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17 悪役は目覚めて、
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「ん……」
柔らかく頭を撫でられるような感触がする。
なんだろう。いつか嗅いだ花の香りがする。白く可憐な花びらをつけた、小ぶりの小さな花。
あの花の名前は、なんだっただろう。
懐かしい感覚に身を委ねて、私は身体を捻じる。
すると、ふわりと横にいる『誰か』が苦笑したような気がした。
低く響く心地よい声。いつも聞いていて、傍に居てくれる、私の大好きな声。
ポンポン、と一定のリズムを刻んで優しく撫でられる感触に、私はまた微睡みを覚えて。
「……今はまだおやすみなさいませ、クラリス様。いついかなる時も、私は貴方の傍にいますから」
耳に心地よいその声に、頭を撫でてくれる手に甘えるように私は身を寄せて、泡沫の眠りについた。
*
「あ……ふわぁあ」
窓から差し込む朝日の光がだいぶ登った頃。
いつになく爽快な気分で私は目が覚めた。ぱっちり目も開き、頭はスッキリしている。思考も冴え渡っているし、元気が有り余っている感じがする。
そういえばあの後、私はどうなったのだろう。
『障り』が具現化し、殺されそうになったあの時、何故かゼストが割り込んできたところで限界が来て私は意識を失った。
それから今まで眠っていたようだけれど、ゼストはどうしたのか。メドウィカ様は助かったのか。
――何よりここは何処?
どうやら私はベッドで寝ていたらしいが、この場所に見覚えはない。色々尽きない疑問に頭が働き始めた頃、コンコンと扉がノックされる。
「はい」
「ゼストです。入ってもよろしいですか?」
「ええ」
入室に許可を出すと、ガチャリと扉が開いて見慣れた朱金の髪が目に飛び込んできた。
「おはようございます。クラリス様、ご気分はいかがですか?」
「おはよう。とりあえずいつになくスッキリして元気なんだけれど、何がどうなってるのかさっぱりだわ」
まだ湯気のたつ紅茶のカップを手に持って現れたゼストは、開口一番に私の状態を聞くと、ホッとしたような表情を浮かべる。
「そうですか。それは良かったです」
どうぞ、と渡された紅茶のカップを受け取り、今度はこちらから質問する。
「それで王女様は無事なの?」
ずっと気になっているのはそこだ。
私は途中で気を失ってしまった。『障り』の浄化は全て終わったのか?
何よりメドウィカ様は生きておられるのか。
紅茶を飲み干した後にカップを置いて、ベッドから身を乗り出してずずいと迫った私にゼストは「大丈夫ですよ」と頷いてこちらを安心させるように肩に手を置かれる。
「穏やかに呼吸もしておられますし、先刻まで起きていらっしゃいました。今はリゼリア様がお傍におられますから」
「そう……メドウィカ様は助かったのね……良かった」
これでひとまず災厄の序章は防げたということになる。
シスターリゼリアが側にいるなら一安心だ。教会の修道女は精霊による加護を受ける祝福持ち。たとえまた『障り』がメドウィカ様を狙っても弾き返してくれるだろう。追撃は防げる筈だ。
一安心してベッドに戻ると、私はゼストにじっと視線を向ける。
そういえばゼストは『障り』が変異した漆黒の長剣を弾き返していた。人間に悪意を及ぼすはずの『障り』を生身で弾き返すなんて聞いたことがない。
普通なら侵食され、為す術もないはずなのに。
意識を失ったから詳しい経緯は分からないけれどおそらく『障り』の呪いを呪術主へと返したのもゼストだろう。
今ごろ呪いを返された術師は酷い目にあっている筈だ。
『障り』とはそれだけ人間にとっては脅威の存在であるはずなのに……むぅ。ゼストは一体どうやってあの『障り』を退けたというの?
いつも傍に居てくれるこの従者だけれど、実は知らないことの方が多いのかもしれない。
疑わしさ満開で見つめてもいつものように涼やかに美麗な笑顔を浮かべてこちらの視線を受け流す従者。ゲームでは気にしなかったけれど、割と本当に謎の存在なのかもしれない。
内心でううむ、と唸りながらゼストを熱心に観察していると、
「――あら、お邪魔でしたかしら」
といつの間にか部屋にシスターリゼリアが入ってきていた。クスクスと笑いながら入ってきた彼女は、明らかに私のことを揶揄う様な視線を向けてきた。
気恥ずかしくなって私は即座にゼストから目を離すとゴホンと咳払いする。
「大丈夫ですわ。シスターリゼリア」
「そうですか。クラリスさんもお元気になられたようで何よりです」
いつものように艶やかに流れる黒髪をシスターのヴェールで覆い隠した彼女が、私に向かってカーテシーをする。
洗練された優雅な動き。まさに貴族として相応しい動きだ。シスター服を纏いながらここまで見るものを魅了する動きは社交界でもそうそう見ることは無い。さぞかし幼少時より訓練され、英才教育を受けて来てのだろう。
とても一介のシスターとは思えない。
流麗な仕草で挨拶をするシスターリゼリアは、頭を上げ翠の瞳を細め笑みを作った後、ようやく自分の身分を明かした。
「この度はお初にお目にかかります。精霊王の愛し子、クラリス様。私はウィンゼルキネラ王家が第二王女、リジェリカ・ミゼル・ウィンゼルキネラと申しますわ。姉の命を救って頂きましたこと、国王に代わり御礼申し上げます」
そう言って、シスターリゼリア――キネーラ連合王国第二王女リジェリカ殿下は優雅にもう一礼した。
柔らかく頭を撫でられるような感触がする。
なんだろう。いつか嗅いだ花の香りがする。白く可憐な花びらをつけた、小ぶりの小さな花。
あの花の名前は、なんだっただろう。
懐かしい感覚に身を委ねて、私は身体を捻じる。
すると、ふわりと横にいる『誰か』が苦笑したような気がした。
低く響く心地よい声。いつも聞いていて、傍に居てくれる、私の大好きな声。
ポンポン、と一定のリズムを刻んで優しく撫でられる感触に、私はまた微睡みを覚えて。
「……今はまだおやすみなさいませ、クラリス様。いついかなる時も、私は貴方の傍にいますから」
耳に心地よいその声に、頭を撫でてくれる手に甘えるように私は身を寄せて、泡沫の眠りについた。
*
「あ……ふわぁあ」
窓から差し込む朝日の光がだいぶ登った頃。
いつになく爽快な気分で私は目が覚めた。ぱっちり目も開き、頭はスッキリしている。思考も冴え渡っているし、元気が有り余っている感じがする。
そういえばあの後、私はどうなったのだろう。
『障り』が具現化し、殺されそうになったあの時、何故かゼストが割り込んできたところで限界が来て私は意識を失った。
それから今まで眠っていたようだけれど、ゼストはどうしたのか。メドウィカ様は助かったのか。
――何よりここは何処?
