53 / 187
53.金の繭
しおりを挟む立ちすくむ俺の目の前で、ちらちらと金粉が舞っている。
俺は妖精さんだろうかと目を瞬いた。なんだろう。体の前で広げている手のひらがくすぐったい。
隣ではルルルフさんが、しきりに手のひらを握るようにジェスチャーをしている。
次第に目が慣れてきたのか、よくよく見れば、金色の糸がふよふよと俺の手のひらをくすぐっているのが分かった。
金色の糸は、少し透けながら発光している。
それはクモの糸ほどの細さをした繊細な糸だった。
しばらくの間、俺は固まったまま手のひらを凝視していた。
なんとか金色の糸の先を目で追うと、巨木につながっているのが分かった。
視界いっぱいの巨木の枝葉から無数の金の糸が伸び、風にそよいではふわふわと揺れているのだ。
そのあまりに現実感のない美しい光景に、俺は言葉を失った。
そして、ようやくルルルフさんの指示を思い出し、やんわりと金色の糸を握りしめた。
『ユーキにとっては、はじめましてだね。私の庭に、ようこそ』
頭に響く甘い声。
思わずルルルフさんの顔を見ると、ルルルフさんはにこにこと笑っている。
俺は、木が喋ったことに驚けばいいのか、神さまと喋ったことに驚けばいいのか、美しい光景に驚けばいいのか、もう驚きのインフレーションが止まらない。
金色の糸は、そんな俺を宥めるように、そよそよとあちこちを撫でていく。
『それにしても。ルルルフ、君にしては珍しく、性急だったねぇ』
「すみません……」
殊勝にうな垂れるルルルフさんに、神さまは、ふむとひとつ相槌を打った。それから俺に話しかけた。
『この山全体が私自身なんだよ。だから、どうしても全部が伝わってくるんだ。いいことなのかどうなのか分からないけどね。……ユーキ。私は、ユーキの毎日が穏やかであることを願っているよ』
アキュース神さまはそういうと、優しく笑うように葉を揺すった。さわさわと優しい音色が広がる。
『ンッツオーニョのことは、許してあげて欲しいと思うけれど。それだって、無理するようなことではないからね。ユーキは、自身の幸せだけを願っていなくては』
『いえ。許すも何も。俺は、親切にしてもらってばかりで』
『では、何がユーキの足を掴んで離さないのかな。感じるんだ。君の半分は、まだ冷たい海の中にいる。それが、私は悲しい』
金色の糸が、俺のほほを撫でていく。
『分からなくて。自分でも。何なのかずっと分からないんです』
『もしかしたら苦しさのあまり忘れてしまったのかもしれないね。……私はかつて伴侶から、渡来人はみんな家族みたいなものだから助けてあげてと頼まれているんだよ。私はユーキのことも助けたい。だから、覗いても、いいだろうか』
俺が頷くのを見届けると、アキュース神さまはその金色の糸で、俺の頭を、ほほを、おでこを、背中を、俺のすべてを、撫でては包んでいった。
無数の金色の糸に包まれていく。
そうして。
金色に輝く繭が残されたのだった。
18
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
異世界転移しました。元天才魔術師との優雅なお茶会が仕事です。
渡辺 佐倉
BL
榊 俊哉はつまらないサラリーマンだった。
それがある日異世界に召喚されてしまった。
勇者を召喚するためのものだったらしいが榊はハズレだったらしい。
元の世界には帰れないと言われた榊が与えられた仕事が、事故で使い物にならなくなった元天才魔法使いの家庭教師という仕事だった。
家庭教師と言っても教えられることはなさそうだけれど、どうやら元天才に異世界の話をしてイマジネーションを復活させてほしいという事らしい。
知らない世界で、独りぼっち。他に仕事もなさそうな榊はその仕事をうけることにした。
(元)天才魔術師×転生者のお話です。
小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる