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13 悪役は視る
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バルセネア宮殿へ足を踏み入れた私は、ラウスマリー教皇の計らいにより、国王へ謁見することも無くそのまま離宮へと案内されることになった。
その前に第一王女付きの侍女にメドウィカ様の容態を聞いたのだが、その限りでは想像以上に病が進行しているようだ。
三日に一回は吐血、歩くこともままならず寝たきりで、食事もまともにとれずここ半年は野菜の形がなくなるまで煮込まれたスープで命を繋いでいる状態なのだとか。
かのゲームではメドウィカ様に関する記述は災厄の顛末のトリガーとなったこと、メドウィカ様の病の原因が『障り』を利用した意図的な呪いであったこと。
そしてその呪いがグレイブル王国の仕業であったということだけだ。
「『障り』がどれほどメドウィカ様に侵食しているかも問題だわ……」
教皇のようにまだ侵食が進んでいないものならば浄化するのも完治させるのもさほどの時間はかからない。
しかしメドウィカ様が病を患ってから三年の月日が経過している。
元々ウィンゼルキネラ王家は古くからの盟約で精霊の加護を得ており、普通の人間より『不浄のモノ』に耐性があるらしい。
けれど『障り』の負のエネルギーを利用した呪いにかかり、ずっと抵抗することは体力を摩耗することになり、いずれにせよ身体にとっては負担になることは変わりない。
どうか無事でいてくださればいいのだけれど。
私は半ば祈るような気持ちで離宮の廊下を突き進む。
「こっちよ」
「はい!」
案内の声に返事をして私は廊下の角を右に曲がった。
道を先導するのはシスターリゼリア。
今回何故か彼女は王宮へ行くのに同行したばかりか、離宮の案内まで買って出てくれた。
教会のシスターが何故王宮に出入りできて、しかも離宮の構造を把握しているのか謎だらけだが、今はそれに構っている暇はない。
兎にも角にもシスターリゼリアに誘われるがまま離宮を歩いて、私はその最奥にたどり着いた。
白く重厚な扉の前で立ち止まったシスターリゼリアは、振り向きながら声をかけてきた。
「――ここよ。メドウィカお姉様が眠っているのは」
「お姉様……?」
「詳しいことは後で説明するわ。今は一刻も早く治療を」
「は、はい」
目線を扉へと戻し、シスターリゼリアは離宮でも開かずの間とされているその扉へと手をかける。
そういえばメドウィカ様はキネーラの第一王女。一番目の王女である。だとしたら――シスターリゼリアは……。
そんなことをぼんやりと考えながらシスターリゼリアがギイィイ、と扉を開けるのを見守り、促されるままに足を踏み入れる。
寝室らしい部屋の中には家具らしい家具が存在せず、広い空間の真ん中に、ぽつんとベッドがある。
メドウィカ様はその天蓋が設えられたベッドの中で、眠っていた。
その中で静かにベッドに近づいた私は、メドウィカ様を見下ろし。
その容態を確認して、息を呑んだ。
「…………嘘」
思わず、後ずさってしまうのを止められなかった。
確認するように何度も何度も視て、どうか間違いであってほしいと、願うように視つめても、結果は変わらない。
――そんな。ここまで来たのに……?
その場に崩れ落ちそうになる体を、既のところで踏ん張る。
後ろにシスターリゼリアが控えているのだ。動揺がバレる訳にはいかない。
メドウィカ様は、ベッドの中で人形のように眠っていた。
真っ白い髪を流して、白磁の肌からは血の気が感じられず。身動ぎさえしない。
しかしその身体からはどす黒いまでの『障り』が彼女に纏わりつていて。
そして――彼女は、呼吸をしていなかったのだ。
その前に第一王女付きの侍女にメドウィカ様の容態を聞いたのだが、その限りでは想像以上に病が進行しているようだ。
三日に一回は吐血、歩くこともままならず寝たきりで、食事もまともにとれずここ半年は野菜の形がなくなるまで煮込まれたスープで命を繋いでいる状態なのだとか。
かのゲームではメドウィカ様に関する記述は災厄の顛末のトリガーとなったこと、メドウィカ様の病の原因が『障り』を利用した意図的な呪いであったこと。
そしてその呪いがグレイブル王国の仕業であったということだけだ。
「『障り』がどれほどメドウィカ様に侵食しているかも問題だわ……」
教皇のようにまだ侵食が進んでいないものならば浄化するのも完治させるのもさほどの時間はかからない。
しかしメドウィカ様が病を患ってから三年の月日が経過している。
元々ウィンゼルキネラ王家は古くからの盟約で精霊の加護を得ており、普通の人間より『不浄のモノ』に耐性があるらしい。
けれど『障り』の負のエネルギーを利用した呪いにかかり、ずっと抵抗することは体力を摩耗することになり、いずれにせよ身体にとっては負担になることは変わりない。
どうか無事でいてくださればいいのだけれど。
私は半ば祈るような気持ちで離宮の廊下を突き進む。
「こっちよ」
「はい!」
案内の声に返事をして私は廊下の角を右に曲がった。
道を先導するのはシスターリゼリア。
今回何故か彼女は王宮へ行くのに同行したばかりか、離宮の案内まで買って出てくれた。
教会のシスターが何故王宮に出入りできて、しかも離宮の構造を把握しているのか謎だらけだが、今はそれに構っている暇はない。
兎にも角にもシスターリゼリアに誘われるがまま離宮を歩いて、私はその最奥にたどり着いた。
白く重厚な扉の前で立ち止まったシスターリゼリアは、振り向きながら声をかけてきた。
「――ここよ。メドウィカお姉様が眠っているのは」
「お姉様……?」
「詳しいことは後で説明するわ。今は一刻も早く治療を」
「は、はい」
目線を扉へと戻し、シスターリゼリアは離宮でも開かずの間とされているその扉へと手をかける。
そういえばメドウィカ様はキネーラの第一王女。一番目の王女である。だとしたら――シスターリゼリアは……。
そんなことをぼんやりと考えながらシスターリゼリアがギイィイ、と扉を開けるのを見守り、促されるままに足を踏み入れる。
寝室らしい部屋の中には家具らしい家具が存在せず、広い空間の真ん中に、ぽつんとベッドがある。
メドウィカ様はその天蓋が設えられたベッドの中で、眠っていた。
その中で静かにベッドに近づいた私は、メドウィカ様を見下ろし。
その容態を確認して、息を呑んだ。
「…………嘘」
思わず、後ずさってしまうのを止められなかった。
確認するように何度も何度も視て、どうか間違いであってほしいと、願うように視つめても、結果は変わらない。
――そんな。ここまで来たのに……?
その場に崩れ落ちそうになる体を、既のところで踏ん張る。
後ろにシスターリゼリアが控えているのだ。動揺がバレる訳にはいかない。
メドウィカ様は、ベッドの中で人形のように眠っていた。
真っ白い髪を流して、白磁の肌からは血の気が感じられず。身動ぎさえしない。
しかしその身体からはどす黒いまでの『障り』が彼女に纏わりつていて。
そして――彼女は、呼吸をしていなかったのだ。
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