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「まぁ、そういうことだったの! 水臭いじゃないアネット! あなたがそこまでオーファル様のことをお慕いしていたなんて……気づいてあげられなくて御免なさい。これはお祝いしないといけないわね。あぁでもその前に私とオーファル様の婚約を解消しなくてはいけないわ! あなた達の婚約祝いも! やることがいっぱいだわ!」
「へ?」
「は?」
ポンと手を合わせて笑顔ではしゃぐ私にオーファル様とアネットがぽかんと口を開けて私を見ている。
私の反応が理解できないといった様。何かおかしいことを言ったかしら?
「お姉様……怒ってませんの?」
恐る恐る、と言ったようにアネットが上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
私はその問いにまたしても笑顔で応えた。
「怒るだなんてとんでもない! 思い合っている者同士が結ばれるのは自然でしょう? それともあなたはオーファル様のことが嫌いなの?」
「い、いえそういわけではないですわ! 私はオーファル様をお慕いしております!」
「なら歓迎すべきことだわ。私とオーファル様の婚約はいわば政略結婚を踏まえた上でのことだもの。相手があなたなら子爵家の面子も保たれるわ。私が気にしていないのだからあなたが気にすることはないわよ、アネット」
「そ、そうですか……」
私の笑顔に半ば気圧されたようにアネットはすごすごと引き下がる。顔が軽く引きつっているのは気の所為だろうか。
私は本心を口にしただけなのだけれど。そんなに私の返答が予想外だったかしら。
確かに今回のアネットの行動は予想外で動揺したが、それだけだ。
別に私はオーファル様を好いていた訳では無い。「好ましい」と感じていただけでそこに恋愛感情は存在しなかった。むしろ今回の件で好感度はマイナスに振り切っているくらい。
もともと、この婚約も互いの利益のために組まれたものである。
グランツ子爵家は、位こそ子爵であるが上位貴族に勝るとも劣らないくらいの資産を持つそれなりの名家だ。グランツ子爵領は資源にも自然にも恵まれ、特に養蚕業が盛ん。
その蚕から作られるシルクは手触りもよく着心地も滑らかで現王妃も愛用していると有名なほど。
『グランツシルク』と呼ばれるそれは貴族たちの中では持っているだけで一種のステータスと言われるほどに高級品なのである。
そのシルクをはじめとして一般向けのシルクも量産しておりそのシェアは国内の八割を占める。
生産技術は秘匿され、門外不出。ほぼ独占していると言っても過言ではない。
そんなグランツ子爵家の跡継ぎは長女である私、エメルダ・グランツのみ。
嫡男がいなかったグランツ子爵家は古くから付き合いのあったアーヴェント伯爵家との縁談を持ちかけた。
アーヴェント伯爵家は当時事業に失敗し、緩やかに傾きかけていた。そこで父が支援を申し出て、代わりに三男のオーファル様が婿入りすることを条件にこの婚約は成立した。
互いの家の利益のために組まれた婚約。そこに愛など存在しなかった。
いや、少しはそうなれたらいいなぁと思ったこともあった。オーファル様は優しかったし、恋愛感情は生まれなかったけれど、恋愛小説で描かれる恋人たちを見ては私もいつかそういう関係になれたらいいなぁと甘い幻想を抱いていたこともあった。
だが、それは所詮は幻。夢は夢だ。
アネットのおかげで目覚めることが出来た。むしろ感謝したいくらい。だから心の中でお礼を言う。
ありがとうアネット。目を覚まさせてくれて。
そう、夢はいつか覚めるもの。だから今度はあなたの番。
あなたの「私の全てを奪った!」という幻想を打ち砕いてあげる。
知らず浮かべていた笑顔が深まる。
母親に生き写しだと言われるほどに似ている私の笑みが、いつか浮かべていた母の笑顔のように見えるといいのだけれど。
母は早くに亡くなったが、私に生き残るための術をきちんと教えてくれていた。
母は妖艶な笑みを浮かべながら私に教えてくれたものだ。
『エマ、もしかしたらあなたが今後を生きる上で全てが順調とはいかないかもしれないわ。人生は何が起きるか分からない。だからそういう時こそ笑いなさい? そして、ただ理不尽に耐えるだけではダメよ。それでは何も変わらないわ。そんな時はね、理不尽を跳ね返すの』
首を傾げながらも相槌を打つ私に、母はこう言った。
『やられたらやり返す。倍返しよ!』
──そうね母様。母様は良い言葉を残してくれたわ。
母様。私、母様のおかげでとても良いことを思いつきました。
最高にこれから楽しくなりそうです。
「へ?」
「は?」
ポンと手を合わせて笑顔ではしゃぐ私にオーファル様とアネットがぽかんと口を開けて私を見ている。
私の反応が理解できないといった様。何かおかしいことを言ったかしら?
