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13_別れ
しおりを挟むそれから数日後の早朝。
訪問者を知らせるアラートにティフォがホログラムを展開すれば、何十人もの特務警察隊員がティフォの自宅前を包囲していた。
「特務警察隊です。通報を受け、家宅捜査に参りました。どうか抵抗はなさらず、速やかな施錠解除とご自身の投降を願います」
隊員は繰り返し投降を呼びかけていたが、ティフォは音声だけを切って放置をした。
社畜として家と職場の往復しかして来なかったティフォだ。心当たりはムームのことしかない。初めて見たが、きっと彼らこそが違法生物の飼育を取り締まっている正規摘発組織なのだろう。
無音のホログラムは自宅の周囲をリアルタイムで映し出し続けている。
特務警備隊は警告は終わったとばかりに、建物のロック解除を開始した。
室内では異常を知らせる警報装置がけたたましく鳴り響く。
ムームは身を固くして周囲に視線を送っている。
どこからムームのことがバレたのだろう。
ティフォは数日前に会ったエリクレアス施設長の言葉を思い出していた。
気を付けろとは、このことだったのだろうか。しかし今は余計なことを考えている暇はない。
特務警察隊員にとって、個人宅のロックの強制解除など、きっとすぐだ。ティフォに逃げ場はない。それならムームだけでも逃がさなければ。ムームが捕まったら、きっとすぐにどこかの施設に連れていかれて、殺処分をされてしまかもしれないのだ。
ダメだ。それだけはダメだ。
ティフォはとっさに日持ちのしそうな食べ物を布に包んで、ムームに押し付けた。
状況が分からないなりに落ち着いた様子のムームは、黙って包みを受け取った。
ティフォは触手でムームを持ち上げると、最後にぎゅっと抱きしめてから、窓辺に立った。
今日の窓に映るのは、地球の切り立った山頂にそびえ立つ荘厳な城の風景だった。灰色の冷たい城が、月に照らされて霧の中から姿を現している。
ティフォが乱暴にその映像を切ると、城はノイズ混じりにかき消えた。現実世界の窓の外には、闇に包まれた夜が広がっている。
ティフォが窓に小さな穴を開けると同時に、壁向こうがギシギシと軋み始めた。
無音のホログラムは、壁の向こうで今まさに部屋に侵入しようとする特務警察隊員を映し出している。騒ぐ声は壁に遮断されて、まだ聞こえない。
「ムーム。外だよ。早く逃げなさい」
ティフォが背中を押せば、ムームは躊躇することなく小さな穴からするりと身を投げた。
鬱蒼と茂る植物の下生えに、ムームの体が吸い込まれるように消えていく。
そう。それでいい。ムームはずっと外に出たがっていたのだから。もしかしたら、ずっと逃げ出したかったのかもしれない。
ティフォは窓の穴を塞いで、ケプラー惑星群の人気風景から適当に宇宙流星群の風景を選ぶ。
新しい映像が映し出される瞬間、ムームが振り返った。
一瞬、目と目があった気がした。
それだけだった。
宇宙流星群の映像にムームの姿がかき消されると同時に、膨らみ切った壁が破裂するように破壊され、特務警察隊員がなだれ込んできた。
ティフォはベッドに飛び込んで、怯えた声で精一杯の演技をしてみせた。
「何なんだ! あなた達は!」
ここで少しでも時間かせぎをして、ムームを遠くまで逃がさなくては。
あの子なら大丈夫。心も体も強い子だ。きっと野生でもたくましく育つ。大丈夫。ムームなら大丈夫。どうか生きのびてくれ。
「あなたには地球人違法飼育および密売の容疑がかかっている。大人しく当局の指示に従いなさい!」
特務警察隊員がティフォを取り囲む。
その後ろでは部屋中をひっくり返す勢いで地球人を探している隊員が見える。
覚悟をしていたはずなのに、それでもやはりティフォの触手は震える。上の指示に大人しく従うのが得意な社畜に、反骨心など皆無だ。でもここであっさりと負けるわけにはいかない。
ムームの黒い瞳。あの強く美しい獣を思い出す。ティフォはベッドの中で丸くなりながら叫んだ。
「何のことですか!? ここには何もいませんよ! 帰ってください!」
「隊長、地球人も飼育檻も見当たりません!」
「隅々まで探すんだ! あとはあのベッドが怪しいな。被疑者を引きずり出せ!」
特務警察隊員が、ティフォをベッドから引きずり出そうと、何本もの触手を伸ばしてくる。
ティフォの精一杯の抵抗は、ベッドが破壊されるまで続いた。
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