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10 妻は去りて夫は僻む
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「――ああ、私はまた何かを間違えてしまったのだろうか。ちゃんと戻ってくると約束はしてくれたが、本当にあのまま行かせて良かったのだろうか……? やはり私も着いて行けばよかった! いやでもリューンからは心配しなくていいと言われてしまったし」
右に左に文字通り右往左往。
先程から自分の部屋で行くあてもなく放浪する。手持ち無沙汰なのかと言えば、まぁそうなのだろう。
それにしても、これをあの方が見たらどう思われるだろうか。
「ああ、心配だ。やっぱりついていけば良かった! 馬車ならまだそこまで遠くへ進んでいない。リューンの安全を考慮していつもより馬の歩を遅めるよう伝えているからな。ならばまだ転移で追いつくはずだ。よし、待っていてくれリューン。今、会いにいきます!!」
そう言って紙に書かれた転移の魔法陣を起動しようとした主人を傍で見守っていた家令――ライナスはかろうじて食い止めた。
「そこまでになさいませヴィクター様。下手なことをすれば、今度こそ本当にリューン様に嫌われかねませんよ」
「邪魔をするなライナス。私は愛する妻に逢いに行くんだ!」
「だから心配しないで欲しい、すぐに帰ってくると仰ったリューン様の言葉を信用しなさいと申し上げているのです。それともまさかリューン様のお言葉を疑っておられるのですか?」
そう言うと、途端にヴィクターは動きを止めてこちらを睨みつけてくる。
「馬鹿を言うな。私が愛するリューンの言葉を疑うわけがないだろう。帰ってくると言ったのだから帰ってくるさ、必ずな」
「であれば、信じて待つのが夫と言うものですよ」
「むう……」
不服そうながらも、ようやく大人しくなったアレグナー家当主にライナスは溜息を着きたくなった。
「実家に帰りたい」
妻であるリューン様がそう仰った瞬間のヴィクターの顔はそれはもうショックを受けていた。
離縁したいと申し出された時の慌てようもそれはもう見事なものだったが、今回も取り乱しに取り乱した。
「ど、どうしたんだい。き、急に実家に帰るだなんて。私に、な、何かまた不満でもできたのかい? それならば必ず誓って治す、全力で治すから実家に帰るなんて言わないでくれ!」
いい歳をした大人が妻の言葉に絶望し、泣きそうな顔をしながら妻に許しを乞う。
そんな仕えるべき主人の情けない姿を見てしまったライナスはなんとも言えない表情を浮かべた。
いや、ここは見させられてしまったというのが正しいのかもしれない。
「それにしても、リューン様もだいぶ天然であらせられるようで……」
今思い出しても笑いそうになる。
普段は『氷の魔術師』と呼ばれるほど表情に変化のない主が、妻である少女に振り回されている様子は、長年仕えるライナスも見たことがないものだった。
「突然実家に帰るなんて言うから、心臓が止まるかと思った。離縁したいなどと口にした後だったから余計に肝が冷えた」
「その理由が『夫婦生活について自分の両親を見て勉強したい』というものだったからこそ、許可したのでしょう? 離縁話を持ち出されるより、よほど前向きじゃないですか。ヴィクター様とのやり直し結婚生活に真摯になってくださっている証拠ですよ」
「それはそうだが……」
ヴィクターはそれでも不安そうだ。
惚れた腫れただのとは一生無縁だと思っていた堅物主人が、まさかの一目惚れで妻を娶るとは。しかもここまで入れ込むほどである。
「リューンが戻ってきてくれるまであと三日……。私は何をすればいいんだろうか。夫とは何をすべきなんだ? なぁ、何かいい本しらないか? ライナス」
人生どうなるかわかったものでは無いな。ライナスは感慨深くなると、迷える子羊と化した主人のために、良き夫となるに相応しそうな本を見繕うために屋敷の書庫へと足を向けた。
右に左に文字通り右往左往。
先程から自分の部屋で行くあてもなく放浪する。手持ち無沙汰なのかと言えば、まぁそうなのだろう。
それにしても、これをあの方が見たらどう思われるだろうか。
「ああ、心配だ。やっぱりついていけば良かった! 馬車ならまだそこまで遠くへ進んでいない。リューンの安全を考慮していつもより馬の歩を遅めるよう伝えているからな。ならばまだ転移で追いつくはずだ。よし、待っていてくれリューン。今、会いにいきます!!」
そう言って紙に書かれた転移の魔法陣を起動しようとした主人を傍で見守っていた家令――ライナスはかろうじて食い止めた。
「そこまでになさいませヴィクター様。下手なことをすれば、今度こそ本当にリューン様に嫌われかねませんよ」
「邪魔をするなライナス。私は愛する妻に逢いに行くんだ!」
「だから心配しないで欲しい、すぐに帰ってくると仰ったリューン様の言葉を信用しなさいと申し上げているのです。それともまさかリューン様のお言葉を疑っておられるのですか?」
そう言うと、途端にヴィクターは動きを止めてこちらを睨みつけてくる。
「馬鹿を言うな。私が愛するリューンの言葉を疑うわけがないだろう。帰ってくると言ったのだから帰ってくるさ、必ずな」
「であれば、信じて待つのが夫と言うものですよ」
「むう……」
不服そうながらも、ようやく大人しくなったアレグナー家当主にライナスは溜息を着きたくなった。
「実家に帰りたい」
妻であるリューン様がそう仰った瞬間のヴィクターの顔はそれはもうショックを受けていた。
離縁したいと申し出された時の慌てようもそれはもう見事なものだったが、今回も取り乱しに取り乱した。
「ど、どうしたんだい。き、急に実家に帰るだなんて。私に、な、何かまた不満でもできたのかい? それならば必ず誓って治す、全力で治すから実家に帰るなんて言わないでくれ!」
いい歳をした大人が妻の言葉に絶望し、泣きそうな顔をしながら妻に許しを乞う。
そんな仕えるべき主人の情けない姿を見てしまったライナスはなんとも言えない表情を浮かべた。
いや、ここは見させられてしまったというのが正しいのかもしれない。
「それにしても、リューン様もだいぶ天然であらせられるようで……」
今思い出しても笑いそうになる。
普段は『氷の魔術師』と呼ばれるほど表情に変化のない主が、妻である少女に振り回されている様子は、長年仕えるライナスも見たことがないものだった。
「突然実家に帰るなんて言うから、心臓が止まるかと思った。離縁したいなどと口にした後だったから余計に肝が冷えた」
「その理由が『夫婦生活について自分の両親を見て勉強したい』というものだったからこそ、許可したのでしょう? 離縁話を持ち出されるより、よほど前向きじゃないですか。ヴィクター様とのやり直し結婚生活に真摯になってくださっている証拠ですよ」
「それはそうだが……」
ヴィクターはそれでも不安そうだ。
惚れた腫れただのとは一生無縁だと思っていた堅物主人が、まさかの一目惚れで妻を娶るとは。しかもここまで入れ込むほどである。
「リューンが戻ってきてくれるまであと三日……。私は何をすればいいんだろうか。夫とは何をすべきなんだ? なぁ、何かいい本しらないか? ライナス」
人生どうなるかわかったものでは無いな。ライナスは感慨深くなると、迷える子羊と化した主人のために、良き夫となるに相応しそうな本を見繕うために屋敷の書庫へと足を向けた。
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