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18 王女は真相を明かす
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優雅に一礼して顔を上げたシスターリゼリア――リジェリカ第二王女殿下に私は静かに口を開く。
「一介のシスターにしてはとても自由な行動をなされる方だな、とは思っていたのです」
今にしてみればおかしいことだらけだった。
罪人の私を迎えに来た馬車はやたらと豪華だったし、まだうら若い容貌からシスター〝見習い〟でもおかしくない年頃であるはずなのに〝シスター〟と呼ばれていたこと。
教会のシスターでありながら教会での仕事らしい仕事は行わず、私の元へよく来ていたこと。
そして――離宮とはいえ王族が住まうバルセネア宮殿へ足を踏み入れることを許されていたこと。
それら全ての答えが目の前の人物がウィンゼルキネラ王家の第二王女だというのなら納得できるし、解決する。
しかし、一つ腑に落ちないことがある。
「何故、シスターに扮していたのですか? 私を試していたのですか?」
私の問いかけにリジェリカ殿下は苦笑いを浮かべる。
「そうね。あなたから見ればそう思われるのも無理はありません。けれど、私が『シスターリゼリア』でいたのはまた別の理由からです」
そう言うと、リジェリカ殿下は頭を覆っていたヴェールを脱ぐ。
ヴェールの中から出てきたのは見慣れた黒い髪――ではなく、輝くような白銀の髪だった。
ウィンゼルキネラ王家は代々金髪に碧の瞳を持つというが、リジェリカ殿下のそれは白銀で目も翠だ。
王族だというのに何故違うのか。私の疑問を先読みしたようにリジェリカ殿下は直ぐに答えてくれた。
「代々王家はキネーラの精霊の加護を受けて生まれてきます。しかしウィンゼルキネラ王家は元々白銀の髪に万象を見通す精霊眼という翠の瞳を持つ一族でした。それが歳を経るごとに血が薄れ、白銀の髪と精霊眼は失われ、金髪碧眼へと変わっていきました。その中で白銀の髪と翠の精霊眼を持って生まれた私は一際強力な加護を持つ『先祖返り』なのです」
そしてその髪と眼を持って生まれたリジェリカ殿下はかつてのキネーラ国家の象徴として祝福され、様々な国や国内の貴族が彼女の強力な加護を狙って婚約や縁談を持ちかけてきたのだという。
「お父様……陛下は私利私欲で私を狙おうとする連中から私を守るためにこの身を教会に預けました。シスターにしてしまうことで私を欲する者たちから私を守ろうとしたのです……表向きは」
シスターは人ならざるものに敬虔に生涯仕えることを約束するため、結婚することは許されない。
キネーラ国王はそれを利用したのだろう。あるいは、先祖の血を色濃く受け継ぎ強力な加護を持って生まれた娘を手放したくなかったのか。
「そういう訳で、私は若くしてシスターとなり、リダ・テンペラス教会で髪を黒くし、身分を偽って『シスターリゼリア』として活動していたのです。そして三年前――メドウィカお姉様が突然病に罹ったと聞きました」
メドウィカ様宛の贈り物の中に混ざっていた呪物。
それをメドウィカ様が手にした途端、全身を黒いモヤが覆い、王女は倒れたのだそうだ。
呪物は『障り』の悪意を道具にこめたもの。物に触れた意図した相手に呪いをかけるための道具だ。
ドレスや装身具、万年筆など、呪物は多岐に渡って手軽に作れる。メドウィカ様を呪詛した相手は贈り物という手段を使ってメドウィカ様に呪物を触れさせるように仕向けたのだろう。
「私は直ぐにお姉様の元へ赴き、お姉様に巣食う悪意を排除しようと思いました。私の加護の特性は守護すること。眠るお姉様の身体にに結界を張り、その原因を排除しようとしました」
そこでリジェリカ殿下は言葉を止め、悔しそうに唇を噛んだ。
「――できなかったのです。お姉様に巣食う悪意は私如きの力では弾き返すことができなかった。お姉様を取り巻く悪意は万物を見通す精霊眼で視えていたのに、私にはそれだけの力はありませんでした」
『障り』は基本人間に対して悪影響を及ぼす。精霊の加護を得ていくらかの耐性はあっても、直接『障り』を浄化する女神の加護を持たないリジェリカ殿下でも『障り』を祓うことはできないのだ。
「精霊の加護を得ながら私は無力でした。それでも何とかしようと私は力を働かせて――逆に黒いモヤに取りつかれ『障り』の侵蝕を受けそうになりました。そこを教皇が盾となり私を庇って下さったのです。私の代わりに侵蝕を受けた教皇は少しずつ症状を悪化させ、つい先日まで寝たきりの状態でした」
これで繋がった。『シスターリゼリア』が突然教皇の元へ私を連れ出したのは。
「私が『聖女』であることを知っていたのですね」
私の言葉にリジェリカ殿下は肯定を示すように頷いた。
私自身も気づていなかった事実。彼女には全てを見通す精霊の眼があるのだ。私が『聖女』であることを見抜いたリジェリカ殿下は教皇とメドウィカ様を救って欲しかったのだろう。
「私はお姉様と教皇の身体に巣食うものが呪詛であると知っていました。けれど術者がいる以上、下手なことをすれば二人の命が危ない。私はシスターリゼリアとして教会に身を置きながら三年間、二人を救う術を探していました。ようやくその術を知った時、私は絶望しました」
聖女でないと『障り』による呪詛は祓えない。
聖女はキネーラには存在しない。なぜならキネーラは精霊を信仰する国。悠久の女神の加護を得た聖女を持つグレイブル王国を頼るしか術はない。
第二王女の立場であったならば、決してそれは不可能ではなかった。
さらに聖女選定が行われて、『聖女』が正式に決定すれば優先的にメドウィカ様に蔓延る『障り』を浄化することができただろう。
けれど、それをリジェリカ殿下は行わなかった。いや、行えなかった。
その理由は私にも分かる。
それがゲームでは災厄の顛末の序章へと繋がっていたから。
なぜなら――。
「メドウィカお姉様が倒れる原因となったプレゼントの送り主が、グレイブル王国第一王子ルイス様だったからです」
――『聖女』を有するグレイブル王国の王子が、キネーラの王女を呪っていたからである。
「一介のシスターにしてはとても自由な行動をなされる方だな、とは思っていたのです」
今にしてみればおかしいことだらけだった。
罪人の私を迎えに来た馬車はやたらと豪華だったし、まだうら若い容貌からシスター〝見習い〟でもおかしくない年頃であるはずなのに〝シスター〟と呼ばれていたこと。
教会のシスターでありながら教会での仕事らしい仕事は行わず、私の元へよく来ていたこと。
そして――離宮とはいえ王族が住まうバルセネア宮殿へ足を踏み入れることを許されていたこと。
それら全ての答えが目の前の人物がウィンゼルキネラ王家の第二王女だというのなら納得できるし、解決する。
しかし、一つ腑に落ちないことがある。
「何故、シスターに扮していたのですか? 私を試していたのですか?」
私の問いかけにリジェリカ殿下は苦笑いを浮かべる。
「そうね。あなたから見ればそう思われるのも無理はありません。けれど、私が『シスターリゼリア』でいたのはまた別の理由からです」
そう言うと、リジェリカ殿下は頭を覆っていたヴェールを脱ぐ。
ヴェールの中から出てきたのは見慣れた黒い髪――ではなく、輝くような白銀の髪だった。
ウィンゼルキネラ王家は代々金髪に碧の瞳を持つというが、リジェリカ殿下のそれは白銀で目も翠だ。
王族だというのに何故違うのか。私の疑問を先読みしたようにリジェリカ殿下は直ぐに答えてくれた。
「代々王家はキネーラの精霊の加護を受けて生まれてきます。しかしウィンゼルキネラ王家は元々白銀の髪に万象を見通す精霊眼という翠の瞳を持つ一族でした。それが歳を経るごとに血が薄れ、白銀の髪と精霊眼は失われ、金髪碧眼へと変わっていきました。その中で白銀の髪と翠の精霊眼を持って生まれた私は一際強力な加護を持つ『先祖返り』なのです」
そしてその髪と眼を持って生まれたリジェリカ殿下はかつてのキネーラ国家の象徴として祝福され、様々な国や国内の貴族が彼女の強力な加護を狙って婚約や縁談を持ちかけてきたのだという。
「お父様……陛下は私利私欲で私を狙おうとする連中から私を守るためにこの身を教会に預けました。シスターにしてしまうことで私を欲する者たちから私を守ろうとしたのです……表向きは」
シスターは人ならざるものに敬虔に生涯仕えることを約束するため、結婚することは許されない。
キネーラ国王はそれを利用したのだろう。あるいは、先祖の血を色濃く受け継ぎ強力な加護を持って生まれた娘を手放したくなかったのか。
「そういう訳で、私は若くしてシスターとなり、リダ・テンペラス教会で髪を黒くし、身分を偽って『シスターリゼリア』として活動していたのです。そして三年前――メドウィカお姉様が突然病に罹ったと聞きました」
メドウィカ様宛の贈り物の中に混ざっていた呪物。
それをメドウィカ様が手にした途端、全身を黒いモヤが覆い、王女は倒れたのだそうだ。
呪物は『障り』の悪意を道具にこめたもの。物に触れた意図した相手に呪いをかけるための道具だ。
ドレスや装身具、万年筆など、呪物は多岐に渡って手軽に作れる。メドウィカ様を呪詛した相手は贈り物という手段を使ってメドウィカ様に呪物を触れさせるように仕向けたのだろう。
「私は直ぐにお姉様の元へ赴き、お姉様に巣食う悪意を排除しようと思いました。私の加護の特性は守護すること。眠るお姉様の身体にに結界を張り、その原因を排除しようとしました」
そこでリジェリカ殿下は言葉を止め、悔しそうに唇を噛んだ。
「――できなかったのです。お姉様に巣食う悪意は私如きの力では弾き返すことができなかった。お姉様を取り巻く悪意は万物を見通す精霊眼で視えていたのに、私にはそれだけの力はありませんでした」
『障り』は基本人間に対して悪影響を及ぼす。精霊の加護を得ていくらかの耐性はあっても、直接『障り』を浄化する女神の加護を持たないリジェリカ殿下でも『障り』を祓うことはできないのだ。
「精霊の加護を得ながら私は無力でした。それでも何とかしようと私は力を働かせて――逆に黒いモヤに取りつかれ『障り』の侵蝕を受けそうになりました。そこを教皇が盾となり私を庇って下さったのです。私の代わりに侵蝕を受けた教皇は少しずつ症状を悪化させ、つい先日まで寝たきりの状態でした」
これで繋がった。『シスターリゼリア』が突然教皇の元へ私を連れ出したのは。
「私が『聖女』であることを知っていたのですね」
私の言葉にリジェリカ殿下は肯定を示すように頷いた。
私自身も気づていなかった事実。彼女には全てを見通す精霊の眼があるのだ。私が『聖女』であることを見抜いたリジェリカ殿下は教皇とメドウィカ様を救って欲しかったのだろう。
「私はお姉様と教皇の身体に巣食うものが呪詛であると知っていました。けれど術者がいる以上、下手なことをすれば二人の命が危ない。私はシスターリゼリアとして教会に身を置きながら三年間、二人を救う術を探していました。ようやくその術を知った時、私は絶望しました」
聖女でないと『障り』による呪詛は祓えない。
聖女はキネーラには存在しない。なぜならキネーラは精霊を信仰する国。悠久の女神の加護を得た聖女を持つグレイブル王国を頼るしか術はない。
第二王女の立場であったならば、決してそれは不可能ではなかった。
さらに聖女選定が行われて、『聖女』が正式に決定すれば優先的にメドウィカ様に蔓延る『障り』を浄化することができただろう。
けれど、それをリジェリカ殿下は行わなかった。いや、行えなかった。
その理由は私にも分かる。
それがゲームでは災厄の顛末の序章へと繋がっていたから。
なぜなら――。
「メドウィカお姉様が倒れる原因となったプレゼントの送り主が、グレイブル王国第一王子ルイス様だったからです」
――『聖女』を有するグレイブル王国の王子が、キネーラの王女を呪っていたからである。
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