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第一ラウンド
セラム王子の初恋 (二部連続更新その1)
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――時系列は少し前に遡る。
栄えあるレラージャ王国の第一王子であるセラム・インガル・レラージャの朝は早い。
どっかの鉄仮面令嬢がまだベッドに潜り込んで絶賛夢の中にいる明け方には王子は起きて既に朝の支度を始めていた。
齢18である王子は普通ならば学園に通う年齢ではあるが、十代前半にして貴族の子息令嬢が学ぶべき学問を全て修めてしまった優秀な頭脳を持つ彼は学園に通う必要性がないため、セラムは学園に通っていない。
そのため15歳より国王の仕事の一部を任され、見聞を広める名目であちこちの視察や、国王代理として催事に参加するなど、勢力的に公務を行っていた。
そんなわけで今日も分刻みで組まれたスケジュールをこなさなければならない多忙の王子は、前日徹夜したというのにその顔は輝きに満ち、実に活き活きとした表情で用意された服を身につけていた。
そう、セラムは実に浮かれていた。
人生で初めて『一目惚れ』をし、恋というものを知ったからである。
セラムの記念すべき初恋である。
一瞬しか交わらなかったあの令嬢の紫の双眸は今でも鮮明に思い出すことができる。
少し緩やかなウェーブを描いたストロベリーブロンドの髪も、細く華奢な肢体を包む清楚なドレスも、その全てを完璧な記憶力で脳に焼きつけたセラムは隣で服を差し出すレイスに話しかけた。
「レイス、困ったことに僕は学園に通っていないからあの令嬢の名前を知らないんだ。容貌は覚えているから探してくれないか?」
「はぁ、名前を聞かなかったんですか? 殿下にしては迂闊ですね」
「そうだな。僕としたことが、一目惚れのあまりの衝撃に固まっている間に立ち去られてしまった。すぐに追いかけようとしたんだが他の令嬢達が群がってきて僕を離してくれなくてな」
「なんですか自慢ですか19にもなって未だ王子のお守りばかりで恋人のこの字もない私に自慢ですか羨ましいなコンチクショウ」
ぶつくさと文句を言いやさぐれる従者に、セラムは眉をしかめる。
「レイス……いつになく荒れてるな。寝不足か? 不摂生は体に良くないぞ?」
「誰のせいだと思ってんですか!!」
勿論、目の前の王子の一晩中に及ぶ演説のせいである。
しかしセラムはその事実を笑顔と共にスルーした。
「まぁそれは置いておくとして」
「おくな!」
「まあまあ。というわけで令嬢の名前を知りたい。赤みが強いストロベリーブロンドに、紫の双眸を持つ令嬢だ。夜会に参加していたのなら恐らく年齢は15~18歳の間。身長はヒールを入れて160前後と言ったところか。ドレスの胸元に薔薇の刺繍が施されていたからマダム・ヘルメスのオーダーメイド品だろう。身につけていたアメジストのイヤリングからして宝石はアリム宝石商のものだろうな。恐らく伯爵より上の爵位の令嬢だ」
スラスラと述べるセラムに、レイスはぱちくりと瞬きする。
令嬢の顔を見たのは僅かな間のはずなのに、それだけでここまでの推察ができるのだ。
相変わらずの慧眼ぶりにレイスはやれやれと溜息を着いた。
「分かりました。そこまで対象が搾れていれば割り出すのも簡単でしょう。お任せ下さい」
「頼むぞ、レイス!」
レイスの返事に破顔するセラム。その実に嬉しそうな表情にレイスまで嬉しくなってしまう。
なんせ王子の遅すぎる初恋だ。できるものなら実って欲しい。
――微力ながらこのレイス・ジルベール、殿下のために協力させていただきましょう。
いつになくウキウキ気分で浮かれるセラムを横目に、レイスは苦笑気味に微笑んだ。
栄えあるレラージャ王国の第一王子であるセラム・インガル・レラージャの朝は早い。
どっかの鉄仮面令嬢がまだベッドに潜り込んで絶賛夢の中にいる明け方には王子は起きて既に朝の支度を始めていた。
齢18である王子は普通ならば学園に通う年齢ではあるが、十代前半にして貴族の子息令嬢が学ぶべき学問を全て修めてしまった優秀な頭脳を持つ彼は学園に通う必要性がないため、セラムは学園に通っていない。
そのため15歳より国王の仕事の一部を任され、見聞を広める名目であちこちの視察や、国王代理として催事に参加するなど、勢力的に公務を行っていた。
そんなわけで今日も分刻みで組まれたスケジュールをこなさなければならない多忙の王子は、前日徹夜したというのにその顔は輝きに満ち、実に活き活きとした表情で用意された服を身につけていた。
そう、セラムは実に浮かれていた。
人生で初めて『一目惚れ』をし、恋というものを知ったからである。
セラムの記念すべき初恋である。
一瞬しか交わらなかったあの令嬢の紫の双眸は今でも鮮明に思い出すことができる。
少し緩やかなウェーブを描いたストロベリーブロンドの髪も、細く華奢な肢体を包む清楚なドレスも、その全てを完璧な記憶力で脳に焼きつけたセラムは隣で服を差し出すレイスに話しかけた。
「レイス、困ったことに僕は学園に通っていないからあの令嬢の名前を知らないんだ。容貌は覚えているから探してくれないか?」
「はぁ、名前を聞かなかったんですか? 殿下にしては迂闊ですね」
「そうだな。僕としたことが、一目惚れのあまりの衝撃に固まっている間に立ち去られてしまった。すぐに追いかけようとしたんだが他の令嬢達が群がってきて僕を離してくれなくてな」
「なんですか自慢ですか19にもなって未だ王子のお守りばかりで恋人のこの字もない私に自慢ですか羨ましいなコンチクショウ」
ぶつくさと文句を言いやさぐれる従者に、セラムは眉をしかめる。
「レイス……いつになく荒れてるな。寝不足か? 不摂生は体に良くないぞ?」
「誰のせいだと思ってんですか!!」
勿論、目の前の王子の一晩中に及ぶ演説のせいである。
しかしセラムはその事実を笑顔と共にスルーした。
「まぁそれは置いておくとして」
「おくな!」
「まあまあ。というわけで令嬢の名前を知りたい。赤みが強いストロベリーブロンドに、紫の双眸を持つ令嬢だ。夜会に参加していたのなら恐らく年齢は15~18歳の間。身長はヒールを入れて160前後と言ったところか。ドレスの胸元に薔薇の刺繍が施されていたからマダム・ヘルメスのオーダーメイド品だろう。身につけていたアメジストのイヤリングからして宝石はアリム宝石商のものだろうな。恐らく伯爵より上の爵位の令嬢だ」
スラスラと述べるセラムに、レイスはぱちくりと瞬きする。
令嬢の顔を見たのは僅かな間のはずなのに、それだけでここまでの推察ができるのだ。
相変わらずの慧眼ぶりにレイスはやれやれと溜息を着いた。
「分かりました。そこまで対象が搾れていれば割り出すのも簡単でしょう。お任せ下さい」
「頼むぞ、レイス!」
レイスの返事に破顔するセラム。その実に嬉しそうな表情にレイスまで嬉しくなってしまう。
なんせ王子の遅すぎる初恋だ。できるものなら実って欲しい。
――微力ながらこのレイス・ジルベール、殿下のために協力させていただきましょう。
いつになくウキウキ気分で浮かれるセラムを横目に、レイスは苦笑気味に微笑んだ。
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