36 / 36
2章 四聖獣編 始まりの町ダーウィン
プロローグ
しおりを挟む
辺りは暗闇に包まれ、静寂が支配していた。
真っ暗な闇の中にポツンと浮かぶ月だけが、唯一の光源となり、窓から月明かりが差し込む。
その中で。
私、アリーシャ・ウルズ・オーウェン改めリーシア・ウルディットと、ヴェガ・ダーツェット・クローエンシュルツ改めヴェガ・クロムはベットで向かい合っていた。
清潔なシーツは皺一つなく、魔術で加工された低反発のベッドは二人分の重みを感じさせないほど程よい弾力を伝えてくる。
暗闇の中にベッドで向かい合う男女二人。普通ならば、恋人同士の甘い時間を過ごしているのかな、とか思ってしまうだろう。
しかし、私たちは見つめ合いながら、互いに微動だにせず――、
正座していた。
「……」
「……」
長い沈黙が場を支配する。
お互い魔術で五感を補完しているので視界の暗さはあまり感じない。
それ故に、私がガチガチに緊張していることはヴェガに伝わってしまっているだろう。
「……」
「……」
ひたすらに重い空気が立ち込め、甘い雰囲気など皆無だった。
「……俺がソファで寝る」
やがて長い沈黙に耐えきれなくなり、最初にその話題に踏み込んだのはヴェガだった。
白かった髪を黒く染め、鍛え上げた褐色の肉体を寝巻き用の薄手のシャツで覆う彼は風呂上がりも相まって、絶大な色香を醸し出している。
その大胆に開いた胸元を見ないようにしながら、私も負けじと切り返す。
「駄目。ヴェガはこの宿に来るまでずっと夜見張りをしてくれてたでしょ。寝られる時にきちんと寝ないと身体が持たないよ。私がソファで寝る!」
「いや、リーシアだって野宿で身体が疲れているだろう。だったらお前こそベッドで寝られる時にきちんと横になってろ」
「いや私が、」
「いや俺が、」
互いに一歩も譲らず、睨み合う。
そしてお互いの寝巻きの姿を不意に見てしまい、慌てて目を逸らす。
そんな思春期の青少年みたいなことをずっと繰り返していた。
ヴェガのはだけた胸元から覗く厚い胸板を思い出してしまい、顔を真っ赤にしながら私は慌ててヴェガから目を逸らし、首をぶんぶんと振る。
どうしてこうなったんだろう。
本当は宿で二部屋取る予定だったのに。
そのはずなのに、なぜか宿は一部屋しか空きがなく、その部屋にはベッドがひとつしかなかった。
今一度問おう。どうしてこうなったんだろう。
今しがた思ったことを再度繰り返しながら、私は赤くなった頬を隠すために手で覆った。
真っ暗な闇の中にポツンと浮かぶ月だけが、唯一の光源となり、窓から月明かりが差し込む。
その中で。
私、アリーシャ・ウルズ・オーウェン改めリーシア・ウルディットと、ヴェガ・ダーツェット・クローエンシュルツ改めヴェガ・クロムはベットで向かい合っていた。
清潔なシーツは皺一つなく、魔術で加工された低反発のベッドは二人分の重みを感じさせないほど程よい弾力を伝えてくる。
暗闇の中にベッドで向かい合う男女二人。普通ならば、恋人同士の甘い時間を過ごしているのかな、とか思ってしまうだろう。
しかし、私たちは見つめ合いながら、互いに微動だにせず――、
正座していた。
「……」
「……」
長い沈黙が場を支配する。
お互い魔術で五感を補完しているので視界の暗さはあまり感じない。
それ故に、私がガチガチに緊張していることはヴェガに伝わってしまっているだろう。
「……」
「……」
ひたすらに重い空気が立ち込め、甘い雰囲気など皆無だった。
「……俺がソファで寝る」
やがて長い沈黙に耐えきれなくなり、最初にその話題に踏み込んだのはヴェガだった。
白かった髪を黒く染め、鍛え上げた褐色の肉体を寝巻き用の薄手のシャツで覆う彼は風呂上がりも相まって、絶大な色香を醸し出している。
その大胆に開いた胸元を見ないようにしながら、私も負けじと切り返す。
「駄目。ヴェガはこの宿に来るまでずっと夜見張りをしてくれてたでしょ。寝られる時にきちんと寝ないと身体が持たないよ。私がソファで寝る!」
「いや、リーシアだって野宿で身体が疲れているだろう。だったらお前こそベッドで寝られる時にきちんと横になってろ」
「いや私が、」
「いや俺が、」
互いに一歩も譲らず、睨み合う。
そしてお互いの寝巻きの姿を不意に見てしまい、慌てて目を逸らす。
そんな思春期の青少年みたいなことをずっと繰り返していた。
ヴェガのはだけた胸元から覗く厚い胸板を思い出してしまい、顔を真っ赤にしながら私は慌ててヴェガから目を逸らし、首をぶんぶんと振る。
どうしてこうなったんだろう。
本当は宿で二部屋取る予定だったのに。
そのはずなのに、なぜか宿は一部屋しか空きがなく、その部屋にはベッドがひとつしかなかった。
今一度問おう。どうしてこうなったんだろう。
今しがた思ったことを再度繰り返しながら、私は赤くなった頬を隠すために手で覆った。
13
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(19件)
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜
As-me.com
恋愛
事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。
金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。
「きっと、辛い生活が待っているわ」
これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。
義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」
義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」
義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」
なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。
「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」
実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!
────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
もう一つ書き忘れました。
棒点を振ってる「あ単の」って何ですか?
たんなる変換ミスです。
修正しておきました。
三人がこんな近くに居るんだから、残りの一人もわりと近くに居るんじゃないかな。
そうですねぇ、案外近くにいそうですよねぇ
急に、幼少期に戻るから意味が分からなかったけどやっと謎が解けたww
本当は1部にまとめるつもりだったんですけど思ったより長くなって3部になりました(´・ω・`)
ごめんなさい