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しおりを挟むそしてエヴァ様の誕生日パーティ当日。
ルイズ伯爵家にはたくさんの招待客が訪れておりました。
サロンには貴族の方が集まり、優雅に談笑をされております。
私は、エヴァ様の支度をしておりました。
「エヴァ様、できましたわ」
「ありがとう、ニーナ」
桜色の髪を前髪とその横にかかる髪だけは垂らして、それ以外を編み込んで結い上げ白い薔薇で飾り止めをしました。
頭には可愛らしいティアラをしております。
プリンセスラインのドレスは胸元をが少し開いて18歳になる大人の妖艶さを垣間見せています。
コルセットで締められた細い腰には控えめな刺繍レースと真珠が縫い止められていて、二段になったスカートは優雅になびいています。とても美しいお姿です。私はほおっと感嘆の溜息をつきました。
エヴァ様も頬を上気させて微笑んでいます。
「そろそろ、主役の登場の時間ですわね」
「そうね、行きましょう」
エヴァ様と私は微笑み合うと会場の真ん中へ移動しました。
今日はアレク様も来られる予定ですが、少し遅くなると先程連絡が来ました。
どうやら仕事のようです。
少し残念でしたがエヴァ様はお父様のルイズ伯爵様にエスコートされて会場へ出られました。
エヴァ様がご登場なさると会場中がエヴァ様の美貌に魅入られたように静かになりました。
エヴァ様が挨拶の口上を述べると割れんばかりの拍車が生まれました。
私は気合を入れた甲斐があったと、満足します。
その時でした。
ふと会場の端から、アレク様が慌てたように入ってきました。
「エヴァ、遅れて済まない!」
「アレク様……来てくださって……」
嬉しそうにはにかんだエヴァ様の言葉が、そこで止まりました。
アレク様の横に女性がいらっしゃったのです。
輝く金髪に、透き通った青い瞳の女性。
(あとの時オディマと一緒にいた女性だわ……!)
どういうことでしょうか。婚約者の誕生日パーティに女の人を伴ってくるなどとは。
私が状況を飲み込めずにいると、エヴァ様の悲痛な叫びが上がりました。
「どういうことですの!私はずっとアレク様に会えなくて寂しかったのに、アレク様はそちらの方とずっと一緒にいらっしゃったのですね!私の誕生日に、見せつけるようにともなわれて!もううんざりですわ!私が嫌いなのなら、そうおっしゃればよろしいでしょう!アレク様なんて大っ嫌い!二度と顔を見せないで下さいませ!」
わああっと泣き出したエヴァ様に、会場中がシンとなりました。
見事な修羅場です。アレク様は呆然としたようにエヴァ様を見ます。
私がどうしようと慌てていると、アレク様の隣にいた女性が声を上げました。
「だからわたくしが行かない方がいいと言ったでしょう、ダグラス侯爵。あなたは女心がわからなすぎなのです!わたくしが説明しますから、あなたはそこで立っていなさい!」
「は、はい……」
女性はアレク様に告げるとエヴァ様に向き直りました。
「ごきげんようエヴァリア様。こんなめでたき日に押しかけてしまってごめんなさい。わたくしは隣の王国の王女、レティシアと申しますわ。この度はお誕生日おめでとうございます。私の護衛のためにダグラス侯爵をずっと借りたまんまで申し訳なかったですわ。しかもわたくしが城下町を見たいと我儘を言ったせいで、その護衛のために一緒に街を回っていた姿を浮気と勘違いさせてしまったこと、本当に申し訳なく思いますわ。ごめんなさいね」
女性--レティシア王女がエヴァ様に謝罪されました。
王女?ということは今訪問なさっておられる隣の国の方?
エヴァ様はびっくりして王女様を見つめております。
そこにすかさず、アレク様が告げました。
「俺が王女と一緒に城下町を回っているところを見られたとオディマが言うから変な心配をさせてしまった。すまなかった。一刻も早く誤解を解きたかったんだが仕事が終わらなくて。すまなかった、エヴァ。俺は君だけを愛している。これは確かなんだ」
そうしてアレク様は膝を折ると、エヴァ様の手を取ります。
胸ポケットから何かを取り出すと、それをエヴァ様の指にはめました。
「誕生日おめでとう、エヴァ。そして正式に俺と結婚してくれ」
エヴァ様の指にはめられたのは婚約指輪でした。
ダイヤモンドが大胆にカットされていて光を受けてキラキラ輝いています。
エヴァ様は目を見開き、ポロポロと涙を零されました。
そして、頬を染めながら頷かれたのです。
「はい……お受けします。アレク様」
その瞬間、会場からは割れんばかりの拍手が起きました。
私も泣きながら拍手をします。エヴァ様、よかったですわね。
と、横から伸びてきた手が私な涙を救いました。
横を見ると、いつの間にか私のそばに来ていたオディマが私に優しい笑みを向けています。
「やっと結ばれてくれたな」
安心したように微笑むオディマの笑顔に魅入られながら、私も同じように笑みを返しました。
「よかったわ」
騒動の後は場は祝いのムードになり、この日のために控えていた楽団が音楽を奏で始めます。
そうすると、次第に始まるのはダンス。
会場の真ん中では今回の主役であるエヴァ様がアレク様にエスコートされて幸せそうにダンスをしておりました。
エヴァ様の笑顔の美しいこと。
ちゃっかりパーティを楽しんでいるオディマを置いて私はそっと会場を抜け出しました。
伯爵家の庭園には月明かりが零れて、パーティの喧騒が少し聞こえてくるだけです。
私はその中を1人で歩いておりました。
「1人で出歩くのは危ないぞ?」
振り向くといつの間にか追いかけてきたらしいオディマが声をかけてきました。
「伯爵家内よ?」
私は苦笑します。侍女を襲うようなもの好きがいるのでしょうか。
「それでも今夜は人が集まってるからな。よからぬ事を企む輩がいるかもしれない」
「私なんかが襲われることはないと思うけれど……」
私がつぶやくと、オディマはとんでもない、と首を振りました。
「ヴィルニーナを狙う輩は結構いるんだぞ。あんまり気づいてないみたいだが、お前結構人気あるんだぞ?」
「へ?」
「『エヴァリア嬢の侍女はサラサラの銀髪に深いアメジストの瞳の大層儚げな美女だ』って評判なんだぞお前。知らなかっただろ」
知りませんでした。確かに私はストレートの銀髪に紫色の瞳ですが。儚げな美女……とはどういうことでしょうか。
「まぁ、ヴィルニーナに近づこうとするやつは俺が大抵絞めてきたから知らないのも当然だな」
「え?どうして……」
「そりゃぁ俺がヴィルニーナを好きだからな」
どくん、と心臓が大きな音を立てました。
オディマが?私を?
頬が赤くなって、ドキドキと心臓が早鐘を打ちます。
「やっぱり気づいてなかったか」
オディマがガックリしたように首を落とします。
全然、気づきませんでした。なんてことでしょう。
そしてなぜ私はこんなにドキドキしているのでしょう。
「エヴァ嬢が」
「え?」
「エヴァ嬢とうちの主が結ばれたら自分の幸せを考えるって言ってたな」
オディマの突然の言葉に驚きますが、確かにそんなことをあった気がするので肯定します。
「え、ええ……」
「んじゃ、今から俺との幸せについて考えてくれ」
オディマがニヤッと笑って私を見下ろします。
その不敵な笑顔に、私の心臓がまたどくん、と大きな音を立てました。笑顔に魅入られます。
私が困惑していると、夜風に運ばれたのか会場から微かに音楽が聞こえてきます。
オディマは突如かしこまったように礼をとり、私に右手を差し出してきました。
「お手をどうぞ、お嬢様?ダンスは得意で?」
エヴァ様に付き合って練習したことがあるので、少しならダンスは踊れます。
私はドキドキしつつ、オディマに差し出された手を受け取りました。顔は自然と笑顔になります。
「喜んで」
月明かりが庭園を静かに照らす中、音楽が聞こえなくなるまで私はオディマと踊り続けました。
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