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1章 追放までのあれこれ。
5,どういうことなの?
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私の言葉にセジュナはぱちくりと瞬きをした。
「え? 何?」
あれ、聞こえなかったのかな。ニヤついて笑ってドヤ顔までしたのに理解されないとか悲しいな。よし、ならもう一度。
「アリーシャ・ウルズ・オーウェンを殺すの」
もう一度ハッキリと告げると、セジュナはスカイブルーの瞳に驚愕の表情を滲ませて見開く。
そのまま私に近づくとがっしりと両肩を掴まれる。
え、何。
「何! どういうことなの? アリーシャを殺す? 魔王にならないためになんでアリーシャが死ななきゃいけないの? 何それ? 殺すって何よ、お母さんそんなこと許しませんよ!!」
セジュナは私の肩を掴んだまま前後に揺らして問いただしてくる。
しまった、混乱させてしまった。
私はセジュナに激しく揺らされ前後に首をカクカクさせながら慌てて答えた。
「ちょっと落ち着いてセジュナ! 私自体が死ぬわけじゃないから! ごめんね、言葉の選び方が悪かった、混乱させたね。それと私はあなたの子どもじゃないし第一セジュナまだ結婚してないでしょ!」
何とか落ち着かせようとセジュナの手を握る。しっかりその目を見つめて私が死ぬわけじゃないから!と連呼するとようやく彼女は落ち着きを取り戻し、ソファに戻った。
「どういうこと? アリーシャを殺すけどアリーシャは死なない? 訳わかんない」
「うん、今からそれを説明するから落ち着いて聞いてね?」
「分かった」
眉をひそめながらもこちらを見つめてくるセジュナ。
やっと落ち着いた。私はホッと一息つくと、改めて話を切り出す。
「アリーシャを殺すって言うのは『アリーシャ・ウルズ・オーウェン』という存在を抹消するってこと。アリーシャ自体をこの国にいない、生まれていないってことにするのよ」
私の説明にセジュナがうんうんと頷く。
「あーなんだそういうことか。うん、全然わかんない! どうやってするのよそれ!」
じゃあ何故頷いたんだ。まあいい、話を続けよう。
「この国って日本と同じようにいわゆる戸籍があるでしょ? しかも神籍っていう特別なものが。そのアリーシャの神籍自体を削除するのよ。戸籍が抹消されれば私は最初からこの国にいなかったことになる。つまり『殺す』ということ」
「あーそんなのあったねえ。確かに戸籍を抹消すればアリーシャの存在自体が無くなるけど、そんなことできるの?」
確かにそんな気軽に削除できるものでは無い。しかし、それすらできる権力を持ったものが近くにいるではないか。
「王子ならそれだけの権力はあるじゃない。あれでも継承権第一位だよ。しかもゲームではこの私を追放するんだからそれぐらいできるはずだよ。それに大事な婚約者が頼めば確実にそうしようとするはず」
セジュナが納得したようにポンと手を打った。
「なるほど。王子にそうやってお願いすればいいのね、私が。あわよくば王子を協力者にできるかもしれないね。でも聞き入れてくれるかな?」
少し不安そうな顔をするセジュナに私は自信満々の笑みを向ける。
「この国では神籍剥奪は死刑より重い罪なんだよ? それにもう一手ゴリ押しするから。王子が愛するセジュナを私が害するフリでもしてご覧なさい。あの王子のことだから一発でブチ切れて神籍剥奪まで持っていくわよ。一度でもそれを王子から言わせればいいの。アイツは有言実行の男だから一度言ったことはなんとしてでも絶対実行にうつすんだから」
自信を持って告げる。
私は長年ずっと王子の婚約者としてそばにいた。
だから王子の性格もよく把握している。
潔癖といえるほど完璧主義なあの王子のことだ。それこそ私の父のように烈火のごとく怒ってあっという間に私を追い出してしまうだろう。
それに神籍剥奪はそれこそ誇り高い「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」にとっては何よりの屈辱になる。私を憎んでいるであろう王子はなんの躊躇いもなくそうするに決まっているのだ。
そもそも神籍とは。
この世界は万能の神エミュローズにより作られ、エミュローズを唯一の神として信仰している。
しかし、このアルメニア王国においてはそれとは別に違う神を祀っていた。
聖乙女伝説。魔王が生まれた時、一番最初の聖乙女となったのがこの国の王女であった。
そのためアルメニア王国はこの初代の聖乙女メサイアを主神として信仰している。
