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1 離縁してください

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 リューン・アレグナーは今宵、一大決心をしていた。
 それは三年前に契約によって結ばれたこの婚姻を白紙に戻すこと。
 つまり、夫に離縁を申し込むことだ。

 最近、旦那様の帰りがどことなく遅い。そして私が調べた範囲では花束や豪奢な装飾品、たくさんのドレスなどを使用人に用意させていたのだ。
 これはあれだ、間違いなく外で女を作っているに違いない。私の女としての勘が、そう告げている。

 元々傾いた私の生家を支援する形で成り立った婚約だ。契約によってよって成り立ったこの婚姻に愛など存在せず、この三年間、旦那様はいつだって私の寝室を訪れたことは無かった。

 実質上の白い結婚だ。三年前に結婚式を挙げて以降、夫婦に会話らしい会話など存在せず、私はいつも屋敷にひとりで取り残されていた。
 お世話をしてくれる使用人たちは優しかったが、私はなんの仕事をすることも許可されなかった。

 お飾りの妻。この家に置いて私に求められていたのはそんな役目で、こんな私に一体なんの価値があるというのだろうか。

 妻としての役目すら果たせない。そもそもおかしかったのだ。所詮傾きかけた名だけの伯爵でしかない私の家に天下のアレグナー侯爵家が、婚約を申し入れるなんて。

 私の夫は魔術研究の第一人者で、この王国きっての偉大なる魔術師である。家柄、実力、そして容姿に置いても申し分なく、社交界では常に人気の存在であった。

「本当に、私には過ぎた存在だわ」

 そんな旦那様が惚れた相手がいるというのなら、お飾りの妻である私より、その人が妻になった方がいい。

 それに私は妻としての役目を果たせない決定的ながある。幸い、支援の甲斐あって私の実家は持ち直したらしくこれ以上この無意味な契約を続ける意味もない。

「私は今日、この関係を終わらせる」


 そう決意したはずだった。

 ***

「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」

 屋敷に帰ってきた旦那様に開口一番、そう告げると。
 彼はそのまま目を見開いて、硬直し、動かなくなり。

「えっ、ちょっと、旦那様!?」

 その場をくるりと回れ右して屋敷から出ていってしまったのだ。
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