ついている。最早人を超えたナニカという存在に開き直り達観した姿はいっそ清々しささえ感じる。自らを徐々に削る魔がしみ込んだ薬湯を身体にかける行為なぞ普通は恐ろしくて出来ない。ほぼ融合し、魔と同じ存在となったからこそ出来るのか。理解したくもない。


「それで?水樹の聞きたいこととはなんだ?儂は久々に機嫌がいい。答えられる問いなら何でも教えてやろう。」


「・・・・・・」


「なんだ?儂の行動が意外か?言ったであろう。情報を与える代わりに儂にも得るものが欲しいと。儂は最早この魔物と融合した存在故に人里では暮らせぬ。ずっとこうしてモグラのように隠れ生きることしか出来ぬのだ。だからこそ人と話すことさえ久方ぶり・・・。しかとてこのような肉体となっても欲は溜まるもの。その久々のはけ口は存外楽しいものであった。お前には厄災でしかなかっただろうが対価として貰ったのだ。きちんと情報は与えるさ。」


「・・・・・そう、ですか。」

てっきり状況が状況であったが為に、都合のいい欲望のはけ口にされただけかと思っていたが本当に金銭もいらずそれだけで情報提供に応じるとは意外であった。意外に律儀な男だ。この程度であれば安いものだと、何とか肉体に鞭を打って態勢を整え聞きたいことを聞いた。

現在呪術に苦しむ民がいること。
この国には存在しえぬ術であるために解呪できる者がいないこと。そのために解呪できるものを探し命を受け旅をしているのだと簡単に説明をした。
ラベクはその患者に記された術の模様を見せてみろと聞いてきたので、情報を聞き出すのに必要であろうと事前に紙に記してきた絵を荷物から取り出してラベクへ手渡した。
荷物を漁る際に、未だ眠ったままのセペドを案じたが呼吸は安定していて命に別状はなさそうだ。
セペドの濡れた髪を指に絡ませてた額を撫でていた時、背後でラベクはまたもや妙な笑みを浮かべ笑い出したのだ。

「これはこれはまた・・・・・懐かしいものを」


「!?知っているのですか?」


「これはな、かつての大戦の時仲間の一人が使用していた術に非常によく似ている。この国の魔法使い達が知らぬのも当然よ。奴はこの国でも隣国の民でも無いのだ。」


「・・・もっと遠くからの外国の人間であったと?」


「まぁ、そうなるな。奴はな元々奴隷であったのだ。東の果ての・・・ずっと遠くにある。儂も訪れたことのない遠い国から連れてこられた奴隷の生き残りともいうべきか。当初奴隷として連れてこられたという船での長旅で生き残った者は当初の半分にも満たない。その中でも奴は丈夫な身体とは別に魔法の才に秀でていたため後に貴族に拾われ教えを受け国を代表する魔法使いまで上り詰めたのだ。これはあくまで本人から聞いた話だがね。その男が得意としていた呪符の中によくこんな文字が描かれておったわ。まぁ、未だに奴が生きておるかもわからんし、そもそもそいつの術に似た別の誰かが使用したものかもしれん。そんなところか。術の解き方は儂にもわからぬ。術式がこの周辺国とは全く違うからな。やはり術を使える者に直接解いてもらうか、解き方を聞くのがいいだろう。」


「それだけ聞ければ充分です。情報提供感謝いたします。」


「お主は面白い男だな・・・・・儂にも礼を述べるか。」


「そうでしょうか。」


「ああ、誠面白い。また何かある際には立ち寄るがいい。その際にはまたその身体ごと愛でてやろう。」


「・・・そうならないことを祈るばかりです。」


蓮人は、セペドを半分担ぐようにして髑髏の鼻腔内から出ていった。
肩越しに見えたラベクの姿は白い湯気と緑色の湯に隠れもう見えない。またずっと一人で長い長い時を生き続けるのだろうか。
生きていればまた相見えることがあるかもしれない。いや、出来ることならあのような行為二度と御免だと違和感残る自分の胎をそっと撫でた。



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