婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国

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 わたしは思わず言葉に詰まってしまった。
 わたしがこういえば、お父様は納得すると思っていたから。予想外の反応に、わたしは何も言えない。
 皆が地味姫だとわたしを呼ぶから、わたしも皆が地味姫だとわたしのことをあざけるのだと、思い込んでいた。

 ――でも、お父様は、わたしを笑う側の人間じゃなかったのだと、今更ながらに気が付く。味方がずっと傍にいたのに、気が付かなかった自分が情けない。

「……領地の、子どもが将来の宝で、それを育てるのが素晴らしいことだと思うのは、本当です」

 そこに、嘘偽りはない。けれど――。

「孤児院に行って、第二騎士団で知り合った人たちに会えなくなるのはさみしいし、頼まれた仕事を、こんな形で終わらせてしまうのは、悔しい……」

「――!」

 わたしは侯爵令嬢。当主であるお父様が正しいと思う相手の元へ嫁いで、子供を作るのが絶対の仕事。そんなことは、分かっている。
 お金に困ることはないけれど、代わりに、前世のように自由があるわけじゃない。
 そんなこと、分かり切っているのに、せめて、と考えてしまうことがある。
 どうしようもなく。

「――オルテシア。顔を上げなさい」

 少しの沈黙の後、お父様が言った。わたしはその言葉に従う。
 顔を上げれば、先ほどよりは、幾分が表情を和らげたお父様がいた。

「少なくとも、今回の原因が分からない状態で、また第二騎士団へ行ってもいい、と言うことができないのは、分かるね」

「……お父様?」

 少なくとも。
 その言い方は、まるで、状況さえ整えば、また行ってもいい、というような言い方だ。

「それに、問題を起こした獣人が獣化している間は行かせられないし、同じような状況になった場合も、休まないといけないのも、分かるね」

 言い聞かせるようなお父様の声音。わたしは、その言い方に、どうしても期待を抱いてしまう。

「今日を含めて三日は最低でも休みなさい。怪我があるのだから、明日からまた、なんてことはさせられない。件の獣人の獣化もそのくらいで終わるだろうし――原因も、流石にそれだけ経っていれば特定できるだろう」

 その先の言葉を、わたしは、期待してしまう。

「事の原因と解決、相手の出方次第ではまた、第二騎士団へ行くことを考えてもいい。ただし、オルテシア、お前の怪我の状況も加味しないといけないが」

「――!」

 その言葉に、自分でも、気分が上向くのが分かる。
 怪我を――治さないと。わたし自身が大丈夫だったと証明するのだ。

 もう二度と、このまま皆とは会えないと思っていたから、少しでも、可能性に賭けて。
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