どうやら私はベッドで寝ていたらしいが、この場所に見覚えはない。色々尽きない疑問に頭が働き始めた頃、コンコンと扉がノックされる。
「はい」
「ゼストです。入ってもよろしいですか?」
「ええ」
入室に許可を出すと、ガチャリと扉が開いて見慣れた朱金の髪が目に飛び込んできた。
「おはようございます。クラリス様、ご気分はいかがですか?」
「おはよう。とりあえずいつになくスッキリして元気なんだけれど、何がどうなってるのかさっぱりだわ」
まだ湯気のたつ紅茶のカップを手に持って現れたゼストは、開口一番に私の状態を聞くと、ホッとしたような表情を浮かべる。
「そうですか。それは良かったです」
どうぞ、と渡された紅茶のカップを受け取り、今度はこちらから質問する。
「それで王女様は無事なの?」
ずっと気になっているのはそこだ。
私は途中で気を失ってしまった。『障り』の浄化は全て終わったのか?
何よりメドウィカ様は生きておられるのか。
紅茶を飲み干した後にカップを置いて、ベッドから身を乗り出してずずいと迫った私にゼストは「大丈夫ですよ」と頷いてこちらを安心させるように肩に手を置かれる。
「穏やかに呼吸もしておられますし、先刻まで起きていらっしゃいました。今はリゼリア様がお傍におられますから」
「そう……メドウィカ様は助かったのね……良かった」
これでひとまず災厄の序章は防げたということになる。
シスターリゼリアが側にいるなら一安心だ。教会の修道女は精霊による加護を受ける祝福持ち。たとえまた『障り』がメドウィカ様を狙っても弾き返してくれるだろう。追撃は防げる筈だ。
一安心してベッドに戻ると、私はゼストにじっと視線を向ける。
そういえばゼストは『障り』が変異した漆黒の長剣を弾き返していた。人間に悪意を及ぼすはずの『障り』を生身で弾き返すなんて聞いたことがない。
普通なら侵食され、為す術もないはずなのに。
意識を失ったから詳しい経緯は分からないけれどおそらく『障り』の呪いを呪術主へと返したのもゼストだろう。
今ごろ呪いを返された術師は酷い目にあっている筈だ。
『障り』とはそれだけ人間にとっては脅威の存在であるはずなのに……むぅ。ゼストは一体どうやってあの『障り』を退けたというの?
いつも傍に居てくれるこの従者だけれど、実は知らないことの方が多いのかもしれない。
疑わしさ満開で見つめてもいつものように涼やかに美麗な笑顔を浮かべてこちらの視線を受け流す従者。ゲームでは気にしなかったけれど、割と本当に謎の存在なのかもしれない。
内心でううむ、と唸りながらゼストを熱心に観察していると、
「――あら、お邪魔でしたかしら」
といつの間にか部屋にシスターリゼリアが入ってきていた。クスクスと笑いながら入ってきた彼女は、明らかに私のことを揶揄う様な視線を向けてきた。
気恥ずかしくなって私は即座にゼストから目を離すとゴホンと咳払いする。
「大丈夫ですわ。シスターリゼリア」
「そうですか。クラリスさんもお元気になられたようで何よりです」
いつものように艶やかに流れる黒髪をシスターのヴェールで覆い隠した彼女が、私に向かってカーテシーをする。
洗練された優雅な動き。まさに貴族として相応しい動きだ。シスター服を纏いながらここまで見るものを魅了する動きは社交界でもそうそう見ることは無い。さぞかし幼少時より訓練され、英才教育を受けて来てのだろう。
とても一介のシスターとは思えない。
流麗な仕草で挨拶をするシスターリゼリアは、頭を上げ翠の瞳を細め笑みを作った後、ようやく自分の身分を明かした。
「この度はお初にお目にかかります。精霊王の愛し子、クラリス様。私はウィンゼルキネラ王家が第二王女、リジェリカ・ミゼル・ウィンゼルキネラと申しますわ。姉の命を救って頂きましたこと、国王に代わり御礼申し上げます」
そう言って、シスターリゼリア――キネーラ連合王国第二王女リジェリカ殿下は優雅にもう一礼した。
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