この国の国民は子どもが生まれた際、健やかな育ちを祈って主神メサイアに名前を献上する慣習がある。
その献上された名前こそが『神籍』である。
アルメニア王国民であることの証であり、何よりの誇りなのだ。
その神に献上した名前を抹消されるということは、神に背く者、『背教者』となりアルメニア国民にとっては何よりの屈辱と恥となる死刑より重い罪なのだ。
背教者は国内に入ることは許されず、その存在すら無かった者として扱われる。
私が「アリーシャ」のままであったならこの罪には耐えきれなかっただろうが、今の私は前世の記憶を取り戻したアリーシャだ。
そのせいか、私はこの誇りというものをイマイチ理解できなくなっていた。
それゆえ神籍剥奪となってもなんとも思わないし、むしろ好都合である。
ウチは仏教徒だったけど宗教なんてよく分からなかったからそのせいかもしれない。
戸籍が無くなればそもそも「アリーシャ」は存在しなくなるし、そのまま追放されればむしろ有難い。
それにこれはアルメニア王国だけの風習なので他国では全く問題がない。
綺麗に問題は解決するのである。
だが。
「まあ、それだけじゃ心許ないよね。アリーシャは消えるけど、私じゃなくても依代を手に入れて魔王は復活するかもしれない。それこそゲーム補正で」
「うんまぁありえるね」
だから、と私は言葉を続けてニッコリ微笑む。
それでも魔王の復活が心配なら極論から言おう。
大元の元凶を断てばいい。
「私は追放されたらまず魔王を倒しに行こうと思います」
「……」
場が沈黙する。
うん? なにかおかしなことをいっただろうか?
私は追放されて悠々自適な旅をしたいのだ。それに問題が付きまとうなら即刻排除すべきであろう?
私の自由な旅を邪魔するなら魔王だろうとラスボスだろうと容赦はしない。潰す。
私の今後のために!
しばらく間を置いて、セジュナが口を開いた。
「いや色々突っ込みたいんだけどさ。それ全部置くとして、そもそも魔王って倒せるの? っていうか魔王っていうけど何なんだろう」
セジュナの指摘に私は首を傾げた。
えーと、ゲームではなんて言ってたっけ。
「確か、ミューズフラウの集合体の成れの果てじゃなかった?」
「ミューズフラウってなんだっけ……」
えええええ、そっから!?
セジュナの言葉に唖然とした。
この世界では常識レベルの知識だよ……。
「え? 何?」
あれ、聞こえなかったのかな。ニヤついて笑ってドヤ顔までしたのに理解されないとか悲しいな。よし、ならもう一度。
「アリーシャ・ウルズ・オーウェンを殺すの」
もう一度ハッキリと告げると、セジュナはスカイブルーの瞳に驚愕の表情を滲ませて見開く。
そのまま私に近づくとがっしりと両肩を掴まれる。
え、何。
「何! どういうことなの? アリーシャを殺す? 魔王にならないためになんでアリーシャが死ななきゃいけないの? 何それ? 殺すって何よ、お母さんそんなこと許しませんよ!!」
セジュナは私の肩を掴んだまま前後に揺らして問いただしてくる。
しまった、混乱させてしまった。
私はセジュナに激しく揺らされ前後に首をカクカクさせながら慌てて答えた。
「ちょっと落ち着いてセジュナ! 私自体が死ぬわけじゃないから! ごめんね、言葉の選び方が悪かった、混乱させたね。それと私はあなたの子どもじゃないし第一セジュナまだ結婚してないでしょ!」
何とか落ち着かせようとセジュナの手を握る。しっかりその目を見つめて私が死ぬわけじゃないから!と連呼するとようやく彼女は落ち着きを取り戻し、ソファに戻った。
「どういうこと? アリーシャを殺すけどアリーシャは死なない? 訳わかんない」
「うん、今からそれを説明するから落ち着いて聞いてね?」
「分かった」
眉をひそめながらもこちらを見つめてくるセジュナ。
やっと落ち着いた。私はホッと一息つくと、改めて話を切り出す。
「アリーシャを殺すって言うのは『アリーシャ・ウルズ・オーウェン』という存在を抹消するってこと。アリーシャ自体をこの国にいない、生まれていないってことにするのよ」
私の説明にセジュナがうんうんと頷く。
「あーなんだそういうことか。うん、全然わかんない! どうやってするのよそれ!」
じゃあ何故頷いたんだ。まあいい、話を続けよう。
「この国って日本と同じようにいわゆる戸籍があるでしょ? しかも神籍っていう特別なものが。そのアリーシャの神籍自体を削除するのよ。戸籍が抹消されれば私は最初からこの国にいなかったことになる。つまり『殺す』ということ」
「あーそんなのあったねえ。確かに戸籍を抹消すればアリーシャの存在自体が無くなるけど、そんなことできるの?」
