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12 悪役は、決断する

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 ――キネーラ連合王国。
 グレイブル王国と隣り合い、ウィンゼルキネラ王家が治めるキネーラを始めとする大小四つの国が連合して形成された王国。

 グレイブル王国とは昔から交流もあるが、国土を巡って対立、戦争した過去もある。
 しかし今は比較的良好な関係を築いており、近年ではウィンゼルキネラ王家とも縁の深いレイダスト公爵家令嬢が、グレイブル王国へ嫁いだ話は割と有名である。

 しかし、この両者の関係はリーンが聖女になったと同時に脆く崩れ去ることになる。
 ――キネーラ連合王国第一王女、メドウィカ様の死。
 数年前から不治の病を患っていたメドウィカ様は、グレイブル王国に新たな聖女が降臨した時期とほぼ重なるようにして亡くなってしまう。

 不治の病を患っていたメドウィカ様だが、その病の正体は『障り』による負のエネルギーを利用した呪いであったことが判明する。
 しかも呪いを行っていたのはグレイブル王国側であるという恐ろしい事実が明らかとなり、そこから両国は互いに宣戦布告、戦争へと発展していく。

 聖女であるリーンは戦争によって増大した『障り』を鎮めるため各地を周り、その道中でこの戦乱を招いた真なる黒幕へと迫る。

 その災厄のシナリオ『流転の災禍』のトリガーとなる重要人物、キネーラ第一王女メドウィカ・セリス・ウィンゼルキネラ。
 その彼女が、今まさに死のうとしている。

 こんな大事なことを忘れていたなんて……。
 私は馬車の中で首を振り、頭を抱えた。
 一刻も早く、メドウィカ様をお救いしなければ。そうしなければ、世界は滅びへと向かってしまう――。

「クラリス様。こちらをどうぞ」

 焦りに戸惑い。そして早く思い出せなかった後悔。
 様々な感情が渦巻いてうまく考えをまとめきれなくなった私の前に、温かな湯気をたてる紅茶のカップが差し出された。

「ゼスト……」
「クラリス様、あまり思い詰めなされませんよう」
「ええ、ありがとう」

 私はゼストからカップを受け取り、口に運ぶ。
 爽やかなハーブの香りが鼻腔をくすぐり、焦る心をすっと沈めてくれるような気がした。
 香りを楽しんで一口飲んだあと、私は細く息を吐き出す。

 ゼストの言う通りだ。
 焦っていても仕方がない。幸いあの後直ぐに教皇経由で連絡をとることができ、メドウィカ様を診察することが可能となった。
 今私は馬車に揺られて、キネーラ王都ヘンブルへと向かう途中である。

「それにしてもすごいわよね。精霊王の愛し子ってだけでも凄いのに、まさか『聖女』だったなんて。びっくりしましたわ」

 とは、反対側に座るシスターリゼリアの言。
 同じくゼストから受け取ったらしいカップを手に持ち、優雅に紅茶を飲む黒髪の美女は、一枚の絵画のように美しい。

「私も何がなにやら……」

 精霊に言われなければ、まさか自分に聖女の力があるなんて思いもしなかっただろう。
 それに託宣に選ばれていた聖女は二人いた、ということも気にかかる。
 託宣を受け取る大司祭は、教会においても名の通った実力者。
 そんな方が託宣を読み違えるというとこはまずもってありえないのだ。

 それなのに託宣によって選ばれたのはリーンひとり。
 しかももう一人の聖女である私はレイン殿下によって追放された。
 教会が託宣を隠蔽した事実があり、グレイブル王国王家がそれを知らないはずがない。聖女は国の宝と言うべきもの。それを王家が蔑ろにするということはあってはならないことだ。

 そのはずなのに。
 何かがおかしい。この件を無事に乗り切れたらもう一度調べてみる必要がある。

 そう密かに心に決めた時、長い道のりを進んでいた馬車が止まった。

「着いたようね」
「そうですね」

 シスターリゼリアの声に、私は頷く。
 キネーラ連合王国中央王都ヘンブル。その真ん中にそびえ立つ、バルセネア宮殿。

 やることは色々できた。けれども今やるべきことは。

 ――まずはメドウィカ様にお会いしなければね。全てはそれからよ。

「どうぞクラリス様」
「ええ」

 差し出されたゼストの手を取り、私は馬車を降りた。




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