【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ

文字の大きさ
140 / 187

140.私のすべてはあなたのもの

しおりを挟む



 オーニョさんはもう喋るなとでもいうように、噛み付くようなキスを返してくれた。

 言葉を奪われ、息もできなくなるような、大人なキスだった。

 今まで何度かした優しいだけのキスじゃない。



 音を立てて、角度をかえて、何度もオーニョさんの舌が口内をなぞる。

 口の中で優しく暴れるオーニョさんの長い舌に、自分でも知らなかった官能を暴かれた。



 もうずっと性欲なんて消えうせていたのに。
 処理する必要すら感じなかった下半身が、ここにきて急に、キスだけで反応してしまった。
 恥ずかしい。いたたまれない。


 オーニョさんに下半身の変化を気付かれたくなくて、俺は小さく身じろぎをした。


 オーニョさんは唇を離して、俺の口からこぼれてしまった唾液をべろりと舐めた。

 金色の目の中心には、縦に細く引き絞られた瞳孔が、獲物を前にらんらんと光っている。
 エサを前にした肉食獣のように、グルルルと唸る喉。


 オーニョさんは、逃がさないとばかりに俺を強く抱きしめた。

 感情に引きずられて獣部分が強く現れているのか、オーニョさんの手には鋭い爪。 
 小さく布がさける音が聞こえて、我に返ったオーニョさんが手を離す。



「す、すまない……」


 そういうオーニョさんの口元には、鋭い牙が覗いていた。

 オーニョさんは、きっと簡単に俺の体をひき裂ける獣だ。

 だけど、少しも怖くはない。
 俺には、大きな獣が必死にすがりついているように見えて、ぜんぜん怖くなかったのだ。

 だって、俺はオーニョさんが優しいのを知っている。
 かっこよくて、誰よりもかわいい、俺だけの運命の糸だ。



 俺は離れてしまったこの少しの隙間が寂しいと、オーニョさんをぐいっと引っぱった。

 ついでとばかりに、ピーリャの中に両手を突っこむ。
 いつもピーリャで隠されている髪に、ずっと触れてみたかったのだ。



 オーニョさんの髪は、獣姿のときの毛並みと同じ感触で柔らかかった。

 俺は、直にかき混ぜピーリャを乱し、普段目にすることのない耳を探り出した。

 赤い髪に隠れる耳の根元を指でたどり、撫でさすり、ピーリャからこぼれた長い髪に口を寄せる。



 ときおりぴくぴくと震えるオーニョさんから、俺は目が離せなかった。

 犬猫に似たこの大きな赤い獣も、耳が気持ちいいのかもしれない。

 俺は夢中になってふかふかの耳を撫でた。



 オーニョさんは目元を赤く染めて、唇を噛みながらふうふうと荒い息をついている。

 その隙間から、鋭い牙が見える。

 オーニョさんの唇が切れてしまわないか心配で、俺はそっと指で唇をたどった。

 牙をたしかめるように撫でれば、オーニョさんははっと息をのんで牙を隠してしまった。



 綺麗だったのに、もったいない。

 オーニョさんのすみずみまで、見て、触って、もっとたしかめたい。
 もっと。



「すまない。少しでも怖いと思ったら、すぐに、逃げて、欲しい」



 オーニョさんは、迷うように目を伏せた。

 俺は下から覗きこみ、オーニョさんをまっすぐに見つめた。



「俺、オーニョさん、怖くない。好き。……いっぱい好き。オーニョさんの全部、俺のもの、でしょ?」


 俺がふにゃりと笑いかければ、オーニョさんは目を閉じて、大きく長いため息をついた。


「そうだ。もうずっと。出会った瞬間から、私のすべてはユーキ、あなたのものだった」

「嬉しい。俺の全部も、オーニョさんのもの。ね?」




 オーニョさんは俺を壊れ物みたいに優しく抱き上げて、隣の部屋のベッドへと運んだのだった。









しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

異世界転移しました。元天才魔術師との優雅なお茶会が仕事です。

渡辺 佐倉
BL
榊 俊哉はつまらないサラリーマンだった。 それがある日異世界に召喚されてしまった。 勇者を召喚するためのものだったらしいが榊はハズレだったらしい。 元の世界には帰れないと言われた榊が与えられた仕事が、事故で使い物にならなくなった元天才魔法使いの家庭教師という仕事だった。 家庭教師と言っても教えられることはなさそうだけれど、どうやら元天才に異世界の話をしてイマジネーションを復活させてほしいという事らしい。 知らない世界で、独りぼっち。他に仕事もなさそうな榊はその仕事をうけることにした。 (元)天才魔術師×転生者のお話です。 小説家になろうにも掲載しています

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...