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12 一方その頃妻はと言うと
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「ふー。ここに来たのも久々ね」
馬車を降り、小脇に荷物を抱えて私はそびえ立つ建物を見上げる。
イクリースが手配した馬車に乗り込み、私がやってきたのはラジエール王国の王宮だった。
家出するとして実家のラトゥーニ家に帰ることも考えたが父に会うと面倒なことになると思ったのだ。
母を早くに亡くし、娘の私を可愛がってくれた父ティオドールは少々……いや、かなり親馬鹿の気質がある。
家に帰って事情を説明したが最後オルドフを冗談ではなく殺しかねない。
私が望んでいるのはこの白い結婚を終わらせることであってオルドフ(の人生)を物理的に終わらせることではないのだ。
そんなわけで実家に帰るのは懸命な判断とは言えないため、どこに行こうかと考えた末に浮かんだのはここだった。
結婚してから訪れていないため、実に四年ぶりとなる訪問。ここならば私を迎え入れてくれるだろうと、私は王宮の外れに足を運んだ。
王宮の外れに立つこの建物は通称『塔』と呼ばれている。そしてこの塔こそ、王宮に仕える宮廷魔術士が集う場所なのだ。
かつて王宮に仕える精霊魔術士であった私はここに住み込みで働き、各地に赴いていたのだ。
結婚後はアンゼス邸に住むために寮を引き払ってしまったが、精霊魔術士としての位は返上していないので事情を話してしばらく匿ってもらおう。
「……あれ、もしかしてティアラ様ですか?」
実に四年ぶりとなる『塔』に足を踏み入れようとした私は、丁度塔の入口から出てきた人物に声をかけられた。
ローブを被っているため顔は確認できないが、声に聞き覚えがある。
「もしかしてトラヴィス?」
「はい、そうです。お久しぶりですね!」
「久しぶりね! 四年ぶりかしら?」
「そうです! それにしても珍しいですね。ここにいやらっしゃるなんて!!」
互いに手を合わせた再会を喜ぶ。実に四年ぶりの再会に私は嬉しくなった。
セネア・トラヴィス。四年前に私の弟子だった彼女は認定試験を得て一人前の宮廷魔術士になったと聞いていた。
「今日はどうなさったのですか?」
「少しの間、ここに戻ってくることにしたの。今日は魔術士団長様はいらっしゃるかしら?」
「いつも通り研究室にいらっしゃいますよ」
「ありがとう。挨拶に伺うことにするわね」
「はい、また今度!」
にこやかに手を振るセネアと別れたあと、塔に入った私は階段を使いひたすら最上階を目指す。
螺旋状に設計された階段は閑散としていて歩く度にカンカンと響く音がどこか懐かしい。
任務を終えては報告する度にこの階段を登った。
この塔は上に主要な設備が集中しており、下は完全に倉庫扱いになっているのだ。
「ここは四年経ってもちっとも変わらないわね……」
魔術士なのだから転移魔術を使えば楽ではないか、と言われるのだがこの塔の階段部分はご丁寧にも魔術が使えない空間になっている。
『いつもろくに運動しないやつばっかりなんだからせめて階段を昇って運動しろ』
という現魔術士団長のありがたい方針により、宮廷魔術士たちは皆、この階段を使うしかないのだ。
四年昇ってなかったとはいえ最上階まで上がっても不思議と息は上がらなかった。
これは長年の習慣の賜物といえるかもしれない。
「さて」
塔の最上階は魔術士団長専用の空間である。
歴代の様々な魔術士団長によって内装が変わったというこの最上階は今、主に研究室として使われていた。
普段は用のあるもの以外は立ち入れないとされているその空間だが、私は例外というやつで特別にいつでも訪れることを許可されている。
その証拠に固く閉ざされた重厚な扉の前まで歩みを進めた途端、キィ……と音を立てて自然と扉が開いた。
「やっぱり気づいていらっしゃったのね」
こちらを迎え入れる体勢はバッチリ整っていたらしい。相変わらずの様子に苦笑しながら扉を通り抜けると、明るい陽射しが差し込み、思わず目を細める。
「――会いたかったわ! ティアラ!!」
その言葉と共に明るくなった視界が再度暗くなる。
こちらを押しつぶさんばかりの勢いで抱きついてきた人物。相変わらずの大きさを誇る立派な胸が顔につっかえて息苦しくなりながら、私はなんとか顔を上げた。
「どうも……ご無沙汰しております。アンジェリーナ様」
声をかけるとこちらを抱きしめてきた人物はようやく抱擁を解き、私に向き直った。
「本当に久しぶりね。元気だった?」
そう言って彼女――魔術士団長アンジェリーナ・カディア様は嬉しそうにニコリと私に笑いかけた。
馬車を降り、小脇に荷物を抱えて私はそびえ立つ建物を見上げる。
イクリースが手配した馬車に乗り込み、私がやってきたのはラジエール王国の王宮だった。
家出するとして実家のラトゥーニ家に帰ることも考えたが父に会うと面倒なことになると思ったのだ。
母を早くに亡くし、娘の私を可愛がってくれた父ティオドールは少々……いや、かなり親馬鹿の気質がある。
家に帰って事情を説明したが最後オルドフを冗談ではなく殺しかねない。
私が望んでいるのはこの白い結婚を終わらせることであってオルドフ(の人生)を物理的に終わらせることではないのだ。
そんなわけで実家に帰るのは懸命な判断とは言えないため、どこに行こうかと考えた末に浮かんだのはここだった。
結婚してから訪れていないため、実に四年ぶりとなる訪問。ここならば私を迎え入れてくれるだろうと、私は王宮の外れに足を運んだ。
王宮の外れに立つこの建物は通称『塔』と呼ばれている。そしてこの塔こそ、王宮に仕える宮廷魔術士が集う場所なのだ。
かつて王宮に仕える精霊魔術士であった私はここに住み込みで働き、各地に赴いていたのだ。
結婚後はアンゼス邸に住むために寮を引き払ってしまったが、精霊魔術士としての位は返上していないので事情を話してしばらく匿ってもらおう。
「……あれ、もしかしてティアラ様ですか?」
実に四年ぶりとなる『塔』に足を踏み入れようとした私は、丁度塔の入口から出てきた人物に声をかけられた。
ローブを被っているため顔は確認できないが、声に聞き覚えがある。
「もしかしてトラヴィス?」
「はい、そうです。お久しぶりですね!」
「久しぶりね! 四年ぶりかしら?」
「そうです! それにしても珍しいですね。ここにいやらっしゃるなんて!!」
互いに手を合わせた再会を喜ぶ。実に四年ぶりの再会に私は嬉しくなった。
セネア・トラヴィス。四年前に私の弟子だった彼女は認定試験を得て一人前の宮廷魔術士になったと聞いていた。
「今日はどうなさったのですか?」
「少しの間、ここに戻ってくることにしたの。今日は魔術士団長様はいらっしゃるかしら?」
「いつも通り研究室にいらっしゃいますよ」
「ありがとう。挨拶に伺うことにするわね」
「はい、また今度!」
にこやかに手を振るセネアと別れたあと、塔に入った私は階段を使いひたすら最上階を目指す。
螺旋状に設計された階段は閑散としていて歩く度にカンカンと響く音がどこか懐かしい。
任務を終えては報告する度にこの階段を登った。
この塔は上に主要な設備が集中しており、下は完全に倉庫扱いになっているのだ。
「ここは四年経ってもちっとも変わらないわね……」
魔術士なのだから転移魔術を使えば楽ではないか、と言われるのだがこの塔の階段部分はご丁寧にも魔術が使えない空間になっている。
『いつもろくに運動しないやつばっかりなんだからせめて階段を昇って運動しろ』
という現魔術士団長のありがたい方針により、宮廷魔術士たちは皆、この階段を使うしかないのだ。
四年昇ってなかったとはいえ最上階まで上がっても不思議と息は上がらなかった。
これは長年の習慣の賜物といえるかもしれない。
「さて」
塔の最上階は魔術士団長専用の空間である。
歴代の様々な魔術士団長によって内装が変わったというこの最上階は今、主に研究室として使われていた。
普段は用のあるもの以外は立ち入れないとされているその空間だが、私は例外というやつで特別にいつでも訪れることを許可されている。
その証拠に固く閉ざされた重厚な扉の前まで歩みを進めた途端、キィ……と音を立てて自然と扉が開いた。
「やっぱり気づいていらっしゃったのね」
こちらを迎え入れる体勢はバッチリ整っていたらしい。相変わらずの様子に苦笑しながら扉を通り抜けると、明るい陽射しが差し込み、思わず目を細める。
「――会いたかったわ! ティアラ!!」
その言葉と共に明るくなった視界が再度暗くなる。
こちらを押しつぶさんばかりの勢いで抱きついてきた人物。相変わらずの大きさを誇る立派な胸が顔につっかえて息苦しくなりながら、私はなんとか顔を上げた。
「どうも……ご無沙汰しております。アンジェリーナ様」
声をかけるとこちらを抱きしめてきた人物はようやく抱擁を解き、私に向き直った。
「本当に久しぶりね。元気だった?」
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