確かにそんな気軽に削除できるものでは無い。しかし、それすらできる権力を持ったものが近くにいるではないか。
「王子ならそれだけの権力はあるじゃない。あれでも継承権第一位だよ。しかもゲームではこの私を追放するんだからそれぐらいできるはずだよ。それに大事な婚約者が頼めば確実にそうしようとするはず」
セジュナが納得したようにポンと手を打った。
「なるほど。王子にそうやってお願いすればいいのね、私が。あわよくば王子を協力者にできるかもしれないね。でも聞き入れてくれるかな?」
少し不安そうな顔をするセジュナに私は自信満々の笑みを向ける。
「この国では神籍剥奪は死刑より重い罪なんだよ? それにもう一手ゴリ押しするから。王子が愛するセジュナを私が害するフリでもしてご覧なさい。あの王子のことだから一発でブチ切れて神籍剥奪まで持っていくわよ。一度でもそれを王子から言わせればいいの。アイツは有言実行の男だから一度言ったことはなんとしてでも絶対実行にうつすんだから」
自信を持って告げる。
私は長年ずっと王子の婚約者としてそばにいた。
だから王子の性格もよく把握している。
潔癖といえるほど完璧主義なあの王子のことだ。それこそ私の父のように烈火のごとく怒ってあっという間に私を追い出してしまうだろう。
それに神籍剥奪はそれこそ誇り高い「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」にとっては何よりの屈辱になる。私を憎んでいるであろう王子はなんの躊躇いもなくそうするに決まっているのだ。
そもそも神籍とは。
この世界は万能の神エミュローズにより作られ、エミュローズを唯一の神として信仰している。
しかし、このアルメニア王国においてはそれとは別に違う神を祀っていた。
聖乙女伝説。魔王が生まれた時、一番最初の聖乙女となったのがこの国の王女であった。
そのためアルメニア王国はこの初代の聖乙女メサイアを主神として信仰している。
この国の国民は子どもが生まれた際、健やかな育ちを祈って主神メサイアに名前を献上する慣習がある。
その献上された名前こそが『神籍』である。
アルメニア王国民であることの証であり、何よりの誇りなのだ。
その神に献上した名前を抹消されるということは、神に背く者、『背教者』となりアルメニア国民にとっては何よりの屈辱と恥となる死刑より重い罪なのだ。
背教者は国内に入ることは許されず、その存在すら無かった者として扱われる。
私が「アリーシャ」のままであったならこの罪には耐えきれなかっただろうが、今の私は前世の記憶を取り戻したアリーシャだ。
そのせいか、私はこの誇りというものをイマイチ理解できなくなっていた。
それゆえ神籍剥奪となってもなんとも思わないし、むしろ好都合である。
ウチは仏教徒だったけど宗教なんてよく分からなかったからそのせいかもしれない。
戸籍が無くなればそもそも「アリーシャ」は存在しなくなるし、そのまま追放されればむしろ有難い。
それにこれはアルメニア王国だけの風習なので他国では全く問題がない。
綺麗に問題は解決するのである。
だが。
「まあ、それだけじゃ心許ないよね。アリーシャは消えるけど、私じゃなくても依代を手に入れて魔王は復活するかもしれない。それこそゲーム補正で」
「うんまぁありえるね」
だから、と私は言葉を続けてニッコリ微笑む。
それでも魔王の復活が心配なら極論から言おう。
大元の元凶を断てばいい。
「私は追放されたらまず魔王を倒しに行こうと思います」
「……」
場が沈黙する。
うん? なにかおかしなことをいっただろうか?
私は追放されて悠々自適な旅をしたいのだ。それに問題が付きまとうなら即刻排除すべきであろう?
私の自由な旅を邪魔するなら魔王だろうとラスボスだろうと容赦はしない。潰す。
私の今後のために!
しばらく間を置いて、セジュナが口を開いた。
「いや色々突っ込みたいんだけどさ。それ全部置くとして、そもそも魔王って倒せるの? っていうか魔王っていうけど何なんだろう」
セジュナの指摘に私は首を傾げた。
えーと、ゲームではなんて言ってたっけ。
「確か、ミューズフラウの集合体の成れの果てじゃなかった?」
「ミューズフラウってなんだっけ……」
えええええ、そっから!?
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3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
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