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52.穴から伸びる木
しおりを挟む静かに歩き続け、ようやくたどり着いたその木は、想像をはるかに超える大木だった。
若葉が気持ちよさそうに風にそよぎ、強い日差しに黒々とした影を落とす巨木。
その根元は噴火口のような穴の奥で、底が見えない。
しかし穴から上に伸びる部分だけとってみても、地球では大きな木に分類されるだろう。
もしかしたら本当に、この木を取りまくように山が形作られているのかもしれないと、俺は呆然と木を見上げながら考えた。
『えっと、ところで王様って、こう、地球での一般常識としては、城の中心で立派な椅子に座ってる感じなんだけどさ。こっちだとどうやってお目どおりするの? 俺、ちょっと緊張してきた』
俺の疑問に、ルルルフさんはいたずらっぽく笑って答えた。
「それなら、すでに目の前にいらっしゃいますよ」
『木しかないよ?』
「ええ。ですので、渡来人風にいうとこちらの木が、アキュース神さまです。なおかつ、このアキュース国の唯一の王様にあたるお方ですね」
まるで返事をするように、さわさわと枝葉が揺れる。風は吹いていない。無風だった。その様子はさながら木が体を揺らして笑っているように感じる。が、木は木だ。目鼻口があるわけではない。
『……木?』
「はい。地球でいうところの木ですねぇ」
『えっ、……えっ?』
「はい。渡来人のみなさまには理解が難しいことのようで、混乱するお気持ちは分かります。ですので、これは実地で体感してもらうことになってるんですよ」
からかっているわけではないらしく、ルルルフさんは至極真面目な顔で説明をしていた。それでも俺の頭の中では、たくさんのクエスチョンマークが飛び交っている。
『か、神さまって、こんなしっかりした実体を持って、会える人? 木? なんだ……?』
「地球での神さまの存在は、目に見えない、もしくはすでに亡くなっていらっしゃる過去の偉人であることが多いらしいですからね。例えばこの地面。この山全体。僕たちの家。遠い先祖。そのすべてをゼロからお造りになった存在を、地球では何と呼びますか?」
『……神さま、かな……?』
「ですよね! さ、あとは論より証拠。この国の神さまとご対面ですよぉ」
『えっと、平伏とか、しなくてもいいの? 偉い人なんだよね?』
「大丈夫ですよ。あの穴にうっかり落ちないように気をつけてくだされば、大丈夫!」
ルルルフさんがそんなことをいうから、俺はうっかり想像をしてしまった。
完全に尻込みしている俺の背中を、ルルルフさんは遠慮なく押してくる。
「はいはい、もう少し木陰に入ってくださいね。大丈夫、大丈夫、取って食われやしませんから」
へっぴり腰をぐいぐい押してくるルルルフさんに負けて、俺はおずおずと木陰に立った。
「だいたいアキュース神さまからしたら、ユーキがこの世界に落ちてきたときにすでに一度会っていますからね。緊張しなくても大丈夫ですよ。優しいお方ですから」
『そんなの、意識がなかったんだから、俺にとってはこれがファーストコンタクトなんです!』
「はいはい。じゃ、両手を手のひらに向けて、こう、水をすくうイメージで、はい、結構ですよ。あとは握りしめすぎないようにだけ、気をつけてくださいね」
俺があうあうしている間にも、ルルルフさんはさくさくと進めていく。
「この世界のこととか、第一発見者のこととか、知りたいことはこの機会に直接聞いて、すっきりしてきてくださいね。……ンッツオーニョ大佐が少し不憫に思えてきちゃって」
小さく耳打ちされて俺がちらりと後ろに目をやると、少し離れた場所に伏せをして待つオーニョさんが見えた。
たしかに耳も尻尾も力なくしょんぼりとしている。
耳の豪華な飾り毛もへにょりと垂れていて、その姿に心が痛んだ。
しかし俺にはまだ、なんと声をかけていいか分からなかったのだ。
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