【完結】愛玩動物

匠野ワカ

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12_意見交流会

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 保護施設の交流会は、思いがけず有意義なものだった。

 これならば助手のカヤも視野を広げるいい機会になっただろう。ティフォ自身も、同じ保護施設であっても施設長の方針次第でこうも違うものかと、驚く場面が多々あった。 



 ティフォは自分の番になると、施設長から発表すべく持たされた処分効率化データを握りつぶし、職員ミーティングで見てももらえなかった地球人の治療データを発表した。
 どうせティフォの施設からは誰も来ていないのだ。バレることもないだろう。知るものか。


 各施設の発表と簡単な質疑応答が終われば、立食パーティー形式の交流会が始まる。


 ティフォはカヤを同行者として会場に連れていく。

 カヤは移動中も、今日の勉強会を通じて、自分の意見を交えた持論を興奮気味に話していた。その生き生きとした表情を見て、連れてきてよかったとティフォも嬉しく思った。

 ただの嫌がらせだろうが、今のティフォにとって施設の外の空気は有り難かった。
 いつの間にこんなにも視野が狭くなっていたのだろう。




 ティフォは、交流会が始まりカヤが会場に馴染んだころを見計らって、帰る予定だった。
 施設にいる地球人の世話と治療がティフォの帰りを待っている。

 カヤに気を遣わせることなく帰るために言い出すタイミングを見計らっていると、一人の職員に声をかけられた。


「あ、きみ、ティフォ君と言ったかな。先ほどの発表、実に面白かったよ」


 老年期手前だろうか。風格がある人物は、身分証代わりであるコードを手渡しながら和やかに話しかけてきた。
 コードには北部に位置する保護施設の施設長である肩書きが記されている。

 ティフォもまたコードを交換しながら、さりげなく助手のカヤを紹介し、コード交換を促した。
 こういう人との繋がりはきっと、未来のあるカヤにとって大きな財産になるだろう。


「エリクレアス施設長にお褒めいただき、光栄です」
「しかし驚いたよ。ティフォ君の在籍しているあの施設は、なんというか、以前から政府寄りの思想が強かったように記憶していたのでね。いやぁ、こんな有望な若者が育っているとは、思わず嬉しくて声をかけてしまったよ」
「私などつまらない職員ですが、助手のカヤは本当に聡明で、今後はきっと素晴らしい研究員となることでしょう」
「ほう、期待の秘蔵っ子かね。それは楽しみだ」
「先ほども、エリクレアス施設長に随伴しておりました研究員の発表について、彼はとても興味深い視点から仮説を立てておりまして」
「あの〝地球人の血液成分における成長促進〟についてかね?」

 急に話を振られても、カヤは尻込みすることなく自分の意見を述べていく。ティフォの贔屓目を除いても、カヤはとても優秀な若者だ。

「はい! 成長促進の有効成分を液体状に濃縮して、地球人の治療時に還元するという手法について、なぜ固体にしないのかという疑問を持ちました。というのも液体より固体の方が、空間輸送の際に成分分離のリスクが減るというデータを最近読んだことがありまして」
「なるほど。それについてはいくつか実験データがあってね。カヤ君さえよければ、うちの研究員と少し話をしてやってくれないかな。他にも何名か職員を連れてきているんだ。紹介をさせて欲しい」
「光栄です! ぜひ勉強をさせてください」



 エリクレアス施設長の万人から好感をもたれるであろう穏やかで親しげな対応。部下からもきっと慕われているのだろう。何から何までうちの施設長とは大違いだ。北部の保護施設はそれなりの人数がこの交流会に参加しているようだが、職員の溌剌とした雰囲気に、きっと講習会費用もきちんと支払われているのだろうとティフォは羨望を覚えた。
 同じ保護施設であっても施設長次第でこうも違うものなのか。


 ティフォはしばらくカヤをそれとなく見守っていたが、数名の研究員と議論を交わし始めるとすぐに打ち解けたようで、楽しそうに交流しているようだった。
 この様子ならば自分がいなくてももう大丈夫だろうと、ティフォはそっと席を外した。

 カヤには悪いが、先に帰宅する旨の伝言を会場スタッフにお願いする。

 思ったより早く施設に戻れそうだと会場をあとにしたティフォは、通路でエリクレアス施設長に声をかけられた。



「もう帰ってしまうのかい。あまり楽しめなかったのかな」
「とんでもない。とても有意義な時間を過ごさせていただきました。ただ本日は、生憎と所用がございまして」
「それはとても残念だ。ティフォ君とはもっとゆっくり話をしたかったのだが」
「ありがとうございます。助手のカヤは、まだ会場で勉強をさせていただいております。彼には才能も熱意もありますが、まだまだ若輩者でありますので、エリクレアス施設長にご指導いただけましたら幸甚に存じます」
「たしかにとてもいい子だね。先に帰るティフォ君の代わりに、私が目をかけておくとしよう。安心しなさい」
「本当に、ありがとうございます。今日は彼にとって、とても有意義な経験となるでしょう。どうぞよろしくお願いいたします」

 失礼のないように丁寧に挨拶をして立ち去ろうとしたティフォの背に、エリクレアス施設長の小さな声が届いた。


「今の政府には、くれぐれも気を付けなさい」
「何のことでしょうか」
「いや、杞憂ならいいんだが、少し気になる噂があってね。今はあまり目立たないほうがいい。ティフォ君。今度会ったときには、私の話を聞いてくれるかい」
「はい、勿論です。ありがとうございます」





 帰りの遠距離移動の乗り物の中で、ティフォはエリクレアス施設長の言葉を思い出した。

 私のような下っ端の職員が目立つはずもないが、エリクレアス施設長の言葉が妙に気になった。
 それにしても不思議な人だった。もう会うこともないかもしれないが、できることならこんな上司の下で働いてみたかったな。そんなことを考えながら、ティフォは職場へ舞い戻った。



 研究室にいる沢山の地球人が、自分を必要としている。それだけがティフォの最後の意地だった。





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