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16_徘徊
しおりを挟む暗闇の中、いくら探してもムームは見つからなかった。
生き物の気配や鳴き声が聞こえるたびに、触手をもつれさせるようにして走り寄るが、草木の陰には何もない。
私のような愚鈍な触手に捕まる生き物は、土壌形成における分解者としてどこにでも生息している甲殻類生物くらいのものだった。
それでも、昼でも夜でも時間が許す限りあてもなく、ムームを探して歩いた。
ムームが害獣に脅かされていないか、悪い密売組織に捕まっていないか、寂しがっていないか、どこかでお腹を空かせていないかと、ティフォには心配が尽きない。
ムームが好きだった赤い果実を自宅付近に置いてみたりもしたが、虫がたかって腐っていくだけだった。
相変わらずムームの気配はどこにもなかった。
それからしばらくして、閉鎖されていた保護施設の再開が決定した。
事前にエリクレアス施設長からは、空席になった施設長の座に就いてみる気はないかと何度も打診されたが、これ以上見世物になりたくはないと固辞して、今まで通りの主任に収まった。
こうして迎えた事件後、初の出勤日。
特に何の感慨もなく慣れ親しんだゲートを潜って現れた壁向こうには、助手のカヤを筆頭に、見知った職員が勢揃いでティフォを出迎えていた。
きっと、善意なのだろう。悪い人たちではないと知っている。
この空気を壊すわけにはいかないと、ティフォは精一杯の愛想笑いを顔に貼り付けて、話しかけられるたびに角が立たないように返事をした。
しきりに施設を代表してセミナーや研究発表をしてはどうかと誘われたが、うやむやとなんとか断って、研究室に逃げ込んだ。
慣れ親しんだ研究室はがらんどうで、地球人が居なくなればこんなにも広かったのかとティフォは驚く。
「主任は欲がないんですねぇ」
あきれたように助手のカヤが言う。ティフォには返事のしようがなくて、あいまいに笑って返した。
虚像を崇拝されても、それは私ではない。
私はみんなが思うような人物ではなく、本当は、違法と知りながら地球人を隠れて飼育するような犯罪者なのだ。
そう叫び出したい気持ちを、臆病者の自分が蓋をする。
それからはますます研究室に引きこもって、地球人の治療にあたった。
保護されたどの地球人も、もしかしたら誰かのムームのような存在なのかもしれないと考えれば、ことさら丁寧な治療になっていく。そうして仕事に打ち込むほどに、自制的で研究熱心な人物だと、さらにティフォの評価が上がっていくのだ。
これなら前施設長に目を付けられて爪弾きにされていたときのほうが、まだマシだった。
あの時はどんなに疲弊しても、帰宅をすればムームがいたのだから。ムームの髪の毛に顔を埋めたい。ティフォは心から癒やしが欲しかった。
そんな中、ムームに似た毛色の地球人が運び込まれた。
黒い目と、黒い髪をしたオスの地球人だ。
それでも、それはムームではない。ティフォはたくさんの地球人を治療してきたが、気まぐれにでも連れて帰りたいと、一緒に暮らしたいと思ったのは、ムームだけだった。
どんな愛玩動物もムームの代わりにはなれないのだと、ティフォはこの日はっきりと自覚をした。
しかし、気付いたところでもう遅い。
胸にあいた穴を塞ぐすべが、ティフォにはなかった。胸の穴が求めるのは、ムームただ一人なのだから。
こうしてティフォは、昼間は研究室で働き、夜になるとムームを探して徘徊するようになっていた。
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