「お姉様……怒ってませんの?」
恐る恐る、と言ったようにアネットが上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
私はその問いにまたしても笑顔で応えた。
「怒るだなんてとんでもない! 思い合っている者同士が結ばれるのは自然でしょう? それともあなたはオーファル様のことが嫌いなの?」
「い、いえそういわけではないですわ! 私はオーファル様をお慕いしております!」
「なら歓迎すべきことだわ。私とオーファル様の婚約はいわば政略結婚を踏まえた上でのことだもの。相手があなたなら子爵家の面子も保たれるわ。私が気にしていないのだからあなたが気にすることはないわよ、アネット」
「そ、そうですか……」
私の笑顔に半ば気圧されたようにアネットはすごすごと引き下がる。顔が軽く引きつっているのは気の所為だろうか。
私は本心を口にしただけなのだけれど。そんなに私の返答が予想外だったかしら。
確かに今回のアネットの行動は予想外で動揺したが、それだけだ。
別に私はオーファル様を好いていた訳では無い。「好ましい」と感じていただけでそこに恋愛感情は存在しなかった。むしろ今回の件で好感度はマイナスに振り切っているくらい。
もともと、この婚約も互いの利益のために組まれたものである。
グランツ子爵家は、位こそ子爵であるが上位貴族に勝るとも劣らないくらいの資産を持つそれなりの名家だ。グランツ子爵領は資源にも自然にも恵まれ、特に養蚕業が盛ん。
その蚕から作られるシルクは手触りもよく着心地も滑らかで現王妃も愛用していると有名なほど。
『グランツシルク』と呼ばれるそれは貴族たちの中では持っているだけで一種のステータスと言われるほどに高級品なのである。
そのシルクをはじめとして一般向けのシルクも量産しておりそのシェアは国内の八割を占める。
生産技術は秘匿され、門外不出。ほぼ独占していると言っても過言ではない。
そんなグランツ子爵家の跡継ぎは長女である私、エメルダ・グランツのみ。
嫡男がいなかったグランツ子爵家は古くから付き合いのあったアーヴェント伯爵家との縁談を持ちかけた。
アーヴェント伯爵家は当時事業に失敗し、緩やかに傾きかけていた。そこで父が支援を申し出て、代わりに三男のオーファル様が婿入りすることを条件にこの婚約は成立した。
互いの家の利益のために組まれた婚約。そこに愛など存在しなかった。
いや、少しはそうなれたらいいなぁと思ったこともあった。オーファル様は優しかったし、恋愛感情は生まれなかったけれど、恋愛小説で描かれる恋人たちを見ては私もいつかそういう関係になれたらいいなぁと甘い幻想を抱いていたこともあった。
だが、それは所詮は幻。夢は夢だ。
アネットのおかげで目覚めることが出来た。むしろ感謝したいくらい。だから心の中でお礼を言う。
ありがとうアネット。目を覚まさせてくれて。
そう、夢はいつか覚めるもの。だから今度はあなたの番。
あなたの「私の全てを奪った!」という幻想を打ち砕いてあげる。
知らず浮かべていた笑顔が深まる。
母親に生き写しだと言われるほどに似ている私の笑みが、いつか浮かべていた母の笑顔のように見えるといいのだけれど。
母は早くに亡くなったが、私に生き残るための術をきちんと教えてくれていた。
母は妖艶な笑みを浮かべながら私に教えてくれたものだ。
『エマ、もしかしたらあなたが今後を生きる上で全てが順調とはいかないかもしれないわ。人生は何が起きるか分からない。だからそういう時こそ笑いなさい? そして、ただ理不尽に耐えるだけではダメよ。それでは何も変わらないわ。そんな時はね、理不尽を跳ね返すの』
首を傾げながらも相槌を打つ私に、母はこう言った。
『やられたらやり返す。倍返しよ!』
──そうね母様。母様は良い言葉を残してくれたわ。
母様。私、母様のおかげでとても良いことを思いつきました。
最高にこれから楽しくなりそうです。
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